東京都目黒区で11月から、区立すべての小中学校、幼稚園から家庭への連絡手段として、スマートフォンのアプリが導入されました。
これまで主流だったのは、プリントや連絡帳、電話による"アナログ"な連絡手段。文部科学省が2020年10月、学校と保護者間の連絡手段をデジタル化するよう全国の教育委員会などに通知したことを受け、メールやアプリを導入する自治体が増えています。
都内ではすでに渋谷区、千代田区などがアプリを導入済み。保護者を悩ませていた「プリント地獄」は、デジタル化でどのように変わるのでしょうか。
「プリント地獄」からの解放
筆者は目黒区に住んでおり、中学3年生と小学3年生の子どもがいます。
上の子が小学校に入学してまず驚いたのが、学校で配られるプリントの多さと、アナログな連絡手段でした。
仕事ではペーパーレス化がされて久しいのに、ランドセルからは出るわ出るわ紙の束。B4やA4などサイズもバラバラで、一つの行事で数枚のプリントが五月雨式に届くことも。なくしたり忘れたりするのもしょっちゅうで、親子ともプリントに振り回されてきました。
また小学校では、欠席する場合に電話で連絡することは原則禁止されており、友達に「連絡帳」を預けて伝えてもらわなければなりません。保護者が順番に電話を回す「連絡網」もいまだにありました。
こうした連絡手段を効率化するため、目黒区が導入したのは、保護者連絡システム「C4th Home & School」。保護者がスマートフォンにアプリをインストールすると、学校や自治体からの連絡をアプリ上で受け取ることができるというシステムです。
さっそく登録してみたところ、子ども2人の登録にかかった時間は計10分ほど。11月から運用が始まり、学校からの連絡が届くようになりました。
どんなことができるのか、まとめました。
①お知らせ(学校 → 保護者、自治体 → 保護者)
これまで一斉メールで届いていた給食費の引き落とし連絡や不審者情報などが「お知らせ」で届くように。重要なプリントは「◯◯を紙面で配布しました」といったリマインドがくるので、子どもの出し忘れを防げてありがたいです。
②資料配布(学校 → 保護者)
学級だよりや給食だよりなど紙で配られていた「プリント」が、そのままの形式でPDFでアップされます。外出先でも受け取れるので、「水曜日までに半紙が必要」などとわかった時点で買って帰ることができます。
③検温報告(保護者 → 学校)
これまで紙の「健康カード」に記入していた毎朝の検温報告がアプリ経由でできるように。正直に言うと「健康カード」は子どもに記入させていたので、アプリ入力になるとつい忘れがち。慣れるまで毎朝アラームでリマインドしています。
④欠席連絡(保護者 → 学校)
連絡帳を友達に預けるしかなかった欠席連絡がアプリでできるようになったのは、レベル1から一気にレベル5にワープしたほどの便利さです。もっと早く実装してほしかった!
⑤アンケート(学校 ⇄ 保護者)
アプリ経由で回答するものと、プリントに掲載されたQRコード経由で回答するものがあります。回答するほうも楽になりましたが、集計作業の手間もかなり省けるのでは。難点は、プリントとアプリの両方で依頼がきたり、子ども2人分のアンケートが同時期にあったりすると、回答したかどうか混乱してしまうこと。
⑥写真閲覧(学校 → 保護者)
行事の写真をアプリ経由で閲覧できるようになるという連絡があり、感動しました。プリントに写真が掲載されていても白黒でつぶれていたし、学校に張り出された写真を見に行かなければならないこともあったので、期待が高まります。ただし、まだ実装はされていない様子。
プリントとアプリを併用
すでにアプリを導入している複数の自治体の教育委員会によると、アプリをどう活用するかは各学校の裁量に委ねているそうです。現状は、プリントによる連絡とアプリを併用している学校が多いようです。
目黒区教育委員会事務局の竹花仁志・教育指導課長は、その理由についてこう話します。
「コロナ禍では特に、保護者に確実に情報を届けなければならない場面が増えました。一方で、子ども自身にも伝えなければならない情報もあります」
「プリント配布には、教師が子どもに直接伝達するという指導の側面もあるため、すべてアプリに移行するのではなく、プリントとアプリの両方を組み合わせて運用するのが現実的でしょう」
子どもと向き合う時間を増やす
目黒区では、2019年に教育委員会事務局に「学校ICT課」を設置。区立の小中学校では2021年から、児童・生徒に1人1台のiPadを貸与して学習に利用しています。
それに先立ち、子育て家庭を対象に自宅のインターネット環境やデバイス保有状況を調査していました。不審者情報などを保護者に配信する一斉メールの加入率が100%近くになっていたことから、アプリへの変更に踏み切りました。
今村茂範・学校ICT課長は、デジタル化の利点として「教員の負担軽減」を挙げます。
「欠席連絡や検温報告を保護者がアプリに入力すると、リアルタイムで教室にいる先生の端末に届くため、朝の忙しい時間に連絡帳や健康カードをチェックする必要がなくなりました。そのぶん、子どもたちに向き合う時間を確保することができます」
ハンコも不要に
アプリの導入によって変わったことのもう一つは、「押印」がなくなったことです。
2020年10月に文科省が全国の教育委員会などに出した通知では、連絡手段のデジタル化とともに「学校が保護者等に求める押印の見直し」も求めています。
これまで、学校の書類では押印を求められることが多く、押し忘れると、たとえ書類に記入していても、サインをしていたとしても、無効とされてしまうことがありました。
「健康カード」に体温を記入したのに押印を忘れて娘がプールに入れなかったこと。補習の申込書にサインしかしていなかったために息子がいったん持ち帰り、ハンコを押してもう一度、学校に持っていくはめになったこと。保護者として不甲斐なさを感じながらも、釈然としないときもありました。
文科省の通知では「学校が、念のために押印を求めている場合もある」と、そもそも押印の効果を証明する必要があるような文書は限定的だとしています。そのうえで、「なりすまし回答を防ぐためには、デジタル環境がより望ましい」と、デジタル化に舵を切るよう求めています。
これまでの「常識」や「指導」と矛盾することに直面しながら、新しい取り組みを始めるのは決して簡単ではなさそうです。それでも、一斉休校などの大きな出来事を経て、学校現場はいま動き始めています。