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「女の子よりも狙いやすい」と加害者 知られざる男児の性被害の実態とは

性被害に遭うのは女性だけではない。思春期前の男の子が狙われる要因は。男児の被害が明らかになりづらい理由とは。

性被害というと女性の被害者がイメージされやすいが、男性が子どものときに被害に遭うことも少なくないという。

加害者はなぜ、男の子を狙うのか。子どもに性加害を繰り返す人たちに聞き取りをした、大森榎本クリニック精神保健福祉部長(精神保健福祉士・社会福祉士)の斉藤章佳さんに話を聞いた。

表に出にくい男の子の被害

斉藤さんは加害者臨床を専門とし、東京都大田区の榎本クリニックで、性犯罪を繰り返す人を対象にした再犯防止プログラムのディレクターをしている。

2006年、性犯罪の再犯を防ぎ続けるためのプログラムを立ち上げ、2018年には、日本で初めて子どもへの性加害を繰り返す人に特化したプログラムを始めた。

2019年5月までにプログラムを受講した小児性加害者117人に聞き取った結果を、著書『「小児性愛」という病』にまとめた。

「外でひとりで遊んでいる子に『手伝ってほしいことがある』と声をかけて人目につかないところに連れ込んだんです。用意しておいたガムテープを口に貼ってズボンを降ろしたところ、その子が思った以上に嫌がって......。


結局、何もできずに解放したのですが、ひとりそこに残されたら怖くなったんですよ。このままだと自分はいつか子どもを殺してしまう、と」


これは、50代後半のケンタロウさん(匿名)が、斉藤さんに語った内容だ。本の巻末に収録されている対談から抜粋した。

ケンタロウさんは、中学生の頃から男の子への性加害行為を繰り返してきた。19年前、強制わいせつ未遂の罪で執行猶予付きの有罪判決を受けてから、東京都内で開かれている性的強迫症者の自助グループに参加している。

斉藤さんは「男児の性的被害の実態はあまり知られていませんが、表に出ていない被害も含めると、かなりあると考えられます」と話す。

男児の性被害には、強制わいせつや、写真を撮影される児童ポルノがある。男の子が標的になるのには、いくつかの要因があるという。

近づきやすい

斉藤さんによると「加害行為のしやすさ」は大きな要因だという。

「加害者は、自分の生活圏内で、人目につきにくい場所を選んでいます。犯行場所で多いのはトイレです。公園や駅、ショッピングセンターのトイレなど、子どもが保護者から離れてひとりになるタイミングを狙っているのです」

「男子トイレなら、大人の男性が個室に潜んでいても怪しまれることはありません。『ちょっと来てごらん』などと言葉巧みに個室に誘い込み、性器を触ったり、口淫させたり、半裸の下半身の写真を撮ったりといった加害行為に及びます」

どんな状況であっても被害者に責任はないが、女の子は幼い頃から保護者に「怪しい大人には気をつけなさい」などと言い聞かせられ、ひとりで行動しないよう注意されているのに対し、男の子にはそこまでの注意喚起がされていないことがある。

あらかじめ関係性をつくったうえで加害行為に及ぶケースも多い。保護者に警戒心を抱かせにくいという点でも、同性のほうが近づきやすいとも考えられるという。

「『男の子のほうが無邪気で素直』だから加害しやすいのだという加害者もいます。加害者は子どもの警戒心を解くのがうまく、巧妙に口止めをしますから、明らかになっていない被害も多いでしょう」

聞き取りをした117人の加害行為の主な内容は「性器を触る、触らせる」が44%と大半だった。

知らないうちに

被害者支援に携わる臨床心理士の齋藤梓さんによると、男の子は、自分が性的な被害に遭ったと認識していないケースが多いという。

「ズボンを下げられたり、自慰行為を強要されたりしたことについて、それが性暴力であると理解していない男の子や、周囲の人たちが少なくありません」

「また、寝ている間に撮影されるなど、知らないうちに被害に遭っていることもあります」

2017年2月、キャンプ教室の添乗員が、子どもが寝ている間を狙ったり薬を塗るふりをしたりしてわいせつな行為をして動画を撮影したなどとして、2つの男児ポルノ撮影グループが摘発された。被害児童は40人以上にのぼり、4〜13歳の168人だという報道もあった。

神奈川新聞によると、ツアーに参加した男児のほとんどが被害に気付かず、自覚があっても「恥ずかしくて親に言えなかった」と話していたという。

「成長してから行為の意味に気づいて、大きなトラウマを抱えることがあります。男の子にも日頃から、プライベートゾーンを触られたときのSOSの出し方などを、注意喚起しておくことが必要です」(斉藤さん)

「仕方なく」女の子に

前出のケンタロウさんは、このようにも語っている。

「僕の場合、幼い女の子がまったく対象にならないかというと、そんなことはないんです。胸が膨らんでいたり、アンダーヘアが生えていたりしたらもうダメなんですが、それ以前の子には興味がありました」


「当時の児童ポルノでも、12歳前後の男の子を描いたものは絶対数が少なかったんですよ(略)。思春期前なら男の子も女の子も見た目はそう変わらないので、嫌ないい方ですが、女の子を描いたコミックで妥協していたところもありました」


斉藤さんによると、女児、男児以外は対象にならないという「真性」の小児性加害者(単純型)もいれば、どちらも対象になるという人もいる。また、聞き取りをした117人の約半数(54%)に、成人女性との性交歴があった。

「聞き取りをした人の多くには、成人女性から相手にされないという挫折経験から、無条件に受け入れられたい、承認されたいという強い欲求がみられました」

「そのためには自分のほうが圧倒的に上の立場であることが必要ですから、より立場の弱い者を求める傾向があります」

小学生以下では、男児のほうが身体的にも精神的にも女児に比べて発育が遅く、加害者に言わせると「無邪気で素直」なことや、前述のように警戒心が弱かったり、被害の自覚をしづらかったりする傾向があることから、女児よりも支配下に置きやすいと考えているようだ、という。

半数にいじめられた経験

一方で、そのような思考に陥る背景として、見過ごせない聞き取り結果があった。約半数(54%)に、学生時代にいじめられた体験があったのだ。

ズボンを脱がされて女子の前で歩かされたり、筆で性器をいじられたり、同級生らの前でマスターベーションを強要されたりといった、悪質な性的いじめもあった。

虐待、親のアルコール依存など、適切ではない養育環境で育った人も36%いた。

親戚の男性から性器をもてあそばれる、親のセックスを見せられる、風呂場で酔っ払った父親から自慰行為を強要される、などの性的虐待を経験していた人も含まれる。

「飼育したい」という加害者

「成人女性のことを『怖い』という声は少なくありません。同年代の女性から拒絶されたり受け入れられなかったりした逆境体験が、圧倒的に弱い立場の相手を支配したい、征服したい、優越感を感じたいという欲求につながっていると考えられます」

子どもに性加害をする動機について、「飼育欲」「開発したい」「所有して自分好みに育てたい」といった言葉を使う加害者たち。

こうした強い支配欲が、子どもとセックスしたいという欲求を強固なものにする。そして、実際に加害行為につながるリスクがある、と斉藤さんは危惧する。

性犯罪の中でも、子どもへの性加害は再犯率が特に高いことがわかっている。

次回の記事では、逮捕され、出所した後も加害行為を繰り返してしまう背景に、何があるのかを紐解いていく。