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コロナ禍の出産、頼みの綱は夫。「育休を取得できた」という男性が増えた理由とは

感染予防のため、出産のために里帰りすることも、入院中に家族が面会することもできない。そんな孤独な出産の"最後の砦"となったのは「父親の育児休業」だった。

新型コロナウイルスの影響で、出産や育児の状況はどう変わったのか。

NPO法人「ファザーリング・ジャパン」と両立支援事業を展開する「スリール」が8月、全国の妊婦とその配偶者、子育て中の人たち計558人にアンケート調査をした。

コロナ禍の出産では、コロナ前に比べ、里帰り出産、入院中の家族の面会、立ち合い出産、両親学級などの希望が叶いにくくなっていたことがわかった。

一つだけ、「希望が実現した」と答えた人がコロナ前よりも増えた項目があった。父親の育児休業の取得だ。

父親の育休は "最後の砦"

育児休業の取得について、コロナ前には、希望していた男性は60%で、そのうち58%が「実現した」と答えた。一方、コロナ禍では、希望したのは52%で、うち67%が「実現した」と答えた。

「コロナ禍の病院に頼れず、県をまたぐ移動制限や高齢者の感染リスクを恐れて実家のサポートにも頼れず、第三者サービスにも頼れず、"最後の砦"として夫の育休に頼らざるを得ない実態によるものでしょう」

こう分析するのは、ファザーリング・ジャパン理事の塚越学さんだ。塚越さんは、子ども3人それぞれで育休を取得。「コロナ禍こそ、夫が育休を取ることを目指していただきたい」と話す。

育休を希望する人の取得実現率が増えた一方で、希望する人の割合がコロナ前よりもわずかに減っていたことについては、このようにも述べた。

「実現率が高くなったことを踏まえると、育休を希望する人がもっと増えれば、もっと実現できるのではないでしょうか。男性は、勇気を持って勤め先に申し出てほしいです」

厚生労働省の雇用均等基本調査によると、2019年度の男性の育児休業取得率は、7.48%。過去最高となったとはいえ、女性の83%と比べると、依然として大きな開きがある。

コロナ前と比べ、育休取得率が変化したかどうかはまだ明らかになっていないが、在宅勤務や短時間勤務など働き方の変化が、育休の取得状況に影響しているということは考えられる。塚越さんはこのように分析する。

「コロナ禍で、企業や業種によっては本業の稼働率が低下して人員に余裕ができたり、テレワークやフレックスタイムなど多様な働き方を認める企業が増えたりしていて、男性の育休取得を認めやすくなっている状況がうかがえます」

「また、男性が育休を取得すればその期間は人件費(給与や社会保険料)が浮くので、コロナ禍で厳しい企業にとってもコスト面で助かるといえそうです」

塚越さんによると、大企業を中心に構成する「イクボス企業同盟」に加入している48社が回答した「新型コロナウイルス禍前後の状況調査(2020年5月29日~6月30日)」では、男性の育休取得の質問項目で「平時より良化している」「平時の推進が効いて、平時の良い状態が今もKeepできている」を合わせると7割を超えていたという。

「先進企業が中心のデータであるため一概には言えませんが、当事者から『コロナ禍で里帰り出産ができないという理由で、夫の育休は取りやすかった』という声も聞かれています」

産後うつになっていたかも

このアンケートの自由記述では、父親が育休を取ったことでコロナ禍での出産を乗り切れたという声があった。

「育休を断念していたら妻は産後うつになっていたかも、と話していたから、取得して本当によかった」

「コロナ禍で親族のサポートがもらいにくく、私の育休がなかったらと思うと、妻一人でかなりの時間を子育てしなくてはならず、精神的にも肉体的にも苦しかったと思う」

面会も立ち合いもできず

実際、コロナ禍では、コロナ前の出産とは大きく事情が変わったことも、アンケートでわかった。

「パートナーや家族の立会い出産」については、希望した人はコロナ前もコロナ禍も83%だったが、希望が実現したという人は、コロナ前が87%だったのに対し、コロナ禍では40%。

「産後入院中のパートナーや家族の面会」も、希望した人はほぼ同じ割合だが、希望が実現した人は、コロナ前が91%だったのに対し、コロナ禍では20%になった。

両親学級や産後ケアサポートなども軒並み、希望の実現率が減っていた。

「里帰り出産」は、県をまたいだ移動になったり、高齢の親族と接することになったりするためか、コロナ前は43%が希望していたのに対し、コロナ禍では希望そのものが25%に減った。

コロナで一度も夫に会えず

ただでさえ不安な産前産後に、病院も実家も行政のサポートも得ることができない。母親がひとりで不安を抱え込む切実な様子は、自由記述欄に書かれていた。

「妊娠がわかった直後に夫が転勤となり、離ればなれに暮らしているが、コロナの影響で一度も会えていない。妊娠中から父親になる実感を持ってもらうためにも、勤務先には家庭の状況に配慮してほしかった(東京都)」

「6月に出産して、何も分からない最初の1カ月、赤ちゃんを外にも出せないのに親に手伝いに来てもらうこともできなくて、両親学級もなかったのでわからないことだらけで、とにかく不安で毎日泣いていました(東京都)」

「第二子出産のため東京から九州へ里帰り予定ですが、実家から感染者が出ると田舎の場合、すぐに広まって大変なことになります。そのため、帰省後はまず4 歳の長女とワンルームの狭いウィークリーマンションにて2週間(約16万円)、待機生活をすることになりそうです。臨月の身で、活発な長女と二人だけの生活が成り立つのか不安しかないです(東京都)」

子育てのスタートを母親だけが担うのではなく、赤ちゃんを迎える経験を家族でできるように、「ファザーリング・ジャパン」では父親の育休取得推進やオンライン両親学級などに向けた活動に取り組んでいくという。塚越さんはこう話す。

「企業では、妊婦には対応ができているものの、妊娠中の妻がいる夫への対応はまだ十分とは言えません。男性も、妻の産前産後をはじめ1カ月間は当たり前のように育休が取れるよう、引き続き企業に訴えていきたいです」

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「だって家族といたいから #育休を考える日」

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【配信】9月19日(土)17時〜 Twitter(@BFJNews)より生配信

【提供】積水ハウス株式会社