「数えきれないほど、何度も」担任に体を触られた小学生の母親が訴える、子どもの性被害をなくす"第一歩"

    ベビーシッターや教師から子どもが性的な被害を受けたという母親たちと保育事業者が、犯罪歴のチェックシステムを求めている。

    ベビーシッターのマッチングサービス「キッズライン」に登録していたシッター2人が、保育中に子どもにわいせつな行為をしたとして強制わいせつなどの疑いで相次いで逮捕された問題。

    これを受け、保育や教育の現場での性犯罪をなくすことを目指す保育事業者と保護者が7月14日、厚生労働省で記者会見を開いた。

    キッズラインに登録していたシッターから5歳の娘が被害を受けたという母親と、小学3年生のときに娘が担任教諭から被害を受けていたという母親も発言した。

    小児性犯罪の逮捕歴のある人物が保育や教育の現場に入りこまないようにするよう、イギリスで導入されている犯罪歴チェックシステムDBS(Disclosure&Barring Service)を、日本でも創設するよう求めている。

    犯罪歴のある人物が現場に戻れる仕組み

    「あろうことか、保育現場が性犯罪の温床になっています」

    認定NPO法人フローレンス代表理事の駒崎弘樹さんは会見でこのように述べ、特に小児わいせつは再犯の可能性が高いとされている点について指摘。

    逮捕歴がある人物であっても、一定期間を経ると保育現場や教育現場に戻ることができ、事業者側が犯罪歴をチェックすることもできない現状の制度を批判した。

    懲戒免職になった場合でも、教員免許は3年、保育士資格は2年が経過すると、再取得することが可能だ。ベビーシッターについてはそもそも資格が必須とされていないため「ほとんど規制がありません」(駒崎さん)という。

    性犯罪者の加害者臨床に携わっている精神保健福祉士・社会福祉士の斉藤章佳さんの著書『「小児性愛」という病』によると、小児性犯罪の問題で受診した性加害経験者117人のうち、16%が「子どもに指導的な立場で関わる仕事(保育士、教員、塾講師、スポーツインストラクターなど)」についていた。

    過去の犯罪歴に注目する背景には、事件を起こすような人物が入り込むのを防ぐのが難しいという現場の苦悩もある。

    病児保育シッターの派遣などをしているフローレンスの場合、保育者の登録時の面接や入社までのやりとりは複数人が担当。賞罰の有無の申告を求めるほか、適性検査を実施している。また、業務委託ではなく正規雇用とし、入社後の研修、巡回なども実施しているという。

    「幾重にも防止策を取っているが、性犯罪の傾向がある人を見分けるのは難しい。せめて自己申告ではなく犯罪歴のチェックができれば」と、駒崎さんは実情を吐露する。

    そのうえで、保育や教育の従事者が無犯罪証明書を提出するための仕組みである「日本版DBS」の創設について「これで100%の対策ではないとしても、被害に苦しむ子どもを1人でも減らすための第一歩となるはずです」と話した。

    「『痛い』と言ってもやめてくれなかった」

    キッズラインに登録していた男性シッターから5歳の娘がわいせつな行為をされたという母親は、被害の状況をこのように説明した。

    5歳と1歳の娘がいるこの女性は、新型コロナウイルスの影響で保育園が休園になったため、4月下旬からベビーシッターを利用していたという。キッズラインで親のほうから募集をかける機能を使って外遊びをさせてくれるシッターを探したところ、逮捕された男性シッターに預けることになったという。

    この男性シッターに預けて8回目の日、キッズラインから「この男性はもうサポートができなくなりました」という電話を受け、娘に「先生が来られなくなった」と伝えたときのこと。

    「娘が残念がるのかと思ったら、パッと表情が明るくなり、『よかった〜』と安堵している様子でした。まさかと思って詳しく聞き、被害に気づきました」

    外遊びに連れていった公園のトイレの中で、母親がテレビ会議をしている隣の部屋で、娘は男性シッターから体を触られていたという。

    「娘はされている行為の意味がわからないまま、『痛い、やめて!と言っても、やめてくれなかった』と。テレビ会議をしている私に訴えようとしたら、男性シッターから『ママはお仕事してるから入っちゃダメだよ』とも言われたそうです」

    「娘の被害に気づけなかったことがショックでした。もし知らないままだったら、預け続けていたかもしれません。娘が誰にも言うことができず、思春期になってから打ち明けられていたらと思うと恐ろしいです」

    「在宅していたのに起きてしまったので、親が不在の場合はどうなっていたのか......。一人で多数の児童に加害行為をしている人物もいます。一人の犯罪者のために多くの子どもたちの未来が奪われることがないよう、日本版DBSの創設を強く求めます」

    「がんばったね」と言いながら触る教師

    会見に出席したもう1人の母親は、娘が小学3年生だった2年前、担任の男性教師から性的な被害を受けたという。今年になって同級生の被害が明らかになったことがきっかけで、娘も被害を受けていたことがわかったという。

    休み時間や放課後の教室で、先生の机に呼ばれた。他の児童もいる中で、下着の中から体を触られた。それは毎日といっていいくらい、数え切れないほどの回数だった。クラスの他の子に先生は「放課後学習がんばったね」と言いながら触っていた。男の子も笑いながら触られていると話していたーー。

    娘から聞いたという信じられない被害の実態を、声を詰まらせながら語った。この教員はこの前年度、別の学年でわいせつ行為をしたとして保護者が学校に指摘していたこともわかったという。

    「性的な意味もわからないために抵抗することすらできないし、ましてや担任の先生には従わないといけないと思っている子どもたちです。幼さや純真さにつけこみ、繰り返しわいせつ行為をするのはあまりにも悪質で卑劣です」

    女性は、わいせつ行為で懲戒免職になった教員でも、3年経過後に教員免許を再取得できるということを知り、衝撃を受けたと話す。

    「いま子どもが通っている学校やこれから通う学校で、もしかしたら4年前にわいせつ行為で処分された教諭が働いているかもしれません。いまはそれが可能な社会だということですから、安心して子どもを学校に通わせることができません」

    縦割り行政の課題は

    創設を求めている日本版DBS(Disclosure&Barring Service)とは、子どもに関わる仕事に就業する際に「無犯罪証明書」を提出するための、犯罪歴のデータベースのようなシステムだ。

    すでに導入されているイギリスでは、子どもに接するサービスを提供する事業者からの照会に応じて、犯罪歴の証明書を発行している。

    また、8歳未満の子どもに1日2時間以上接するサービスに関わるすべての人は、Ofsted(Office for Standards in Education=教育水準局)という政府機関への登録が義務付けられており、その登録にはDBSの証明書の提出が必要となる。

    日本では現在、刑の確定については法務省、教員免許は文部科学省、保育士資格は厚生労働省、認定ベビーシッターの補助は内閣府、それに都道府県や自治体も関わっている。

    駒崎さんらは「縦割り行政で、各省庁に分散しているがゆえに対策が進んでいない面はある。民間から各省庁に統合的に訴えていきたい」として、署名活動をしているベビーシッターの会とも連携し、政府や行政に働きかけていくという。