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ノマドワークの出費は会社もち リクルートが「お茶代1日2000円出します」

カラオケも経費精算できるワケ


もう自腹を切らなくていい


営業のアポとアポの間が2時間、空いてしまった……。

会社に戻るのも中途半端なそんな時、落ち着いてPCを開けるようなカフェを探す人は少なくないはず。例えばスターバックス。トールサイズで370円(税別)のラテも、毎日のこととなるとチリつもでお財布に響いてくる。



自腹を切るしかなかった、ノマドワークのお茶代。それを会社負担にするというのが、不動産情報サイト「SUUMO」を運営する、リクルート住まいカンパニー(本社・東京都中央区)だ。10月からのリモートワーク本格導入に伴い、カフェで仕事をする際のお茶代を「場所代」として、1回500円、1日4回を上限に支給する。

これまで、取引先や同僚など複数人で打ち合わせをするためのお茶代は「会議費」として精算できていたが、一人で仕事をする時にも支給するというのは、リクルートグループ内でも初の試みだ。

「無駄にお茶をしてしまう人がいるのではないか、という心配はもちろんあり、導入までにはさまざまな議論がありました」

人事部ダイバシティ推進グループマネジャーの大庭千佳さんが、導入の経緯を説明してくれた。


全従業員がノマドワークOK


リクルートホールディングスは昨年から、雇用形態にかかわらず全従業員が、自宅やカフェ、サテライトオフィスなど「会社の外」で働けるようにした。

グループ企業も順次、導入しており、住まいカンパニーでも昨年8月からリモートワークを試験運用。すると従業員から、「落ち着いて仕事ができる場所を見つけるのが難しい」という声が上がった。

電源やWi-Fiといった設備、PCを広げられるスペースなど、会社の外でも仕事に集中できる環境を整えなければ、リモートワークは浸透しないーー。

「アポの合間にいったん会社に戻るより、近場で仕事ができたほうが移動時間を節約でき、生産性が向上します。その場所を確保するためにかかるコストは、従業員ではなく、会社が負担すべきだと判断しました」(大庭さん)


カラオケ店に行っても精算できます



地方では、適当なカフェを見つけることさえ難しい、という声もあったため、カラオケ店も「場所代」として精算OKにした。1回500円の上限を超えたぶんは自腹になるが、カラオケの個室で、ひたすら仕事に没頭できるというわけだ。

「サボっていない」「歌っていない」と証明するために、リモートワークの開始と終了、業務内容は会社に報告することになっている。「場所代」の領収書を提出する際には、どのアポの合間に利用したのかを明記し、前後の交通費と合わせて請求するというルールも設けている。

約1100人の従業員を対象に今年7月から試験導入したところ、想定よりも「遠慮がち」な請求額だったという。


会社にメリットはあるの


家計の見直し相談センター代表の藤川太さんは、「従業員の多様な働き方を応援する、先進的な制度」と評価する。

「いつでもどこでも仕事ができることで生産性が上がるうえ、オフィス内のスペースが空いて有効活用できるようになるため、会社にとっても悪くない。ただ、1日2000円の上限まで支給する場合、1カ月で1人につき約4万円。1人分のスペースのオフィス賃貸料に相当する額なので、かなり太っ腹といえます」

リクルート住まいカンパニーは、従業員が会社の外に出ることで得られる消費者目線、自己管理能力の向上なども期待する。さらに、モチベーションアップ効果もありそうだ。

自腹でやむをえないと思っていたお金が、戻ってくるわけだから。



会社員の場合、仕事をするうえでの必要経費(スーツ代などの名目)として、「給与所得控除」が年収から差し引かれたうえで、所得税や住民税が計算される。控除額は年収によって決まっており、職種や勤務形態は考慮されない。

つまり、働き方が多様化し、そのためにさまざまな追加経費がかかっても、それを会社が支給してくれない限り、自己負担が増える一方だ。例えば、インターネット関連の費用、ベビーシッター代や家事代行費など、仕事のためなのかプライベートなのかがグレーな経費は、実はたくさんある。

「従業員一人ひとりが働きやすい環境づくりに会社が理解を示すのか、自己都合だと切り捨てるのか。これからは企業の姿勢が問われてくると思います」(藤川さん)


在宅勤務の「経費」は?


リクルート住まいカンパニーも、在宅勤務のときの「場所代」の精算までは認めていない。会社員の場合、自宅でリモートワークをしながらお茶を飲んでも、夏場にクーラーをかけたとしても、自宅のWi-Fiと電源をめいっぱい使っても、自己負担だ。

「仕事にかかったぶんを切り分けて領収書を取れないので、難しいでしょう」(藤川さん)

9月27日、安倍首相が議長をつとめる「働き方改革実現会議」の初会合が開かれた。テレワークなど柔軟な働き方も含めた実行計画を、年度内にまとめる方針だ。