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「コロナのことを考えたくない」 子どものSOS、大人にできることは

すぐにイライラしたり、嫌な夢を見たり。子どもも大人も知らず知らずのうちにストレスをためています。登校する子どもの様子で、気をつけるべきことは。

多くの学校や保育園などが、再開に向けて本格的に動き始めている。

長いところでは約3カ月に及ぶ休校の期間中、さまざまなストレスを抱えていた子どもたちは、学校生活にうまく適応できるのだろうか。

「コロナのことを考えたくない」

国立成育医療研究センターは、新型コロナウイルス流行期の子どもと保護者の生活と健康の状態を明らかにするため、4月30日から5月31日まで「コロナ×こどもアンケート」を実施した。

5月5日までに集まった子ども1292人と保護者3597人の回答をまとめた中間報告を発表した。

それによると、「コロナのことを考えると嫌な気持ちになる」と感じている子どもが39%おり、小学校低学年でその割合が大きかった。

トラウマになる要素が複数ある

教育機関向けにまとめた報告「こどもたちの生活とこころの様子」によると、次いで「考えたくないのにコロナのことを考えてしまって落ち着かない」「コロナのことは考えないようにしている」など、新型コロナウイルスそのものに対する不安を感じているという子どもが多かった。

また、「いやな夢(悪夢)をよくみる」「誰かと一緒にいてもひとりぼっちだと感じる」など、さまざまなストレスや孤独を感じていることもわかった。

同センターこころの診療部長の田中恭子さんは、いま子どもたちが抱えているストレスについて、災害などのときとは異なる事情がある、と話す。

「災害などの場合は単発のトラウマ体験ですが、今回は、未知のウイルスへの恐怖、人が亡くなったニュース、休校による喪失体験、感染症への差別など、トラウマになりうる要素が複数あります。何が原因でストレス反応が起きているのかを特定するのが難しいという特徴があります」

日常を奪われるということ

子どもたちの回答からは、さまざまなストレス症状の訴えがあることがわかった。

「年齢差や個人差はあるものの、大人の話やニュースによって、目に見えないウイルスへの不安を募らせていたのは子どもも大人と同じです」

「2月末に突然の臨時休校の要請があり、学校に行けなくなり、卒園式や卒業式もできなくなってしまいました。本来ならあるはずのイベントがなくなり、友達とも会えなくなりました。日常を奪われた子どもたちは、大きな喪失体験を抱えています」

友達と会えない、学校に行けない、外で遊べないといった、これまで日常的にしていたことができなくなったことについては、半数以上の子どもが「困りごと」として挙げていた。

暖かくなって外遊びがとても気持ちがいい季節に、外出を自粛するように言われ、家に閉じこもる生活。出歩いていたときに見知らぬ大人にとがめられ、それが怖くて外出できなくなったという子もいる。

6割が「生活リズムが変わった」

アンケートでは、寝る時間や起きる時間が「変わった」と答えた子どもが6割以上おり、テレビ・スマホ・ゲームなどの時間が「昨年より増えた」と答えた子は74%だった。

「生活の変化に伴って、寝る時間や起きる時間がずれたり、運動ができなかったりすることは、成長期の子どもたちの自律神経のバランスに影響する可能性があります」

ルールを自分たちで決める

Danish Prime Minister Mette Frederiksen held a press conference answering kids questions on the #coronavirus. Kids asked questions via tablets and phones in Ultra Nyt - a daily news program for kids produced by Danish National Television DR 1/2 https://t.co/CnX9WQjo3X

休校要請にあたって、子どもたちの質問にオンラインで答える記者会見をしたデンマークのフレデリクセン首相

そうした状況が長く続いたあとに学校が再開すると、どんな問題が起こることが予想されるのだろうか。

「学習の遅れを取り戻そうと教員や保護者が焦ったり、感染を予防するために子どもたちの行動を制限したりすることが考えられますが、理由がわからないまま抑圧された生活をすることも、子どもにとってはストレスになります」

なぜ学校に行けないのか、なぜ友達と遊んではいけないのか、なぜ宿題をたくさんしなければならないのか。新型コロナウイルスにはどんな危険があり、どうすれば感染を防げるのか。

海外では、デンマークのフレデリクセン首相など、休校を要請するにあたって子ども向けに記者会見を開いてわかりやすく説明したリーダーもいた。一方、日本では、子どもに向けた説明がしっかりとされてこなかったのでは、と田中さんは振り返る。

「小学校の高学年や中高生には、大人と同じように正確な情報を伝え、子どもなりに納得できる説明をしてあげてください。発達段階にもよりますが、低学年であればイラストや動画などを使って簡単に原因と結果を伝えるとわかりやすいです」

「感染予防のためにどういう行動をすればいいのか、子どもたちと一緒に考え、自分たちのルールを自分たちで決めていく機会をもつことも効果的です」

「学校に行きたくない」にどう対応する

「低学年の場合は、ずっと自宅で保護者と一緒に過ごしていたため、新しい社会環境に出ていくにあたって、一時的に分離不安があるかもしれません。『一時間だけでも行ってみようか』『明日は行ってみようか』などと段階を経て、少しずつ慣れていくよう、ゆっくりと背中を押してあげてください」

一方で、もともと学校に行きたがっていなかったり、いじめを受けていたりした思春期の子どもの場合には、焦って登校を後押ししないほうがいい、と田中さん。

「一斉休校によって学校に行かなくて済むという安心感を得られていた子たちは、みんなが登校し始めても自分はまた行けなくなるんじゃないかと、軒並み不安を募らせています。子どものペースを尊重して、無理をさせないことが重要です」

「頑張ったね」と褒めて

そして大事なのは、「よく頑張ったね」と褒めることだ、とも。

「ここ3カ月あまりは非日常の連続で、行動制限された中で過ごしてきただけでもすごいことです。たとえゲームをやっていたとしても、『三密を避けて偉かったね』『外出するのをよく我慢したね』と褒めてあげてください」

「ストレスを体験した後、それをバネにして成長することを『ポスト・トラウマティック・グロース(PTG)』と呼びます。多くの子どもは適応能力がありますから、この経験が自尊心や心の成長につながるように、まずはできていたことを認めてあげてください」

また、保護者も知らず知らずのうちにストレスをためている。学校再開後も、分散登校のスケジュール管理、在宅勤務が続くことによる仕事と子育ての両立など、コロナ前の日常と比べ、思う通りにいかないことも多い。

「仕事からも育児からも離れて、コーヒーを飲んでほっとするような息抜きの時間をつくってみてください。そのことを後ろめたく思わないでいいんです」と田中さんはアドバイスする。

「一人ひとり立場や境遇は異なりますが、つらい、しんどい、疲れたといった感情は、そう感じていると認識すること自体がとても大事なことで、人と比べる必要はありません。イライラを感じたら、ふたをして押し込めようとせず、誰かと共有してみてください」

国立成育医療研究センターは、アンケートの最終報告を6月中旬にも発表する予定。

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田中さんが監修した動画「きみだからできること〜子供のための新型コロナ予防」。感染予防についてわかりやすく「3つのやくそく」で伝えている