共働きで2人の子どもを育てる夫婦が、5歳の子を自宅に迎えた理由

    さまざまな事情で親と暮らせない子どもたちを預かる「養育里親」は、親の出産や病気など短期間でも利用することができます。里親として子どもを預かっている共働き家庭を、福田萌さんと犬山紙子さんが取材しました。

    子育て中に親が体調を崩してしまったとき、下の子の出産で入院するとき、子どもと向き合うことに疲れてしまったとき。

    「少しの間だけ子どもを預かってもらえたら」というニーズにも対応してもらえるのが「養育里親」です。

    養子縁組とは異なり、「養育里親」には法的な親子関係はありません。実の親に代わって一定期間、子どもを家庭で預かって育てる制度で、数日間の場合もあれば、子どもが18歳になるまで長期間ということもあります。

    東京都内で「養育里親」として現在は5歳の子どもを預かっている長田淳子さん宅は、実の子ども2人がいる共働き家庭。中学生、小学生、5歳の3人の子どもたちがともに暮らす家は、どんな様子なのでしょうか。

    #こどものいのちはこどものもの」のハッシュタグを掲げ、虐待をなくすための活動をしているタレントの福田萌さんと犬山紙子さんが、長田さんに話を聞きました。

    福田萌さん(以下、福田) 「養育里親」とは、どんな制度なのでしょうか。

    長田淳子さん(以下、長田) さまざまな事情で家族と暮らせない0歳から18歳の子どもを一定期間、家庭に迎え入れて育てるのが「養育里親」です。

    施設には施設の良さがありますが、養育家庭では、子どもが特定の人と信頼関係や愛着を育みながら成長していくことができます。

    我が家にはいま、中学生と小学生の実子と、3年前からお預かりしている5歳の子がいます。

    家庭に帰れるのは約半数

    福田 フルタイムの共働き家庭で、長田さんは乳児院で働いていらっしゃるんですね。養育里親の登録をされたのも、お仕事がきっかけなのでしょうか。

    長田 はい、新宿区にある二葉乳児院で副施設長をしています。

    乳児院では、さまざまな事情で家族と暮らせない0歳から2歳ごろまでの子どもを預かっています。2歳以降、実の親に引き取られるのは5〜6割です。そうでない行き先としては児童養護施設、または里親などに委託することになるのですが、里親として手を上げる人があまり多くないことを知りました。

    私は乳児院で働く前は児童相談所で、虐待を受けた子どもの保護や家族の再統合を担当していたことがあります。一時保護所で、子どもたちはとても緊張していて不安そうにしています。住んでいた地域から離れた場所に保護されることも多く、これまで着ていた服や大切にしていた物を持ってこられない子もいます。自由に遊びに行ったり、学校に行けなかったりします。0歳の赤ちゃんを保護したときは、親とも会えないまま、これからこの子はどうやって生活していくんだろう、と心配になりました。

    施設には専門性の高い職員がいますが、職員は多くはシフト制のため、特定の子どもとずっと一緒にいられるわけではなく、子どもにとって特別な存在にはなりづらい実情があります。

    一方で、里親さんに引き取られた子どもたちがのびのび成長して、親から虐待や不適切な養育を受けていた子にも笑顔が出てくるようになった様子を目の当たりにしました。子どもに安全で安心な居場所をつくってあげたいという思いから、2016年に個人で里親登録をしました。

    学校にそのまま通える

    福田 実のお子さんもいらっしゃる中で、里親登録にあたり、家族とはどのように相談をされたのでしょうか。

    長田 実は、夫を説得するのに5年かかりました(笑)

    夫は厚生労働省で児童福祉の仕事をしているので、里親の必要性はわかっています。同時に、深刻な虐待を受けた子どもを受け入れることの大変さが想像できるために「うちにできるのか」という心配をしていました。

    共働きで、実子がいる家庭でも里親になれるのかという心配もあったので、まずは短期間の受け入れを条件に登録しました。

    短期間の受け入れを数年したのち、やはり仕事柄、長期の受け入れが必要な子どもたちの役に立ちたいという思いが強まりました。「この仕事をしていて受け入れない理由は何なのか」と夫を説得し、時間をかけて詰め切ったという感じですね(笑)

    犬山紙子さん(以下、犬山) 短期間から受け入れられるということを知らない人も多そうですね。

    長田 養育里親は数日間からでもOKだということは、もっと知られてほしいなと思います。

    私自身、下の子の出産のとき、早産で2カ月ほど入院することになったんです。実家が遠くて頼れないため、上の子の預け先を探し、自治体のファミリー・サポート・センター事業、乳児院の一時保護、子どもショートステイ(児童養護施設や里親家庭での一時預かり制度)などにお世話になりました。

    最初に里親として子どもを迎えるときは、そのときの経験を子どもたちに話しました。

    「お母さんが入院したりしておうちにいるのが難しくなったときに、子どもが安心して過ごせるような場所にうちもなりたいんだ」と言うと、上の子は理解してくれました。下の子は当時はまだよくわかっていなかったようで、初めて子どもがきたときには不思議そうにしていましたが。

    最初にきたのは中学生の女の子で、お母さんが入院している間にお預かりしました。うちにいる間も、転校することなくそのまま学校に通うことができ、お母さんのお見舞いにも行くことができました。

    犬山 子どもの環境が変わらないのはいいですね。家庭の事情で学校を休むことになると、友達と会えなくなったり悩みを言えなくなったりして、子どもがより孤立してしまう恐れもあります。里親さんが地域にたくさんいる状態になれば、家庭で困ったことが起きても、それ以外の環境は変えずに済むということなんですね。

    長田 そうなんです。子どもにとって、いきなり知らない遠くの地域に行くのと、そのままの生活圏で過ごせるのとでは大きな違いがあります。小学校や保育園を変えずに、子どもたちが慣れている場所で養育をつなげられるのが理想的です。

    保護者が体調を崩しがちであれば、毎週末、よく知っている里親の家に子どもを預けて休息をとるという利用の仕方もあります。

    近所のおばちゃんのように、気軽に、子育てにしんどくなったときに頼られるような存在として、養育里親が地域に増えていくといいなと思います。

    福田 新型コロナウイルスが流行していたとき、もしも夫婦ともに感染したら子どもの面倒をどうするかシミュレーションしたことがあるんですが、そういう場合にも利用できるのでしょうか。

    長田 親が感染し、子どもが陰性の場合、東京都では親が入院する医療機関に一緒に入院できるようにしていましたが、それも難しい場合には、施設や里親で子どもを預かるという体制になっていました。

    半年後に「母ちゃん」

    福田 なるほど、地域に里親さんがたくさんいてサポート体制があることがわかれば、子育てする親は安心できますね。

    ところで、実際に長田さんのお宅で預かり始めたとき、子どもたちの様子はどんな感じだったのでしょう?

    長田 私たち夫婦は里親になる覚悟はできていましたが、実子がどんな反応をするか、周囲にどんな説明をするのかという不安はありました。

    最初の半年ほどは「この子はいつまでいるんだろう」という疑問や不安が、実子のほうにあったようです。

    上の子は最初は、弟だと言われたくなくて、「弟じゃありません、末っ子です」と言っていたようです。「みんなにどんなふうに説明してるの?」と聞くと、「話せば長くなりますけど」と前置きしている、と。「それでも説明する」と言ってくれました。

    案外、子どもたちのほうが自然に受け入れているんですね。「1年もすればみんな気にしなくなるから大丈夫」という実子の言葉を聞いて、大人がどう思おうと、子どもは子どもの世界で多様な家族や友達を受容しようとしていることがわかり、心強かったです。

    福田 預かっているお子さんの様子はいかがでしたか?

    長田 いま預かっている子は、最初は私のことを「じゅんちゃん」と呼んでいました。頑なに「お母さん」と呼ばずに通していたようなのですが、半年くらいして「母ちゃん」「父ちゃん」と呼ぶようになりました。

    子どもにとって、生活の場がガラリと変わるのはとても大きなことなので、「ここは安心できて安全な場所なんだよ」と伝えてあげることがとても重要だと感じています。慣れるまでには時間がかかりますが、波長合わせのための時間は必要で、その経験をもとに次につなげることが、養育里親にとっては一番の役割なのかなと思っています。

    犬山 しかしまだ、里親の数は足りていないんですよね。登録するときの条件などを知りたいです。

    長田 2019年の登録里親数は全国で1万3485件。実際に里親家庭にいる子どもは5832人です(小規模住居型児童養育事業<ファミリーホーム>を含む)。

    2017年に制定された「新しい社会的養育ビジョン」では、就学前の子どもの里親委託率を75%以上にすることを目標としており、そのためには今の10倍の登録が必要とされています。

    福田 里親として登録してもすぐに子どもを預かれるわけではないそうですね。必要になった時に依頼がきて、そのときの里親家庭の状況によって受け入れるかどうかを判断することもできるんですね。

    長田 はい、子どもの年齢や地域、里親家庭の環境はさまざまなので、その子が安心して安全に生活できる場所を、たくさん登録されている里親家庭の中から選べるのが理想です。里親と子どものマッチングが非常に大切なんです。

    養育里親の場合には、法律上の婚姻関係の有無を問いませんので、単身世帯や同性カップルも登録することができます。子どもによっては男性がいないほうがいいケース、女性だと難しいケース、子ども自身が性的マイノリティであることもあるので、さまざまな家族形態があるほど、マッチングもしやすくなります。

    いまは一律の年齢制限もないので、子どもを育て上げた夫婦が養育里親として再び子育てに関わることも増えています。思春期の子どもを、おじいちゃんおばあちゃん的な存在で寛容に受け入れてくれていますね。

    子どもの事情や状況をある程度は把握した上で、里親家庭の希望を聞いて紹介するので、初めてでいきなり重い事情を抱えた子どもを託されるようなことはありません。委託後しばらくは元いた施設の職員らが、里親と子どもの双方から話を聞いてフォローしていきます。

    福田 海外ではホームステイや里親で生計を立てている家庭もありますが、日本ではどうなんでしょう。

    長田 アメリカなどでは施設ではなく里親が主流であるため、里親として得られる養育費などで生計を立てる職業里親も多いです。日本では、以前は里親手当が月3万円ほどだった経緯もあり、子育てすることで役に立ちたい、あるいは実子に恵まれず子育てを経験したいという方が多いです。

    里親を増やしていく流れで、短期的な養育も必要とされるようになったため、実子を子育て中の家庭や、現役世代の共働き家庭での受け入れも増えています。今は里親手当と生活費で月15万円ほどが支給されます(子どもの年齢や人数による)。

    福田 養育里親さんとしては、いつかは離れることを前提に、子育てをしているのでしょうか。

    長田 委託が短期間だと決まっているケースもあれば、長い期間もありますが、いずれも実親の状況が整えばおうちに帰ることになります。

    家族のように受け入れ、実子のようにかわいがって気持ちをこめて育てるので、おうちに帰るときに悲しくなるのは当然で、気持ちを整理しなければなりません。

    思い入れをしすぎると苦しくなるんじゃないかと悩む里親さんもいます。でも、里親が心から支えることで子どもたちが安心して成長できるので、里親さんの気持ちのほうのフォローをしていく必要があります。

    犬山 送り出した後も、里親と子どもは連絡を取り合えるのでしょうか。

    長田 直接、連絡をとることはあまりしないのですが、18歳で巣立った後、年末年始や困ったときに、親戚のうちのような感覚で帰ってくる子もいます。実親が頼れないこともあるので、戻れる場所があるというのは、子どもにとっては安心です。

    犬山 預かったけど合わなかったのでお別れするというケースもあるんでしょうか。

    長田 日本では、いったん里親が決まるとずっと同じ家庭にお願いするのが一般的です。それでも、子どもも里親も状況が変われば受け入れ続けられなくことはありますし、思春期に一時的に関係性が難しくなることもあります。

    一定期間、離れることで関係が元に戻ることもあるので、いったん施設で預かってクールダウンして戻す、ということもあります。悲しい別れにならないよう、子どもの状況に合わせた関係づくりが必要です。

    里親の支援が子どもの支援になる

    福田 里親と子どもの関係を、乳児院がサポートしてくれると聞きました。

    長田 多くの乳児院が、里親サポート事業をしています。乳児院から次の場所へ子どもの支援をつないでいくため、里親を探すことと、里親がしんどくならないように支えていくことの両輪を進める、里親養育包括支援(フォスタリング)という役割です。乳児院や児童養護施設などで経験を積んだ、里親支援専門相談員という専門の職員もいます。

    福田 委託後のサポートについて詳しく知りたいです。

    長田 今までまったく別の生活をしていた子どもを家族として受け入れるので、生活のペースやスタイルに慣れることがまず難しいです。さらに、虐待や喪失などさまざまな経験をした子どもは、夜眠れなかったり、食べすぎたり、いたずらをしたりといった行動が現れることがあるので、里親さんが、自分の育て方が悪いからではないかと悩んでしまうこともあるんです。自信を持って子育てできるようになるまでは専門性をもった職員が支えていくようにしています。

    また、子どもが成長すると、生い立ちをどう伝えるべきかと悩んだり、子どもの葛藤と向き合わなければならなかったりすることもあります。

    実子を授かれなかったことで養育里親を選択した人は、子どもに経緯を伝えることを通して、自身のつらい経験を思い出さなければならないこともあります。

    これらすべてのことに、里親になったからといって向き合わなければならないということではありません。里親さんにとっても、支えがなければできないことです。

    ですので、フォスタリングは、里親を支えることでもあり、子どもを支えることでもあるんです。専門家がまず里親さんの足場をしっかりと支えることで、里親さんに育てられる子どもたちが伸びやかに育ってくれるといいなと思います。

    福田 先ほどの長田さんのお話のように、実の親子ではないことで周囲からの見られ方を気にされる人もいるのでしょうか。

    長田 「かわいそうな子」「特別な子」だと言われてしまうのでは、という不安を抱えている方は少なくありません。フォスタリングでは、養育里親について地域の人たちに知ってもらう活動もしています。

    犬山 たしかに、養育里親について認知が広がれば、その人が養育里親にならなくても、受け入れ方は変わってくるはずですよね。

    長田 現状では、子育て支援のイベントなどでアンケート調査をしても、養育里親を知っている人は半分もいません。子育てに悩んだときや困ったときに、地域で相談できる存在になるといいのですが、圧倒的に知られていません。

    養子縁組についてはメディアでも発信されるようになってきましたが、養育里親の情報は目に触れる機会があまりなく、自治体や保育園の職員でも知らないこともあります。

    子どもを育てるのにはいろいろな形があるということ、里親が地域で生活していることをもっと知ってもらいたいです。多様性のある子どもたちを多様な家庭で受け入れていくため、専門性のある職員と地域の人たちで連携していけたらと思います。