玄関で正座して食べものを待つ子どもがいる。コロナ禍の「見えない被災者」

    長引くコロナ禍で親が仕事を失った家庭では、子どもの貧困が深刻です。若くて元気な夫婦が「収入ゼロ」で子どもが「1日1食」という実態を、犬山紙子さんと福田萌さんが取材しました。

    新型コロナウイルスの感染が子どもたちにも広がる不安の中で、コロナ禍では2回目となる夏休みが明けた。

    困窮家庭の子どもたちへの学習支援を行うかたわら、コロナ禍では食料支援をしているNPO法人キッズドアの渡辺由美子理事長は、「食べるものがなく、限界を迎えている家庭があります。本当に大変な状況です」と訴える。

    子どもたちに何が起きているのか。「#こどものいのちはこどものもの」のハッシュタグを掲げ、虐待をなくすための活動をしているタレントの犬山紙子さんと福田萌さんが、渡辺さんにオンラインで話を聞いた。

    「貯蓄ゼロ」「お米がない」

    犬山紙子さん(以下、犬山) コロナがおさまる気配がなく、ひとり親世帯などの子どもたちが心配です。渡辺さんたちが支援している家庭はいま、どういう状況なんでしょうか。

    渡辺由美子さん(以下、渡辺) コロナの長期化により、本当に大変な状況になっています。

    さまざまな要素がありますが、子育て世帯にとっては、2020年春の一斉休校の影響は大きいものでした。

    休校になったときに仕事を休めたり在宅で勤務できたりした親もいますが、非正規雇用であれば、仕事をしたぶんしか給料をもらえません。ひとり親であれば、子どもの面倒をみながら仕事をすることはできません。

    オンラインで学習機会が提供された学校や地域もありましたが、家庭にパソコンやタブレット、そして通信環境が整っていなければ利用できません。また学校が休みだと、給食の提供がなくなります。

    これらのすべての点で不利になったのが、子育て中の困窮世帯です。

    「来月は収入がゼロになる」「お米を買えない」「パソコンがないので宿題ができない」ーー。こんな悲痛な声を毎日のように聞いています。

    「コロナ後は1日1食」

    渡辺 高校生までの子どもがいる登録世帯にアンケートを実施したところ、1469件の回答がありました。

    そのうち、年収が200万円未満の家庭が65%、300万円未満だと88%を占めています。

    貯蓄が10万円未満の家庭が過半数で、その多くはさまざまな借り入れをして日々しのいでいます。

    夏休み中の子どもたちの食事に不安を感じていた家庭は87%にのぼったのですが、実際「まともにご飯を食べられていない」という家庭がすごく増えています。

    「コロナ後から1日1食に慣れました」「子どもを優先にしているので自分は食べられていなかった」といった親の声もありました。

    福田萌(以下、福田) 子どもに食べさせるために親が......。つらいです。

    犬山 現金の給付が早急に必要だと感じますね。実際、国の給付は十分だと言えますか?

    渡辺 全然足りないですね。2020年にすべての人に10万円が給付された「特別定額給付金」で夏を乗り切ったという人は多くいましたが、夏を越えるとなくなってしまって、仕事も見つからないままだという人もいます。

    深刻なのはひとり親世帯だけではありません。たとえば夫婦でイベント業をやっていたりすると、働く意欲はあるのに営業ができず、収入がなくなります。

    2020年12月に、児童扶養手当を受給するひとり親に子ども1人あたり5万円の臨時特別給付金が出ましたが、このときはひとり親以外の世帯には「給付の仕組みがないから」ということで出ませんでした。

    2021年3月にようやくひとり親以外の困窮世帯にも広げられましたが、新年度には給付が間に合わず、入学金が払えない、制服を買うためのお金がないという家庭もありました。

    見えにくい"被災者"

    犬山 コロナによる経済的被害が長期化して、昨年よりも状況は悪くなっているのに、給付の動きが鈍いように感じてしまいます。困窮世帯の実情は理解されていないのでしょうか?

    渡辺 同じコロナ禍という状況でも、仕事や世帯の事情によって深刻度が違うからだと思います。隣の人が大変だったとしても、想像しづらいのかもしれません。 

    正社員でテレワークができて、コロナ前とほとんど収入が変わらない人もいる一方で、まったく仕事がなくなって貯蓄が底を尽きた人がいます。

    元気そうだし、若いし、意欲的に見える人が、年金を受給している高齢の方よりも困窮しているということがあるんです。災害などが起きたら一番に助けに行くような現役世代が、実は"被災者"であるということが伝わりづらいんですね。

    元気で意欲もあるのに働けないという現実は、本人にとっても受け入れ難いものです。家賃を滞納し、食費も尽きたのに、生活保護を受けることには抵抗がある。働けないのは自分の「不甲斐なさ」だと感じた父親から家族への暴力につながるケースもあります。

    「お米を買うお金がない、と夫に相談すると暴力を振るわれる。死にたくなるけど、子どもの寝顔を見ると死ぬわけにはいかないので、ただただ泣いています」。そんな相談を受けたこともあります。

    犬山  "被災者"という言葉に胸が詰まります。DVや虐待などは、コロナが去ったからといって解決するような一過性の問題ではない気がします。面前DVによって傷つく子どもたちもいるはずで、精神的に追い詰められていくのではと心配です。

    2020年度に全国の児童相談所が対応した児童虐待の相談件数は20万5029件で、初めて20万件を超えたと厚生労働省が発表していました。

    警察との連携強化や、在宅が増えたことによる相談件数の増加など、虐待そのものが増えていると一概には言えないかもしれませんが、実際ストレスを抱えた家庭はたくさんありそうです。

    起きなかったはずの虐待

    渡辺 コロナ禍で起きている虐待の中は、お金があれば起きなかったはずの虐待もあるんです。家庭にいられず、シェルターに避難した母親もいます。コロナ前までは幸せな家庭だったのに、コロナのせいでそうなってしまうのは悲しいです。

    お金がないことは、さまざまな不利につながっていきます。表面的には、親が面倒をみていないように見えますが、中で起きているは本当にサバイバルなんです。

    自宅にパソコンがなく、親のスマホ1台だけで通信環境も整っていないような家庭では、オンラインで宿題を出されてもやりようがありません。「近所のコンビニでWi-Fiにつないでようやく見せたけど、印刷して提出しなければならない場合にはどうしようもない」というような。

    子どもに食べさせてやれない、勉強をみてやれない、という自責の念や先行きの不安から、メンタルに問題を抱える親も少なくありません。

    薬を飲むと動けなくなりご飯が作れないので、それがまた不甲斐なくてより精神的に追い詰められるという悪循環です。

    犬山 「親がちゃんとやらないからだ」「頑張りが足りない」などと責められると、助けを求めることもしづらくなってしまいますよね。

    渡辺 そうなんです。そうやって孤立してしまうと、困窮家庭では選択肢がなくなるんですね。よくない道だとわかっていても、選びようがないんです。

    現金がないからクレジットカードにする。今すぐ払えないからリボ払いにする。キャッシング枠を使う。全部使い切ってしまうと、高い利子がついた借金をする。

    余裕があるときには、無利子の貸付や、なるべく利子が安いものを選ぶことができますが、明日どう生き延びようというときには審査を待つこともできず、高利子であっても目先の現金を借りざるを得ないんです。

    すると、最初は少しお金が足りなかっただけなのに、どんどん悪いほうに悪いほうに転げていって、結果としてはすごく深刻な状態に陥ってしまう。

    そうした家庭の子どもの中には、親の代わりに家事をやらなければならず、学校に行けなくなった子もいました。「自分が学校に行っている間にお母さんが死んじゃうんじゃないか」と不安で、学校から足が遠のいた子もいます。

    「食品をたくさんありがとうございました。全部好きなものばかりでうれしかったです。お母さんも笑顔になったのでよかったです」と子どもの字で書かれたハガキが届いたことがあります。

    お母さんがハガキを送ることもできない状態になっていて、子どもが「また食品を送ってもらえるんじゃないか」と気を使って必死にハガキを書いている姿を想像すると、子どもをここまで追い込んでいるという現実に打ちひしがれます。

    負のスパイラルを防ぐために

    犬山 そうなる前に未然に防がないと、誰も幸せにならないですよね。

    渡辺 そうなんです。いきなり100万円の支援をしてほしいという話ではなく、使える現金が少しでも手元にあったら...という話なんです。ほんのちょっとのお金によって救われることがあるんです。

    福田 こうした問題は、感染者数やワクチンの報道の陰でなかなか光が当たらず、当事者も声をあげるすべがないように感じます。負のスパイラルを防ぐために、私たちに何ができるでしょう?

    渡辺 キッズドアでは、困窮家庭に食料を届けるための寄付をクラウドファンディングで募っていましたが、同時に行政に対して、困窮家庭への給付をずっと働きかけてきました。

    最も効率がいいのは貸付ではなく、現金給付です。なるべく早く給付するのが重要で、遅れれば遅れるほど事態が悪化します。コロナはまだ長引くことが予想されるので、12月と年度末の給付を補正予算に盛り込んでもらえないかと働きかけています。

    犬山 今すぐやれば助かる人がいて、これ以上ひどくなることも防げるので、早急に実現させたいですね。

    渡辺 はい、待ったなしです。この夏の後半になって、メンタルの調子が悪い人がますます増えています。コロナで陽性になる人も出てきて、仕事にも買い物にも行けないという人や解雇された人もいます。

    療養期間中は保健所がケアをしてくれるかもしれませんが、終わった後は誰も気にしてくれる人はいません。陽性になった人に、仕事は大丈夫なのか、貯蓄はあるのか、子どもの面倒は誰が見るのか、と声をかけて支援に結びつけるような行政の連携も必要だと感じます。

    夏休みが明けて、子どもたちはみんな学校に行っているものだと思っている人が多いでしょうが、それができない子どもがいることをぜひ知ってほしいです。

    ずっと自宅にいて、ピンポンが鳴ったら「食品が届いたのかも」と走っていって、ハンコを持って玄関で正座して待っている子がいるんです。親を助けるために家事をしている子、勉強したくてもできない子がいるんです。

    コロナで家庭が大変だったことで、子どもが人生を棒に振るようなことはあってはならないことです。

    福田 子どもたちのために何か自分にできることはないかと考えている人もいるはずで、そうした声をもっと可視化していきたいです。

    渡辺 先日、若者や現役世代を含む全体の投票率を75%以上にすることを目指すプロジェクトを複数の団体とスタートさせました。子どもに関する政策が後回しになっているのは、声が上がりにくいから。安心して子どもを育てられる社会を望んでいるのだという有権者の意思を政治に届けたいです。

    犬山、福田 選挙は意思を表明できる機会ですね。子どもの命に関わることの優先度を上げてほしいと思っている人がたくさんいるのだと知ってもらうために、私たちも声を上げていきたいです。