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「声をあげられない人に伝えたい」 性被害を受けた女性が、デイズジャパンに損害賠償を請求

「DAYS JAPAN」の発行人だったフォトジャーナリストの広河隆一氏から性交を強いられたなどとして、被害を受けた女性の一人がデイズジャパン社に慰謝料などを請求しました。

フォトジャーナリズム誌「DAYS JAPAN」の発行人だったフォトジャーナリストの広河隆一氏から性交を強いられたなどとして、被害を受けた女性の一人が1月7日、発行元の株式会社デイズジャパンに対し、慰謝料など400万円の損害賠償を請求した。

被害者のプライバシーを守ることを条件に、代理人を通してデイズジャパン社に通知した。

女性はBuzzFeed Newsの取材に「性暴力やパワハラはどんな会社や組織でも起こりうることですが、声をあげられない人もたくさんいます。こういう方法もあるんだ、ということを知ってもらい、問題提起につなげたい」と話している。

17件の性暴力

広河氏をめぐっては2018年12月、性暴力やパワーハラスメントがあったと報道された。調査していた「デイズジャパン検証委員会」の報告書が2019年12月27日、公表された。

検証委員会は、2004年から2017年にかけて、性交の強要や裸の写真撮影など17件の被害があったことを把握したとし、「いずれも被害者の合意はなく、意に反する性暴力にほかならない」と結論づけた。またパワハラについても認定した。

報告書によると、この女性は、学生時代にボランティアをしていたとき、広河氏から「写真を教えてあげるから」とシティホテルに呼び出され、性行為をされた。裸の写真も撮られたという。

女性は当時、DAYS編集部で広河氏がささいなことで激昂し、スタッフを理不尽に罵倒するシーンを何度も見ていた。

「フォトジャーナリスト業界の"神様"のような存在だった広河氏に睨まれたら、この業界では生きていけないという強迫観念のようなものがありました」と、背景にあった権力関係を振り返る。

責任履行の勧告があった

報告書は「広河氏が行ったことは著名なフォトジャーナリストとしての肩書きを濫用し、女性たちから自身への尊敬の念に乗じ、権力性を背景に重ねた、悪質な代償型セクシュアルハラスメントである」と判断。

「ハラスメントの責任履行の勧告」にも踏み込んでおり、広河氏とデイズジャパン社に損害賠償の責任があるとして、措置を講じるよう検討すべきとしていた。

これを受け、デイズジャパン社は12月27日、公式サイト上に「被害に遭われた方々への相談窓口」を設置し、「プライバシーに配慮した上で、当社として誠実に対応してまいります」と記した。

「特殊な出来事ではない」

女性は、この相談窓口の設置が、損害賠償請求の後押しになったと話す。

10年近く、誰にも被害を打ち明けていなかった。1年前に声をあげてからはフラッシュバックに苦しみ、賠償請求の可能性すら考えられる状態ではなかった。

「自分の経験と向き合うことでいっぱいいっぱいでした。『私はそういう被害を受けたんだ』ということを反芻し、体調が悪くなったことも何度もありました」

「昨年末に検証委員会が"宿題"を出してくれたことで、自分には損害賠償などを求めていく権利があるのか、ということに、はたと気づいたんです」

また2019年12月、ジャーナリストの伊藤詩織さんが性暴力被害の損害賠償を求めた民事訴訟で勝訴したことの影響も大きかったという。

「あれほど膨大な報告書になるとは予想しておらず、検証委員会には綿密な検証をしていただけたと思っています。その一方で、これは特殊な人物と特殊な会社で起きた特殊な出来事だ、というふうに読まれてしまうのではないかという懸念もありました」

「性暴力とパワハラのどちらか、あるいは両方が複合的に起こるというのは、他の会社や組織にもありうることです。ハラスメントを社会の問題として捉えるためには、次につながる一歩を踏み出すことが必要だと思い、請求に踏み切りました」

広河氏に請求できない理由

報告書が把握した17件の性被害は、それでも「氷山の一角」だと女性は考えている。

「調査に協力することも含め、この件に触れたり声をあげたりすることが負担で、検証委員会に声を届けられなかった人が複数います」

「賠償請求という行動によって、声さえあげられない人たちに、こういう道もあるのだというメッセージを届けたい。みんなで賠償請求しようと呼びかけたいわけではないんです。あなたは一人じゃないよ、というメッセージを届けたいです」

女性自身、今なお原因不明の腹痛に襲われたり夜中に目が覚めて眠れなくなったりと、「被害を認識した後に出てきた体の反応に自分で驚くほど」だという。

「広河さんは、被害者に接触を試みようとするなど、何がセカンドレイプにあたるかを認識していません。私は写真を撮られていますから、個人情報を暴露されたり、写真をばら撒かれたりする可能性があるのではないかと考えると、とても怖いです」

検証委員会は広河氏に損害賠償責任があると述べているが、女性はこうしたリスクを恐れ、広河氏にではなくデイズジャパン社のみに請求することにしたという。

「会社としてどのようにこの事件を捉えているのか、請求のやりとりを通して明らかになってほしいです。金額だけの問題ではなく、態度でちゃんと示してほしい。被害に遭った人たちが改めて傷つかなければならないような反応が返ってこないように願っています」

デイズジャパン社の対応は

広河氏は、性行為があったことは認めているが、「同意があった」として被害者に謝罪はしていない。デイズジャパン社の川島進・代表清算人は12月27日、サイト上で被害者に謝罪するとともに、このように記載し、「プライバシーに配慮した上で、当社として誠実に対応してまいります」としている。

当社は、検証報告書にあるとおり「加害者としての自制と責任の履行を公にすることこそが、広河氏にできる、社会的意義ある最後の仕事」であると考えます。


当社としては、広河氏に対し、「まずは自分が行ったことを直視し、独善的で自己中心的な弁明を公の場で行うことは控え、これ以上被害者らに恐怖と苦痛と不安感を与えるような言動は絶対にしないよう、行動を自重することを強く求める」との勧告を遵守するよう求めます。


デイズジャパン社の清算人である竹内彰志弁護士は、BuzzFeed Newsの取材に「個別の申告の有無および内容については明らかにできません。会社としては、個別の事案に応じて誠実に対応してまいります」と回答した。