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公用車での保育園送迎は「公私混同」→「問題なし」。そもそも保育園は「私用」なのか?

延長保育料も、休日出勤のベビーシッター代も自腹。だって子育ては「自己責任」だから......

自民党の衆議院議員で総務大臣政務官をつとめる金子恵美氏(39)が、保育園の送迎に公用車を使用していた、と6月29日発売の週刊新潮が報じた。

金子議員は同日朝、自身のブログで「運用ルール上は問題ない」と説明。総務省も「問題はない」という見解を示したが、金子議員は今後、公用車に子どもを乗せない意向だという。

金子議員はブログで、「私的な目的のために、つまり保育所の送り迎えを前提に、公用車を呼び出し使用したというような事実は一切ない」としている。

だが、多くの親は仕事をするために保育園に子どもを預けている。子どもを預けないと仕事ができないからだ。これは完全に「私的」な目的だといえるのだろうか。

経緯を振り返る

金子議員は1歳の子どもを、議員会館の中にある保育園に5月から預けている。議員事務所や総務省での公務の行き帰りに、公用車に子どもを乗せて保育園に預けたり、保育園から議員宿舎に帰ったりしていた。

また、足の悪い母親に新潟から育児を手伝いにきてもらった際、一緒に公用車に乗って東京駅に降ろしたこともあった。

これについて、週刊新潮は「公私混同」と「特権利用」を強調。

一般のママは、保育園に子どもを通わせるため、梅雨空の下をママチャリで頑張っているのだ。

その後、金子議員のブログや報道によって、総務省も「問題ない」との見解であることがわかった。公務と保育園が同じ場所で、移動経路も大きくはそれていないからだ。

フジテレビ「とくダネ!」では、コメンテーターとして出演した社会学者の古市憲寿さんと国際政治研究者の三浦瑠麗さんが「足の引っ張り合いはよくない」「これがダメなら母親が政治家になるのは無理」などとコメント。

Twitterなどでも、「自分は自転車で送迎しているが、許せないとは思わない」「日本はまだ子どもを育てるのが難しい環境」「ますます女性の国会議員が増えない」といった意見が広がっている。

仕事と育児の「グレーゾーン」

もちろん、子どもを育てること自体はプライベートなことだ。そして、仕事とプライベートを切り分けるルールも必要だ。

だが、少子化対策や女性活躍推進の流れで、仕事と育児の「両立」を支援する意識や制度、政策が生まれている現状を、どう考えればいいのだろう。個人の事情に配慮して負担を減らし、社会で能力を発揮できるようにするのが、安倍政権がめざす「一億総活躍社会」ではなかったか。

今回、週刊新潮がツッコミを入れたのは、仕事と育児の切り分けがしづらい部分での金子議員の振る舞いだ。似たような「グレーゾーン」は一般的にもある。

残業すると、延長保育料がかかります。

職員Aさん「今話しかけていいですか?」 私「すみません、定時過ぎてるので月曜で!」 Bさん「ほら残業代払わないと話聞いてくれないよ~この人(たぶん嫌味)」 私「いえ!保育園の延長料金の支払いとお迎えと夕飯食べさすのを代わってくれるなら今から話聞きますよキリッ✨」て返した週末。

休日出勤でも。働くための経費で赤字に。

認可外保育園で、駐車場は有料で、延長休日保育なしだからファミサポ使って、夫単身赴任で正直大赤字だけど、今は自分と夫のキャリア詰むためと、子供達が姉妹で色んな体験する投資の時期と捉えている。 今の時期を「こんなつもりじゃなかった」とかメソメソしながら過ごすの勿体ない。

税法上は「保育はプライベート」

子育てしながら働くための経費というと、保育料だ。認可保育園の場合は、国と自治体の補助金により、利用者の負担額は低めに設定されている。認可外の保育施設の場合は、原則は自己負担になる。

基本の保育料のほかにも、かかるお金がある。

保育の基本時間は午後6時台までと設定している園が多く、定時に退社したとしても迎えに間に合わない人もいる。そうすると、延長保育料を払うか、ベビーシッターなどを依頼するか、基本給が減るのを覚悟で時短勤務を選ぶかだ。

休日出勤の場合も、休日保育の追加料金を払うか、別の保育サービスを依頼することになる。これも自腹。

急な残業を命じられ、急いで保育園に向かうときにタクシーを使っても、もちろん経費としては認められない。

2人の子どもを育てている税理士の鈴木麻紗子さんによると、このように「仕事のためにやむをえない事情」があったとしても、税法上はあくまで「保育はプライベート」という考え方だという。

「税理士としては、保育料は経費にならない、としか言いようがありません。子どもを預けないと働けないわけですから、個人的には保育料も経費として認めてほしいのですが」

育児はプライベートの領域であり、保育施設に預けるのは育児の委託である。「事業に関連する支出」とはいえないため仕事とは切り分ける、という考え方だ。

こうしたルールが「子育ては自己責任で」という意識形成につながっている側面もあるのではないだろうか。

「シッター代」が社会を変える

一方、イギリスではベビーシッター代の大半を税額から控除できる。日本でも、女性活躍や子育て支援のため、シッター代を経費として控除できるようにすることが検討されている。

もともと「家事支援税制」として自民党が提言した案で、ベビーシッターや家事支援サービスの費用を対象にしていた。「働く女性を応援することが日本経済再生に寄与する」として、2014年に政府の成長戦略に反映された。

つまり、ルールはビジョンによって変更することができる、ということだ。ルールが変われば、意識も変わっていくのかもしれない。

子育ては”女のわたくしごと”ではない

金子議員の公用車の利用は、ルール上も「問題ない」ことだった。しかし、「公用車に家族を同乗させてよいのかというご批判に対し、改めて自身の行為を振り返り、真摯に受け止めたい」(金子議員ブログ)などとし、今後は子どもを同乗させない意向だ。

タレント、エッセイストの小島慶子さんは、BuzzFeed Newsの取材にこのようにコメントした。

「特権を利用しているというのは、特権に見合うだけの責任ある仕事をしているかどうかが問われるべきなのであり、特権を与えられていること自体を批判するのは筋違い。また、贅沢な特権なら批判は当然ですが、職場の保育園は、議員としての仕事を全うするためにも必要なものだと思います」

小島さんが家族と暮らすオーストラリアでは、子育て世代の議員が増えたことにより、「男女かかわらず、子育てを理由に議員活動を妨げられてはならない」として、昨年から議場での授乳が認められた。5月、制度ができてから初めて女性議員が議場で授乳し、画期的な一歩だと賞賛された。

日本では「子育ては”女のわたくしごと”だ」という考えが根強くある、と小島さん。

「子育ては趣味でも遊びでもなく、その人の人生の一部です。また、子どもという一人の人間の存在を社会が受け入れる営み、つまり社会を成り立たせている活動の一つです。働く人が安心して生活できる社会は、誰にとってもより生きやすい場所になります。こういった考え方を徹底的に浸透させるべきです」

「そこの考え方を変えないと国も本腰を入れないし、子育て世代も後ろめたさを感じてしまいます。政策が進まないのも、保育園建設に反対する人がいるのも、ベビーシッター代が経費として認められないのも、その視点が欠けているからではないでしょうか」

「子育てしながら社会のことを考える議員を、もっと増やすべきです。男女かかわらず、実感として必要な支援を知っている人の声を国会に届けるべきですし、それを声にしていいのだ、と議員にも勇気を出してほしいです」

金子議員は、ブログの終盤でこう述べている。

暑い日も、雨の日も、雪の日も、毎日保育所にお子さまを送り届けるために、多くのご家庭の皆様は大変な思いをしておられると思います。

私は、5月から保育所に子どもを預け始めましたが、この短期間にも、発熱した子どもを前に仕事を休めなかったり、高齢の親に頼らねばならなかったりという立場を経験し、世のご家庭はこのような思いをして頑張っておられるのかと、ひとつひとつ学ばせていただいております。

この日々の学びを忘れず、今後皆様をがっかりさせてしまうことのないよう、十分に注意してまいりたいと存じます。