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Updated on 2020年7月28日. Posted on 2020年7月21日

セクハラを知った中間管理職は何をすべきか。声をあげたストライプ社員と語った「私たちの反省点」

「私も加害者だったのかも」と実名で声をあげたストライプインターナショナルの二宮朋子さん。同じ就職氷河期世代として、ダイバーシティに取り組む管理職の一人として、いま思うことを語り合いました。


「会社でのセクハラに声を上げられるか - とある社員が思うこと」

ある企業で、トップによる社員らへのセクシュアル・ハラスメントが報じられた約2カ月後。その企業の社員による漫画と文章が、note「パレットーク」に掲載されました。

パレットーク / 漫画でわかるLGBTQ+ / Via note.com

この企業は、人気アパレルブランド「アース ミュージック&エコロジー」などを展開するストライプインターナショナル。2020年3月、創業社長の石川康晴氏による複数の女性スタッフへのセクハラ行為が報じられました

石川氏は「世間を騒がせた」として社長を辞任。役職はなくなったものの、今なお同社の大株主です。セクハラ行為については認めていません。

この漫画の制作に関わり、原稿を寄せたのは、ストライプインターナショナルでSDGsやダイバーシティを担当していた二宮朋子さんでした。

ダイバーシティ先進企業で......

私は、二宮さんとダイバーシティ&インクルージョン(D&I)に関する情報交換をするため、2018年10月に東京・銀座にあるストライプ社の本部を訪れていました。

同社の廊下には、個性豊かに働く人たちの写真が貼られていました。さまざまな色や形の線で構成する「ストライプ」のように、スタッフの多様性を尊重しているのだと二宮さんから教えてもらい、とても共感したことを覚えています。

D&Iに関する取材をしていると、この分野で先進的な取り組みをしている企業がいくつか思い当たります。ストライプ社もそうでした。そこでダイバーシティを担当してきた二宮さんにとって、これまで積み上げてきた社内外の信頼が、トップによって一気に崩されるということが一体どういうことなのかーー。

実は私にも、似たような経験として思い当たることがいくつかありました。二宮さんにメールを送り、会うことになりました。

世の中で起きていることを発信

Akiko Kobayashi / BuzzFeed

にのみや・ともこ / 慶應義塾大学を卒業後、地方テレビ局、教育機関のアナウンサー、新聞社を経て、2011年ストライプインターナショナル(当時はクロスカンパニー)に入社。2012年より人事部課長として新卒採用と教育を担当。出産を機に、早稲田大学大学院にてMBAを取得。2017年新設のダイバーシティ推進室で責任者としてLGBTQ+に関する社内制度を設計。2019年2月よりSDGs推進室室長。2020年5月経営企画室へ異動。社内外で女性活躍やダイバーシティ、SDGsに関する講義や「ママMBA」などのトークイベントを行っている

ーーお久しぶりです。漫画、読みました。ダイバーシティやSDGsの分野では業界を率先していた御社でのハラスメントによる問題は、とてもショックでした。

報道があってから、そういう反応をそれはもうたくさん、いただいています。

私はストライプに入社してまず人事部で採用と教育を担当したのち、産休・育休を経てダイバーシティ推進室、SDGs推進室で責任者を務めました。

ダイバーシティ推進室では、LGBTQ+の基礎的な情報に関する研修をしたり、制度を整えたり、オールジェンダートイレを整備したりしました。採用の資料で性別欄を男女の選択肢から記入欄に変える取り組みもしましたし、性や体型に関係なく楽しめる浴衣を展開しました。

なので、今回のセクハラ問題を知ったときの思いは、小林さんからのメールにあった「築いた砂山のすぐ周りをザラザラとすくい取られて全体を崩されるような無力感」という表現がまさにぴったりでした。

ーーD&Iに真剣に取り組んでいても、同じ社内など身近なところや、応援してくれていたはずのトップによって引き戻されるということが少なからずあります。同じような構造は、多くの企業でもあるように感じています。

人事やダイバーシティの責任者として、会社の良い情報を対外的に発信してきましたし、採用説明会で女性が活躍できると聞いて入社したというスタッフもいます。

会社の状態が良いときばかり積極的に発信して、そうじゃないときにはダンマリというのは私にはちょっとできなくて、スタッフにも、お取引先にも、ひいては商品のストーリーに惹かれて購入してくださったお客様に対しても、何か発信すべきではないかと思ったんです。

ーー創業者は2018年の臨時査問会で厳重注意を受けたと報じられていますが、セクハラ行為を否定しており、真偽は謎のままですね。漫画は、被害者を代弁したり真実を告発したりする内容ではありませんでした。

その説明責任を果たすべき人は他にいるはずです。

あの漫画はフィクションですが、ハラスメントに関する世の中のさまざまな要素を織り交ぜて制作しました。一つの会社の問題として矮小化するのではなく、なるべく広く考えられる話にして、多くの人に関心をもってほしかったからです。

「まだ時代が変わっていないんだな」とか「自分たちがやってきことは間違っていなかったのかな」といった、読む人の心の「揺らぎ」にフォーカスできればと思いました。

ーー「こういう発信の仕方もあるんだ」と目からウロコでした。

創業者のセクハラ報道の後、スタッフや関係者だとする匿名の情報がSNSなどでたくさん出回りました。平均年齢25.6歳と、若いスタッフが多い会社です。みんな職場では表情に出していなかったけれど、きっと情報を目にはしていて、不安でいっぱいになっているのではと想像しました。

入社式や採用イベントなどで店舗スタッフとも関わっていましたから、全国各地の店舗にいるスタッフのことも心配でした。

私が直接ハラスメントの被害に遭ったりしたわけではありませんが、会社としてやるべきことを怠ってきたことに変わりはありません。会社の未来を語って採用しておきながら、その未来を良いものとして約束できなかったことの責任は負うべきではないか。実名で発信することで、少しでも不安の解消になればと思いました。

ーー反響はいかがでしたか。

実名を載せた効果なのか、ほとんどがポジティブな反応でした。

私が経営層や新入社員ではなく、「中間管理職」という悲哀感が漂う立場だったということも、同世代を中心に共感を得られた要因かもしれません。

迷ったときの判断基準は

Akiko Kobayashi / BuzzFeed

ーー社歴が長くなったり管理職になったりすると、後輩からは頼られる存在になる一方で、経営層に近くなるがゆえの葛藤もあります。事業を成長させるという大義のもとで、自分がやるべきことはどっちなのか、という局面に立たされることもあります。

私も同じようなことを経験してきましたが、もしかしたら、そうやって迷ったときの判断基準が、ダイバーシティやSDGsなのかなと気付いたんです。

それまでは「会社の方針」が絶対的な判断基準だったんです。会社の理念に合うか合わないか。理念と行動は相反しないはずでしたから。でも「本当に会社基準でいいのかな?」と思い始めて。

私は創業者を尊敬して入社しましたし、この会社が好きで10年近く在籍し続けてきたんですけど、ここでセクハラ問題に誠実に向き合えないなら、ダイバーシティもSDGsも標榜できないし、ストライプでも働き続けられないと思ってしまったんです。

一緒にダイバーシティの活動をしてきたメンバーや、心を開いてカミングアウトしてくれた人の顔が浮かびましたし、将来子どもを入社させたいかと考えると、自分が何を行動指針にすべきなのかがはっきりしてきました。

ーーそれが、声をあげる決断につながったのでしょうか。

声をあげることが大事だというのはダイバーシティの取り組みの中でも強く感じていました。

会社の中でおかしいと思ったことを、上司に相談しても対応してもらえなかったり、逆に不利な立場になったりと、声をあげてもろくな目に遭わないから言わないでおこう、と気持ちを封じ込めて蓋をしてきた経験は、いろいろな場面でいろいろな人にあるのではないでしょうか。

一人ひとりができること

もちろん、誰しもがカミングアウトをするようにと推奨しているわけではありませんし、さまざまな課題解決の方法があると思います。ただ、私にとっては「声をあげること」が自分にできることだと感じました。

「ハチドリのひとしずく」という物語を聞いたことありますか?

森が燃えて、森の生き物たちが逃げまどう中、ハチドリだけが行ったり来たりしながら、くちばしで水のしずくを一滴ずつ運んで、火の上に落としていきます。

「そんなことをして何になるんだ」と笑う動物たちに、ハチドリは「私は、私にできることをしているだけ」と答えるというお話です。

とても大きな問題に直面すると、無力感やあきらめに支配されて目をつぶってしまいがちなこと、他の人を非難する暇があったら、自分にできることを淡々とやろうということ、小さな生き物であっても、大きな問題に対して「できること」が必ずあることーーなどのメッセージが読み解かれています(出典:構造医学研究財団

私は、燃えさかる炎に向かって命をかけてまでやっているつもりはないんですが、気持ちに蓋をしてきたスタッフたちに、「おかしいと思うことはおかしいと言える社会のほうがいいと思わない?」というメッセージを伝えたかったんです。おかしいと思ったことに声をあげるというのは、特別な能力や立場がある人でなくても、できることではないでしょうか。

ーー加害者と被害者に圧倒的な立場の差があるために、声をあげにくいという構造はあるかもしれません。私も、相談されたものの解決の方向性が定まらず、うやむやになってしまったようなケースがあり、どうにかできなかったのかと悔やまれます。

声をあげる姿勢を見せると、若手スタッフからは「二宮さんがすごいからできたんだ」と言われたりしますが、そうではありません。社会や会社からしたら、私だって取るに足らない存在なんですよ。

管理職としての対応についてはあとで話しますが、何か問題が起きたときに、誰か特別な人がなんとかしてくれるのを待っているような空気っていうのもありませんか?

カリスマが現れるのを待つとか、強気のリーダーを望むとか、今いるあの人じゃダメだと言っている状態がもったいないとも思っています。

ダイバーシティもSDGsも、一人ひとりのマインドが大事ですし、会社も一人ひとりの集まりなので、一人ひとりがやれることをやっていくことが、より良い社会や環境をつくっていくことにつながるのではないでしょうか。

わたし、加害者だったのでは

Akiko Kobayashi / BuzzFeed

ーー二宮さんも私も「就職氷河期」と言われた世代で、ともに新卒でマスコミに入社し、地方で働いていました。

セクハラを笑顔でかわしたり、下ネタをうまくスルーしたり。これまでの世渡りや自衛策を振り返り「わたし、加害者だったんじゃなかろうか」と問い直すnoteの描写にも共感しました。

地方の有力者から腰に手を回されることとか、あるあるでしたよね。周りも許しているし、そういうものだという前提で、うまくいなしながらかわいがられるのが得策だという、一種の刷り込みがありましたよね。

ーーその刷り込みは強烈で、いまも「その程度のことで」といった感覚がどこかに残っていて。

私は大学在学中に、東京のテレビ局でいわゆる「女子大生リポーター」をやっており、「ミニスカートで足を見せてネタが取れるなら安いもんだ」「若さは使えるうちに使え」くらいに教わってきましたが、その呪いが解けた感じです。

私がとらわれていた仕事ができる人像は何だったんだろう。そもそもそうやって取るネタって何だったんだろう、誰に届けたかったんだろう、他社より速く報じる価値って何だったんだろう、と考えるようになりました。

弱い立場の人に上手な対応能力を求めるのはやっぱり変だと思うんです。

ーー後輩から「なんでもっと怒らないんですか」って思われているかもしれないと考えることがあります。私が鈍感なために、気づかずにやったりスルーしたりしている不適切な行為があるんじゃないかと。

自分が当たり前だと思っていることがいかに当たり前じゃなくなってきているかに敏感じゃないとダメだし、知らなかったというのが許される立場じゃなくなってくると思うんですよ、役職が上がってくると。

ではなぜ、そんなふうに刷り込まれたのかと振り返ると、やはり組織の構造の問題に行き着きます。

意思決定者が都合がいい状態を作り出すために、合わせてくれる人を採用するし、染まるように教育するし、その状態を正義として判断軸ができていく。だから私たちは、ときに組織のあり方にもおかしいと言わなければならないんですよね。

マネジメント層が麻痺している

ーー若い世代には、おかしいと声をあげられる人は育ってきているとも感じます。

それなのに、おかしいと言っている人たちをマネジメントする層が麻痺してしまっているんですよね。

何か訴えがあったとしても、「仕事ってね、大変なこともあるんだよ」と説得にかかってしまったり、話は聞いてあげるけど何もしてあげなかったり、隠蔽しようという意図はなくても、その場を上手におさめて大ごとにしないことが仕事だと思っているような中間管理職がいます。

これは、氷河期世代の特徴のひとつではないかとも感じています。入社させてもらえただけで御の字という謎の負い目や、働く場を失うことへの恐怖心みたいなものがあって、会社に都合よく育てられてしまったのかもしれません。

ーー悲しいけど、わかります。財務省の元事務次官から女性記者がセクハラを受けたことが明らかになったときも、強く怒りの声をあげてくれたのは、どちらかというと均等法第一世代のような先輩女性たちでした。

先輩たちが、社会で認められるためにあえて名誉男性的な振る舞いをしたり、もしくは女性の権利を声高に叫んできたりした様子を、私たち後輩は「あそこまではしたくない」「もっと賢く振る舞えるのでは」と横目に見ながら、かわいがられるポジションを作ってきました。これ、大きな間違いだったのではないでしょうか。

「お茶汲み反対」と聞くと、「暇だったらついでに入れてあげるくらい、いいんじゃない?」と思ってしまうのは、お茶くらい入れればいいじゃんと言えるくらい好きな仕事ができる立場に向上したからだということに気づけていないからです。

入社してからキャリアアップを望みながらも、コピーとお茶汲みで定年まで働いた女性たちがいたということを実感を持って想像できないし、その人たちがどれだけ戦ったかをわかっていないから、せっかく作ってくれた道を受け継げていないのではという反省があります。

出産や育児などを通して、実際に女性であるという理由で不利益をこうむる経験をして初めて気づくこともありましたし。

ーーあからさまな差別に接していないぶん、かわいがられて好きな仕事をさせてもらったほうがいいという損得勘定を働かせてきたかもしれません。

でも、それって仕組まれていた気がしませんか。女性は女性らしくしなやかに、といったイメージが少し前から注入されて、仕事も家事にもおしゃれにも手を抜かないで、って結局、全部押し付けられてません?

働く女性は肩ひじ張らず、なんて言われて、物事を丸くおさめて波風を立てないことがよしとされるのも、都合よく動かすためのような......。

日常から変えていく

Jose Luis Pelaez Inc / Getty Images

(写真はイメージです)

ーーセクハラが起きたから動くというだけではなくて、日常的に細かいハラスメントの芽を摘み取ったり土壌づくりをしたりということが必要ですね。

そうなんです。日常から変えていくためには、知ること、多様な意見を聞くこと、世の中に関心を持つことが大事だと考えます。

企業のCMがジェンダー観をめぐって炎上することがたびたびありますが、自由に意見を言える風通しのよさや、意見が対立したときに話し合える風土などがあれば、そうした炎上はしないかもしれないし、重大なハラスメントの予防にもつながるのではないでしょうか。

ーーコンテンツをつくるときの人権感覚などは、世代によって異なることもあります。過去の成功体験のある上司に向かって「それは違います」とは言いにくいことも。

単純な対立構造という「わかりやすさ」や、たくさん見られることが良しとされるような時代ではなくなっているのではとも思います。

ことさら上の世代を批判したいわけではないですが、自分が考える「普通」を疑ってアップデートするとか、当たり前と思っていることを立ち止まって考えるとか、「こうあるべき」「こういうもの」というところを超えていくというのは、どの世代にも誰にとっても大事なプロセスだと考えています。

ーー最後に、発信したことで二宮さんの中で何か変化はありましたか?

ブログで発信したことが、思っていた以上に賛同や共感を得られました。多くの人たちがモヤモヤを抱えていたんだなと改めて感じました。

一人一人が声をあげることが尊重される社会であってほしいし、自分の立場なりに思ったことを発信するというのが、世の中がよい方向に変化していくということになるんじゃないかなと思っていたので、多くの人が共感してくださったことがうれしかったです。その人たちがそれぞれの立場で次のアクションにつなげていってくれたら、それがダイバーシティに携わったものとしては本望です。

行動指針を会社ではなくダイバーシティに置くという意味で、次の一歩を進むつもりです。自分が生きていくうえでのサステナビリティについて、引き続き考えていけるといいなと思っています。

ーー会社ではさまざまな人が働いているので、どうしても大小何らかの問題は起きてしまいます。そのときに、自分に何ができるかを考えること。迷ったときは、ダイバーシティやSDGsを基準に考えてみること。そうやって実際に動いた人の話を聞くことは心強いです。私なりの方法を探します!

Contact Akiko Kobayashi at akiko.kobayashi@buzzfeed.com.

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