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宿題でフェイスシールドづくり、やらなきゃいけないの? 休校中の家庭学習に疑問

ハンカチを縫ってつくるマスクに、クリアファイルでつくるフェイスシールド。休校中の宿題には謎のものもあります。

臨時休校中の家庭学習として、手縫いマスクやフェイスシールド制作という宿題を出している学校がある。

クリアファイルを頭にかぶる

東京都内のある公立中学校では、技術科の臨時休校中の課題として「マスク・フェイスシールド作り」が出された。

マスクは手縫いのもので、参考資料として、徳島県教育委員会が公開している動画をあげている。

フェイスシールドは、新型コロナウイルスに関する情報を集めた非営利のウェブサイトが紹介している作り方が示されている。A4のクリアファイルに型紙を入れてガイド線に沿って切ると30秒で作れるというものだ。

生徒はどちらかを選んで制作したうえで、工夫した点や大変だった点、装着して感じたことなどをプリントにまとめ、制作物とプリントを学校再開後の最初の授業で持参するようにという指示があった。

フェイスシールドを制作したある中学生は、「内から見ると外の景色がくもっていて見えにくかった」「かぶっていると暑くて熱中症になりそうでした」と感想を書いていた。

同様の宿題が出された別の公立中学校では、手縫いマスクを選んだ中学生の母親が、「親の負担が大きかった」と話す。

「家にあるもので作るということでしたが、ゴム紐もなく、Tシャツについていた紐で代用しました。薄手のハンカチでも重ねると針がなかなか通らず、縫うのも材料を探すのも、結局は親が手伝わなければできませんでした」

フェイスシールドに関しては、いくつかの学校で児童や生徒に装着させる動きがあるものの、医療者からは「過剰だ」との意見が上がっており、文部科学省が発表した学校における衛生管理マニュアルでも言及されていない。

手作りしたマスクやフェイスシールドを学校で装着させるという指示はないものの、そもそも中学生の宿題としては適切なのだろうか。BuzzFeed Newsは教育研究家の妹尾昌俊さんに聞いた。

「どういうねらいの宿題なのか」

「手縫いマスクやフェイスシールドの宿題そのものの是非は判断しかねますが、気になるのは、どういうねらいでその宿題が出されているのかが、明確ではないことです」

妹尾さんは、学校と保護者の間の認識の違いやコミュニケーション不足が、宿題をめぐる不安や混乱を招いているのではないか、と指摘する。

休校中の家庭学習をめぐっては、宿題の量が「多い」「少ない」、時間割の指定があって「細かすぎる」、何も指示がなく「おおざっぱすぎる」など、自治体や学校による差もあれば、保護者の受け止め方も千差万別だった。

「教科書の一部をノートに写しなさい」「外国の映画を観なさい」「ラジオ体操をしなさい」などといった、新しい単元の指導ができないための苦肉の策とも取れるような宿題もあれば、教科書を参照しながらまだ教わっていない単元の問題を解くという難易度の高いものもある。

休校中の宿題は「評価に反映」

文科省が4月10日に各都道府県の教育委員会に出した通知によると、宿題については、「指導計画等を踏まえながら、主たる教材である教科書に基づく家庭学習を課すことが求められること」とある。

「教師がその学習状況や成果を確認し、学校における学習評価に反映することができる」とも記されており、休校中の宿題は、評価の対象になる可能性があるという。

また、「家庭学習によって十分な学習内容の定着が見られた場合、再度、学校での対面指導で取り扱わないこともできる」とも通知しているため、「この宿題は評価されるのか?」「宿題をやらないと授業で取り残されるかもしれない」などと、生徒や保護者の不安を招く一因になっている。

こうした背景もあって休校中の宿題の定義は曖昧になっており、妹尾さんは「宿題を出すこと自体が目的化してはいないでしょうか」と指摘する。

「どのようなねらいでその宿題が出され、どのように評価され、学校の指導にどうつながるのかの全体像を、学校と家庭が共有できていないことが問題です」

「評価や内申書に響くから宿題をやれ、という指示では、受動的にしか学ばない子どもを増やしてしまいます。宿題は、単におすすめの教材として提案するくらい、ゆるいほうがよいのではないでしょうか。もしくは、決まった宿題を出すにしても、自ら学ぶことが難しい子へのフォローをもう少しすべきです」

子どもの安全に過敏

また妹尾さんは、学校の感染予防対策が、過剰な方向にいきがちな点も指摘する。

「最新情報を収集できている教員ばかりではなく、まして医学的な知見があるわけでもありません。一方で、子どもの安全については過敏なところもあり、少しでもマシになるならやったほうがよい、という考えから、感染対策の業務が過多気味になりがちです」

コロナ前からの問題が顕在化

妹尾さんは5月、小中学生の保護者に向けて、休校中の家庭学習に関するアンケートを実施した。公立の小中学校では、「子どもが課題にイヤイヤ取り組んでいたと思う」という回答が約半数だった。「課題を出した後、先生からのフォローは特になかった」という声も約半数あった。

こうした結果から妹尾さんは「コロナの前からあった問題が、コロナによって顕在化したのでは」と分析する。

「子どもの習熟度や学力はバラバラなのに、評価に使うとなかば脅して一律の内容と量の宿題を出していたという問題は、コロナ前からありました。今回の長い休校によって、その悪い側面がより表面化したと思います」

「日頃からの教員と保護者のコミュニケーション不足も、休校中にいっそう進んでしまったと感じます。学校によってはオンラインで生徒と面談したり保護者会をした例もありますが、おそらく少数でしょう」

妹尾さんは、学校がもっとオープンに、保護者や外部の情報を取り入れることが必要だ、と話す。

「学校はプリントまたは一斉送信メールなどで情報発信をしていますが、双方向性はとても脆弱な機関です。宿題についても、感染予防策についても、普段からなるべく多くの声を取り入れて、子どもが主体となった学びを一緒に考えていくべきだと思います」

緊急事態宣言が解除され、6月1日からは多くの学校が再開する。すでに東京都をはじめ、夏休みの短縮を決めている自治体も多い。休校中にわかった課題をどう解決していくのかが、これからの学校のあり方や、非常時の対応にも関わってくる。