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男女10:1で性暴力事件が「不起訴相当」。検察審査会というブラックボックス

伊藤詩織さんだけではなかった。

11人の検察審査員の平均年齢は45.2歳。男性が10人で、女性はたった1人。

このような構成で、あるレイプ事件が審査された。議決の結果は「不起訴相当」。2018年1月、関東地方のある検察審査会でのことだ。

「こんなにも不平等な場だとは」

派遣社員のAさんは2016年3月、自宅で知人男性から暴言を吐かれ、望まない性行為を強要されたという。警察に被害届を提出し、強姦罪(当時)で告訴したが、不起訴処分になった。担当した検事は「強姦罪の構成要件である暴行脅迫の事実が認められない」と説明したという。

3カ月後、Aさんは検察審査会に不服を申し立て、その半年後に議決されたのが、冒頭の「不起訴相当」だった。不起訴相当と議決するには11人中6人以上の多数が必要と決まっているが、男性10人、女性1人の検察審査員が、どのような審査をしたのかは明らかにされていない。

しかも、この10:1の男女比は、Aさんが検察審査会に情報開示を求めたことで初めて明らかにされたものだ。

Aさんは、BuzzFeed Newsの取材にこう話す。

「不起訴相当になることはある程度は予測していましたが、それを決めたのが、こんなにも不平等で公平さに欠ける場だったとは。加害者が処罰されず、その審査も不透明であれば、被害者は納得できないまま泣き寝入りするしかありません」

Aさんがそう感じるのは、ジャーナリストの伊藤詩織さんにも同じようなことが起きていたからだ。伊藤さんは、レイプ被害を告白した著書『Black Box』で、こう書いている。

密室での出来事は『ブラックボックスだ』と担当検事に言われたが、日本の捜査や司法のシステムの中に、新たなブラックボックスを見つけることになった。

そもそも、自らが犯罪の当事者にならなければ、検察審査会という組織について知る機会はほとんどない。なぜ検察審査会がブラックボックスと言われるのか、Aさんと伊藤さんの例から考えてみたい。

検察審査会ってどんなところ?

検察審査会は、地方裁判所の中など全国165カ所に設置されている。

検察官が事件を不起訴処分にした場合、その是非を国民から選ばれた11人の検察審査員が審査する。

議決には3種類がある。

起訴相当=検察官の不起訴処分は間違っている。起訴して裁判にかけるべきだ(8人以上の多数)

不起訴不当=検察官の不起訴処分は納得できない。もっと詳しく捜査したうえで起訴・不起訴の処分をすべきだ(6人以上の多数)

不起訴相当=検察官の不起訴処分は相当である(6人以上の多数)

議決結果は申し立てた人らに通知され、検察審査会の掲示場にも貼り出される。だが、検察審査会法第26条により会議は非公開のため、審査の内容までは明らかにされない。

不起訴という「猿轡」

不起訴の理由には、犯罪の疑いがない「嫌疑なし」、証拠が不十分なときの「嫌疑不十分」、罪の軽さや和解などの状況から起訴が必要ないと検察官が判断する「起訴猶予」などがある。いずれも起訴されないため、裁判にはならない。裁判の結果による「無罪」とはまた別だ。

伊藤詩織さんの場合、事件があったのは2015年4月。8月26日に事件が書類送検され、翌年7月22日に嫌疑不十分で不起訴処分となった。

その間、複数のメディアに事件について何度も話したが、報じられなかった、と著書で書いている。

そして「不起訴」という言葉は捜査の末の「事実」として言い渡され、それが真実でなくとも、私の口を覆う猿轡(さるぐつわ)となった。

いったんは事件のことを忘れたいと思ったが、「どんな結果になろうと、可能性のあることは、すべてやってみよう」と、検察審査会に不服申し立てをすることを決めた。証拠開示請求の手続きをし、自ら再び証拠や証言を集めた。事件の夜に乗ったタクシーの運転手を探しあて、話を聞いた。

10カ月かけて情報を集めたり陳述書を作ったりして、検察審査会に不服を申し立てたのが2017年5月。姓を伏せて名前と顔を公開し、記者会見にのぞんだ。

しかし、9月21日に議決された結果は「不起訴相当」だった。

詩織さんの訴えに対して、検察審査会が不起訴相当の議決をしたと報じられていたので、どういう理由なのか見に行ったけど、議決書はペラ一枚で、理由らしい理由も書かれておらず……。審査補助員の弁護士も就かなかったみたいだ。

この議決に対して、伊藤さんにはいくつもの疑問が浮かんだ。

「タクシー運転手の証言やホテルの防犯カメラの映像も証拠として提出されたはずなのに、検察審査会で採用されたのかどうか。どういう話し合いがされてこの結果になったのか、さっぱりわかりませんでした」

ここでも、検察審査会法第26条の非公開の原則が立ちはだかった。

絶望していたとき、弁護士を通じて市民団体から連絡をもらい、検察審査会に対して情報開示の請求ができることを知ったという。

その結果、開示されたのは、検察審査員の男女比と平均年齢だけだった。男性7人、女性4人、平均年齢が50代だということはわかった。また、第39条の2で定められている「審査補助員」は選任されなかったという。

第39条の2 検察審査会は、審査を行うに当たり、法律に関する専門的な知見を補う必要があると認めるときは、弁護士の中から事件ごとに審査補助員を委嘱することができる。

伊藤さんは話す。

「検察審査会って名前はかっちりしているのに、とても不透明で曖昧な組織だと感じました。男女の割合が半々でもなければ、証拠が採用されたかどうかもわからない。これで公平さをのぞめるのでしょうか」

「裁判員裁判はオープンですが、不起訴になって裁判が開かれない場合は、すべてがクローズドで、とことん闇に葬り去られるのです。検察審査会は私にとって残された唯一の希望であり、日本の司法制度の最後の砦だと思っていたのに、ブラックボックスでした」

「各検察審査会の判断」の一点張り

検察審査会の不透明さについては、希望の党の柚木道義議員が国会で何度も質問している。

2017年12月1日の衆議院法務委員会では、伊藤さんの事件について東京第六検察審査会の審議経過や議決理由をたずねたが、「非公開」であることと「各検察審査会の判断」であるとして明言を避けた。

平木正洋・最高裁長官代理者はこのように答弁した。

「検察審査会法40条によりまして、検察審査会は、議決後に議決の要旨を掲示することになっており(略)、この議決の要旨にどの程度の記載をするかは、個別の事件ごとの各検察審査会の判断となります」

また「一般論として」と前置きし、情報開示に時間がかかる可能性があることや、検察審査員を選ぶプロセスを説明した。

そのプロセスとは、くじ引きだ。まず市町村の選挙管理委員会が毎年、選挙人名簿登録者からくじで計400人の検察審査員候補者を選ぶ。辞退を希望し、検察審査会で辞退が認められた人を除いたうえで、検察審査会事務局長が、地裁判事1人と地検検事1人の立ち会いのもと、さらにくじを引いて検察審査員を選ぶ。

「検察審査会法上、名簿を作成するにあたって、男性、女性の性別に着目したうえで、男女を半々になるようにというような規定はございませんので、男女の性別に着目することなく、くじ引きで選定しているということになります」(平木代理者)

日本の人口はどの地域もだいたい男女半々だが、くじの結果、男性10人、女性1人になるというAさんのようなケースは起こりうるのだろうか。性暴力の事件を審査するうえで、この男女比は問題視されないのだろうか。

公正なチェック機関を

2017年11月、伊藤さんが訴えているレイプ被害の捜査や検察審査会のあり方を検証する国会議員による「超党派の会」が発足した。

柚木議員はBuzzFeed Newsの取材に、「伊藤さんの民事裁判の経過を見守りつつ、超党派の議員連盟を発足させ、検察審査会法の改正案の提出に向けて動きたい」と話す。

「誰もが犯罪の被害者にも加害者にもなりえます。もみ消しやでっちあげの疑惑が生まれたとき、公正に判断する第三者機関が必要です。三権分立というのはお互いの領域を侵さないということではなく、お互い間違いを起こしうるから、チェックし合おうというもの。立法府も行政府も間違いが起こることを前提に、チェック機能を働かせることが大事です」

Aさんは、被害後にPTSDと診断され、心身の不調や通院のため、当時の仕事を退職。損害賠償を求めて民事訴訟を起こしている。

「不起訴処分になったということが、民事裁判でも影響するのだろうと予想しています。でも、このままでは納得できません。泣き寝入りはしたくないのです」

2017年9月、損害賠償を求めて東京地裁に提訴した伊藤さんも、こう話す。

「不起訴=無罪だと勘違いしている人もいます。実際、不起訴になると報道もされず、そのため性犯罪は可視化されず、サポートが増えない。性犯罪事件は少ないものだと見られてしまいます。日本では、不起訴の呪いはとても重いのです」


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