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忘年会で「アキラ100%」はやっちゃダメ! セクハラに詳しい弁護士に聞いた

セクハラを目撃したら全力で止め、おいしいお酒を飲みましょう。

忘年会シーズンのピーク。酒に酔ってつい、または盛り上げようとするあまり、やってしまった行為が、セクシュアル・ハラスメントになることもある。

楽しい飲み会でトラブルにならないためには、何に気をつければよいのだろうか。BuzzFeed Newsは、労働問題に詳しい弁護士の圷由美子さんに聞いた。

忘年会も「職場」です

ーー忘年会でのセクハラ。気が緩んでつい、ということがあるかもしれません。

酒に酔っていたことがセクハラの言い訳として使われることがありますが、免責理由にはなりません。

セクハラは、酒の勢いだったということで行為の罪が軽くなるわけではありません。加害者が酔っ払って記憶があやふやだという場合、むしろ裁判では、当時の記憶に関する加害者証言の信用性は低くなり、その結果、セクハラがあったとする被害者証言をもとに事実認定される方向につながります。

「酔っていて何も覚えていませんでした」という言い訳は、「それ自体リスク」と認識されるべきなのです。

また、職場の行事としての忘年会の場合は、飲み会であれ「職場」で起きた出来事と判断されます。一次会のみならず二次会でも、職場の行事の延長線上ということであれば、同じく「職場」と判断されます。

「今日は無礼講で」などと言いがちですが、文字通り「無礼講」を実践してはいけません。そもそも、性的な言動は本来、業務には無用なので、持ち込むべきではありません。

悪ノリに注意

お笑い芸人のアキラ100%さんが今朝、テレビ番組で「決してマネをしないで」「お盆には近づかないで」とおっしゃっていました。裸で股間だけをお盆で隠すネタが人気のアキラさん、うちの子どもたちも大好きです。

彼は、プロとして芸を磨いているからこそできるわけで、もしも忘年会の余興として素人がマネをしてポロリしてしまったら、公然わいせつ罪に問われかねません。彼の親切なアドバイスにはぜひ耳を傾けましょう。

ーー集団心理もはたらいてエスカレートしそうです。

忘年会でありがちな「ノリ」や「ネタ」は、やりたい人もいればやりたくない人もいます。ここでやらなければ盛り下がる、といった空気は「強要」になってしまいます。

会社の歓迎会で慣例の「ちょんまげ」をさせられたという相談を寄せてきた女性がいました。先輩の男性に、頭の上に性器を乗せられた、と。話を聞くと、その被害は12年前とのことでした。

男性にとっては悪ふざけで、慣例だからと疑わずにやっていたことだったのかもしれませんが、その女性にとっては今になってわざわざ相談するほど、蔑まれたような気持ちがずっと続いていたのです。

頭にストッキングを被らされて上に引っ張られた姿が、画像として社員全員が見られるイントラネットにアップされたことに傷ついていた女性もいました。

「二次会に行くぞ」といって男性の先輩が後輩を風俗に連れていくのもよくあるパターンですが、先輩目線では「後輩サービス」でも、後輩にとっては性的嫌悪感があっても断れないことがあります。地位を利用して性的な場所に連れていく行為は、セクハラにもパワハラにもなりえます。

性的な悪ふざけや慣習を「コミュニケーションの潤滑油」という人もいますが、そんな性的言動がなくても円滑なコミュニケーションはできます。上司は安易な道に走らず、部下目線のコミュニケーション術を磨きましょう。

昭和時代、すれ違いざまにお尻を触る、肩を揉む、といった身体接触が慣例とされてきた企業もあります。日本を代表する名だたる企業も例にもれず、です。

相撲の弟子への「かわいがり」や体罰、しつけと称した虐待など、これまでは許されてきたであろう行為も、時代が変わり許されなくなっています。時代遅れの考えに基づく言動は、いまや裁判の被告にされかねません。自分の身を守るためにも抜本的な意識の転換が必要です。

会社の一員として止める

ーーセクハラを目撃したらどうすればいいのでしょう?

一定数のスタッフを抱える職場であれば、その中には必ずセクハラやパワハラをしてしまう人がいると考えられます。つまり、管理職はもとより、周りの同僚がセクハラをどう食い止めるかが、その職場の「実力の見せどころ」になります。

というのも、労働力不足のいま、セクハラやパワハラが横行する会社は、遅かれ早かれ、ブラック企業として淘汰されていきます。会社を持続させ、より良い人材や仲間とともに、自身も不快感なく働くためには、会社の一員としてセクハラ・パワハラ行為を全力で止めることが重要といえます。

上司がみんなの前でスカートに手を入れていたのに周囲が誰も止めてくれなかったのが最もつらかった、と言っていた女性がいました。セクハラを見ていたのに注意しなかった場合は「不作為の加害」といえるでしょう。管理監督責任のある立場でなくても、その場にいて黙認する行為は、セクハラを助長するものに他ならず、直接手を下さなくても「加害者」にあたることを認識していただきたいです。

最高裁は、セクハラによって就労環境を害したということで「職場環境配慮義務違反」の責任を認定します。ですから、セクハラの言動だけでなく、それを放置したり助長させたりした人も、手を貸したとして責任を問われることになりうるといえます。

ちなみに労災でも、セクハラを会社に相談しても適切に対応されず改善されなかった場合や、相談した後に人間関係が悪化した場合も、本人にとっては精神的につらいことであるとして、心理的負荷の強度を「強」とする認定基準になっています。

ーーどこからどこまでがセクハラか、という人もいます。

身体を触ったり性的な発言をしたりしても、「はっきりと拒否されなかったから、許されていると思っていた」と反論する加害者が少なくありません。しかし、最高裁は2015年、こうした加害者の言い訳をバッサリ斬る判断をしました。

「職場におけるセクハラ行為については、被害者が内心でこれを著しい不快感や嫌悪感等を抱きながらも、職場の人間関係の悪化等を懸念して、加害者に対する抗議や抵抗ないし会社に対する被害の申告を差し控えたり躊躇したりすることが少なくないと考えられる」とし、加害者の主張を退け、セクハラ被害の事実を認定しています。

つまり「嫌がっていないからセクハラではない」という言い訳は、もはや通用しなくなったといえるので要注意です。

「どうせ減るもんじゃなし~」とセクハラ被害を訴える人を揶揄することがありますが、被害は実はとても深刻です。被害者にとって最もつらいのは、身体を触られたなどのセクハラ行為というより、職場における対等な仲間としてではなく、性的なはけ口として利用された、一人前とされずに下に見られた、という扱いのほうであるといいます。

それによって働く者としての人格(労働者人格権)が傷つき、自己肯定感が下がってしまうのです。中には精神疾患になり、仕事ができなくなり、生活保護を受けることになったり、家庭が崩壊してしまったりする人もいます。

職場での立場を考えると抵抗できないし、会社にも言えない。言えずに悶々と抱え込むことで被害が続く。他の人が被害に遭えば、自分が声をあげなかったから防げなかったのではないか、とさらに自分を責め、二重、三重に自分を傷つけてしまうく被害者はとても多いです。

「セクハラ最悪」と表明する

ーーどうすれば、被害を防げるのでしょう。

実際に被害に遭っても「それってセクハラですよ」「ダメですよ」くらいがせいぜいで、抵抗したり声をあげたりできる人のほうがまれであるということは、最高裁でも認められています。

一方、普段から「セクハラは嫌なんです」という態度を見せておくのは効果的です。直接、自分事として訴えるのは難しいですが、#metooの動きもありますし、職場で複数人でそうした話題を持ち出したり「あんな行為は最悪ですよね」と持ちかけたりして、さりげなく「もしもセクハラがあったら許さない」という意思表明をしておくのです。「この人はセクハラやパワハラに厳しい人なんだ」と知らしめて警戒心を与えておくことは、抑止力になるはずです。

ーーもしも被害に遭って裁判に訴えるとしたら?

話し合いがつかず、訴えざるをえない場合、相手は会社と加害者本人の両方がありえます。

労働条件を切り下げられたり解雇された場合、そうした処分そのものの無効性を争うこととなります。会社に使用者責任を問うことで、再発防止につなげることが、セクハラ裁判の一つの意義でもあります。加害者本人に対してはセクハラ言動の不法行為を訴え、損害賠償請求をしていくことになります。

ただ、セクハラ事件では事実認定から激しい争いになることが多いです。

ーー残しておくといい証拠はありますか?

写真、録音も有効です。自分の身を守るためにセクハラ言動を無断で録音しても、違法ではありません。

他にも証拠になりうるものはたくさんありますが、ここで明かすわけにはいかないので、万一、被害に遭ったらまず、専門の弁護士に相談してください。

日本労働弁護団 03-3251-5363

(月、火、木)午後3時~午後6時(土)午後1時~午後4時

女性のためのホットライン 03-3251-5364

(第2水・第4水)午後3時〜午後5時

いずれも無料


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