週明けから何が起きるのか。新型コロナ、臨時休校がもたらす親子の不安と孤立

    子どものケア、食事や居場所づくり、感染予防......。突然の臨時休校で、子育ての責任が家族だけに強くのしかかってくる。

    新型コロナウイルスの感染拡大を予防するためとして、安倍晋三首相は2月27日、全国の小中学校・高校・特別支援学校を臨時休校するよう要請した。

    要請された臨時休校の開始日は3月2日の月曜日。保護者は動揺し、自治体や学校は対応に追われた。

    週明けから何が起こるのか。

    「2年生で会おうね」

    「次に会うときは2年生だからね」

    2月28日、東京都内のある小学校の1年生のクラスで、担任教師がそう伝えると、泣き崩れる子が何人もいたという。

    鍵盤ハーモニカや道具箱など、本来なら学期末に数日に分けて持ち帰る荷物を両手にさげ、下校する子どもたち。心配して子どもを迎えにきた母親たちは、マスクをつけて立ち話をしていた。

    首相「子どもの健康と安全を」

    安倍首相は27日の新型コロナウイルス感染症対策本部会合で、「何よりも子どもたちの健康、安全を第一に考え」と発言したが、休校中の過ごし方や子どもの居場所、働く親への対応については、「こうした措置に伴って生じるさまざまな課題に対しては、政府として責任を持って対応してまいります」と述べるにとどまった。

    休校によるさまざまな影響が予想される中で、この要請は本当に、子どもの健康や安全を守るものだと言えるのだろうか。

    子どもの権利や保育政策に詳しい日本総合研究所の主任研究員の池本美香さんにBuzzFeed Newsが話を聞くと、自身の子どもたちの小中学校も週明けから臨時休校になるといい、動揺を隠せない様子だった。

    「なぜ臨時休校にするのかの説明が不足していて、親がどのように行動すればいいのかがよくわからないため、不安をあおってしまっています。こうした不安定な状況は、親子の孤立を招きかねません」

    親子の孤立とは

    池本さんが懸念するのは、9年前の東日本大震災で起きた福島第一原発の事故の直後のような「外出できない状況での親子のストレス」だ。

    放射性物質と同様、新型コロナウイルスも目に見えるわけではない。友達と遊ばせてもいいのか、塾や習い事には行かせてもいいのか、ひとりで留守番させておいて大丈夫か。

    これまでの日常や安心感が、「臨時休校」という緊迫感のある決定によって覆されたあとには、すべての行動が「親の自己責任による判断」として重くのしかかってくる。自分が判断を誤ったら子どもに何が起こるかわからないという怖さもある。

    「親が在宅勤務できる場合もあるでしょうが、そうすると、職場のことがよくわからない不安が生まれます。学校のことも、仕事のことも、感染症のこともわからない。わからないのに、毎日の暮らしの一つひとつを決めていかなければならない」

    「そのような不安定な状態の親と子がずっと家にこもることになるとしたら......それこそ、子どもの健康が心配です。新型コロナウイルスとは別の面で」

    家庭に丸投げ

    臨時休校は、春休みと同じ状況というわけではない。子どもが安心して過ごせる場所の選択肢が圧倒的に少ないからだ。

    放課後児童クラブ(学童保育)を朝から開所することにした自治体は多いが、もともと学童保育を利用しておらず、子どもが学校に行っている間だけパートやアルバイトで働いていた親にまで利用を広げられるかは、支援員らの体制による。

    新型コロナウイルスに感染したら重症化するリスクが高い高齢の祖父母に、子どもを預けることを躊躇する人もいる。

    さらに、感染拡大を防ぐため、公共施設は利用を制限しているところが少なくない。

    児童館も閉館や部分開館となり、屋内プールや体育館、グラウンドの開放をやめたところも。

    全国のこども食堂は続々と開催を中止し、無料学習支援教室も縮小傾向だ。学校給食も授業もなくなるため、ひとり親や生活困窮家庭の子どもの居場所や食事、学ぶ権利は奪われてしまう。

    「これまで地域の子育て支援として提供されてきたサポートやサービスが機能しなくなり、子育ての責任が家庭だけに丸投げされてしまいます。子どもが学校にいるはずだった時間帯まですべて家庭で担うのは、負担が大きすぎます」

    子どもがどうしたいか

    ただ、池本さんは「希望もあると思いたい」と言う。9年前と違うのは、コミュニケーションツールの発達だ。

    「保護者会が中止されても学校からメールでお知らせがきたり、保護者のLINEグループで情報交換ができたりします。中高生であれば子ども同士でSNSを使い、学校に行かなくても友達とつながっている状況をつくり出せるのは、いまの時代ならではの環境です」

    トイレットペーパーの品薄など、根拠のない情報がより不安を増幅させることもある半面、新しい形のコミュニケーションも生まれている。

    TikTokやInstagramには、友達との思い出をまとめた動画が中高生らによって多数投稿され、「卒業式がなくなって寂しすぎる」「鬼ほど泣いた」「普段は学校に行きたくないけど、今すごく学校に行きたい」などのコメントが投稿されている。

    「この1カ月ほどをどうやって過ごすのかは、子どもがどうしたいかを中心に考えていくとよいのではないでしょうか。親がすべて抱えこまず、気負いすぎないこと。親もコミュニケーションを閉ざさず、情報収集して孤立しないようにすること。そうした精神的な健康が、最も大事な時期ではないでしょうか」

    親たち、そして子どもたちにのしかかる負担をどこまで想定して、今回の臨時休校は要請はされたのだろうか。

    安倍首相は2月29日午後6時、記者会見を開き、休校要請の経緯や今後の対応を説明するとしている。