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こもりきり夫と「隠れ残業」の妻。 コロナは夫婦の家事分担をどう変えたのか

在宅勤務など働き方が変わったことで、家事をほとんどやらなかった男性が分担するようになった、という調査結果が発表されています。

「じゃ、仕事してくるわ」

朝食を終えて5分後には「仕事部屋」に引き上げる夫を見送ると、会社員の女性はリビングでパソコンを広げ、小学生と中学生の兄弟が宿題に取り組む様子を見守る。オンライン会議の最中でも、ミュートにして息子に声をかけなければならないこともある。

夫がいるのにワンオペ

新型コロナウイルスの感染拡大に伴い、夫は妻より先に在宅勤務に切り替え、モニターなどを部屋に持ち込んで「仕事部屋」をつくってしまっていた。

女性が在宅勤務を始めたころ、夫の仕事はますます忙しくなり、昼食のときにも部屋から出てこず、深夜まで働いているのがわかる。

「私だって大変なのに」。その一言をグッと飲み込み、目の前の仕事と家事を必死で片付けるうち、気づいたら2カ月がたっていた。6月に子どもたちが分散登校を始めてからも、「夫がいるのにワンオペ」の生活が続いている。

「よく言われている『こもりきりの夫』、そのまんまです。お互いに家にいるのに家事分担も、夫婦の会話もない。コロナがきっかけで老後が心配になってしまいました。もう夫とのコミュニケーションはあきらめ、家庭菜園を始めてハーブに話しかけています」

耐えがたい冷房温度格差

緊急事態宣言によってテレワークを推奨する企業が増え、パートナーとともに在宅で仕事をするという人がにわかに増えた。

しかも、保育園や幼稚園が休園、学校が休校となったため、子どもの世話や家庭学習、朝昼晩の食事づくりなど家事のフルセット付きだ。

「部屋が狭いので、夫のテレビ会議中は外に出ていかないといけない」(30代女性)

「妻の仕事ぶりを初めて見たが、部下への態度が威圧的で心配になった」(40代男性)

「夫が冷房を効かせすぎるので、冬用の靴下を履いて仕事をしている」(40代女性)

想定していなかったさまざまな不満や価値観の違いが噴出して「コロナ離婚」なる言葉も生まれる中、家事・育児の分担をめぐってもすれ違いがあるようだ。

三菱UFJリサーチ&コンサルティングは5月5日と6日、全国の20〜60代の1万人を対象にインターネット調査を実施し、緊急事態宣言下で人々の行動がどのように変容したかをテーマ別のレポートにまとめている。

このうち、高校生以下の子どもとパートナーがいる人を対象にした「緊急事態宣言下における夫婦の家事・育児分担」では、新型コロナウイルスの感染拡大前(2020年1月末まで)と拡大後(全国が緊急事態宣言下となった4月17日〜5月6日)で、家庭内で家事・育児がどのように分担されたかに注目した。

夫の分担割合は増えていた

分析を担当した研究員の横幕朋子さんは「感染拡大後の期間に、男性が担う家事・育児の割合は拡大前よりも増えていました」と指摘する。

「緊急事態宣言の影響で、勤務時間の短縮や在宅勤務など『働き方が変化した』と答えた男性では特に、分担割合の増加がはっきりと表れていました」

横幕さんが注目したのは、家事や育児をほとんどしていない「0〜2割」の層だ。「働き方が変化した」と答えた男性では、「0〜2割」は感染拡大前の69.5%から拡大後は43.2%と大幅に減っている。

「これまで家事・育児をほとんどしていなかった男性が、働き方が変わったことによって分担するようになったようです」

「もともと、家事分担が進まない要因の一つとして男性の長時間労働が指摘されていたので、働き方が変われば分担が進むという仮説は立てていました。それでも、ほとんど家事をしていなかった層にこれほどの変化があるのは意外でした」

正社員の共働き夫婦は「均等に近い」

年代別では若い世代ほど、妻の雇用形態別では妻が正社員の共働き夫婦ほど、もともと夫の分担割合は高かった。感染拡大後はさらに増え、均等な分担に近づいた傾向があった。

調査結果では家事や育児を分担するようになった夫が多いと出ているのに、なぜ妻たちは不満や負担感を抱えているのだろうか。それには二つの背景が考えられるという。

一つは、家事や育児の「総量」が増えたこと。

3月から続く休園・休校によって、子どもの学習や食事、健康の管理など、従来とは性質の異なる家事・育児が増えた。感染防止のため祖父母や外部サービスに頼ることができなくなり、家庭内ですべて担わなければならなくなった。

妻の「負担」は軽減されていない

「女性の『分担』割合が減ったとはいえ、総量が増えたため、『負担』自体は軽減されていないという見方ができます」と横幕さん。

子育てに関する困りごとの増加について聞いたところ、4つの選択肢すべてで男性より女性の回答のほうが多かった。『食事づくりなど物理的な世話』『精神的な負担』が増えたと感じている女性は、男性の約2倍という結果になった。

もう一つは、夫婦間の認識の違いによるもの。

つまり、夫は家事や育児を「やっているつもり」だが、妻はそれほど評価しておらず、不満を募らせているケースがあるという。

夫が担う家事は「ゴミ出し」

今回の調査では、男性の家事・育児の分担割合について「自身について回答する男性」と「パートナーについて回答する女性」との認識の差が、感染拡大後により一層大きくなっていた。緊急事態宣言の期間に「男性が家事・育児を3割以上担っている」と答えたのは、男性では約5割だったのに対し、女性は約3割にとどまった。

主席研究員の矢島洋子さんは、2014年の調査結果など過去の分析も交え、こう解説する。

「分担量の認識差もありますが、家事や育児の『質』や『スキル』の認識にもズレが生じている可能性があります。また、担っている役割の違いもあります。従来、夫が担っている家事は『ゴミ出し』、育児は『お風呂や遊び』などがメインで、生活全体のマネジメントは妻のほうが担っていることが多いのです」

「コロナ対策では、まさにそうした家事・育児のマネジメント領域が拡大しています」

家族の健康管理、子どもの家庭学習の進捗チェック、健康のために外で遊ばせたいけど近所の目が気になるというプレッシャーなど、物理的・精神的な負担が新たに加わり、先行きも見えなかった。

「それらを統括して責任を負う役割を妻だけが担っていることで、実質的に女性の負担は以前より大きくなっているのではないでしょうか」

風呂場からメールを返す

今日も楽しくお散歩1.5時間からのお風呂プール2時間コースですた(白目) なのになんで寝ないんだよぉぉぉぉ(発狂)

夫婦間の認識の差を縮め、妻の負担を軽くするにはどうすればいいのだろうか。

夫婦の"修羅場"を経験したことでワンオペ状態から解放されたというのは、会社員でデザイナーの君野みきさんだ。

君野さんも5月までは、仕事部屋にこもりきりの夫に悩まされていた。

夫は別室でほぼ終日、オンライン会議をしていた。一方、君野さんはリビングで、6歳と2歳の娘たちの様子をみながらパソコンを開けるしかない。

Twitterで話題になっていた室内用テントを買ってみたり、水で落とせる風呂用のクレヨンを持たせたり。子ども2人をぬるめの湯船に入れてお絵かきをさせながら、パソコンにビニールをかけて風呂場からメールを返したりもした。

日中は、精密機器の製図など集中力が必要な作業に取りかかるのはほぼ不可能だった。締め切りに間に合わせるために、会社の「残業禁止」のルールを破って深夜に作業する君野さんの姿を見ても、夫の反応はいまいち。

仕事部屋は譲り合い制に

「一番つらかったのは、家の中に大人が2人いるのに、ひとりで仕事と家事と育児をしなければならないことでした。夫も遊んでいるわけではないから言い出せずにいましたが、ついに不満が爆発し、大げんかになってしまいました」

驚いたのは、夫にはまったく悪気がなかったことだったという。「察してほしい」という願いがまるで届いていなかったのには愕然とした。

「ただでさえ大変なのに、なんで一から説明までしないといけないのか、とイライラしたりもしましたが、睡眠が取れていないこと、締め切りが近いことなどを『状況のシェアです』と冷静に伝えたら、『じゃあこれは俺がやるよ』と自ら分担を提案してくれたんです」

夫は上司にかけ合い、子どもがいる部屋でオンライン会議に入る場合があることを了承してもらった。ホワイトボードに1週間分の予定をお互いに記入し、必要に応じて仕事部屋を譲り合うことになった。

「結婚して10年近くになり、育休を取った経験もある夫の家事・育児スキルに期待する部分もあってキーッとなっていたのですが、状況が変わるたびにちゃんと話し合ったほうがいいんだな、と気づきました」

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家族が一緒にいる時間が長くなったことで、貴重な経験もできた。

「姉妹の距離が近づき、下の子が言葉をたくさん話すようになりました。仲の良い姉妹の様子や成長を見守れることがうれしくて、もうちょっと頑張ろうかな、と思えました」

そうした喜びを夫婦で共有できるのも、働き方が変わったからこそ。君野さんはいま、今後も続くであろう在宅勤務や外出自粛の生活を、家族で「いかに楽しく過ごすか」を考えているという。