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セクハラ相談員は「触られたくらいで」と言い放った。大学はハラスメントに対応できるのか

「大学は相談を受けたくないのかな、と思ってしまうくらいです」

東京医科大学が、入試で受験生の得点を調整して、女子の入学者数を抑えていた問題。公平であるはずの試験で、不正や差別がまかり通っていたことに衝撃が広がっている。

日本大学では、女子部員にパワハラをしたと報じられた応援リーダー部(チアリーディング)の女性監督が8月9日付で解任された。女子部員が学内の保健体育審議会に解決を求めた際には、対応しなかったという。

一般的に大学は「正義」や「良識」が貫徹しているようなイメージがある。しかし、今年に入ってからだけでも、大学での差別や不正、ハラスメントは相次いで発覚している。

早稲田大学文学学術院では、元大学院生の女性(27)にセクハラやパワハラをしたとして、指導教員だった教授が7月27日付で解任された。女性が大学に被害を申し立てていた。

「人間以下」と見下された

教授は、文芸評論家として知られる渡部直己氏。問題発覚後、退職届を早大に提出していた。早大は調査委員会を設置し、事実確認を進めていた。

女性は2017年4月、渡部氏から「課題を見てやるから」と研究室に呼び出されたが、指導はしてもらえず、食事に連れて行かれた。渡部氏は「入学する前はお前は人間以下だった」と見下す発言をしたという。

食事をしながら渡部氏は「卒業したら女として見てやる」「俺の女にしてやる」とも発言。女性は怖くなり、店を出てすぐに友人たちに相談した。

研究室の別の教員にも相談したが、取り合ってもらえず口止めされたという。指導教員は変更されたが、大学への不信感と精神的苦痛から授業に出席することができなくなり、2018年3月に中退した。

話を聞いたのに......

その後、やはり事実を明らかにすべきだと感じ、4月に早稲田大学の「ハラスメント防止室」に電話をした。電話に出た相手は名乗らず、面談に父親の同席を希望しても、当初は「来ないほうがいい」と言われた。

後ほど送られてきた面談の日時を伝えるメールには「中退をされた場合には、申し立てをお受けできない場合もあります」とあった。

女性はBuzzFeed Newsの取材に「ハラスメントがあったから中退を余儀なくされたのに、中退したら申し立てる資格を失うなんておかしいと感じました」と話す。

面談には父親が同席することが認められたが、録音は拒否された。

「相談員は女性で、派遣雇用だったようです。1時間半くらい話しましたが、書き取りが追いついておらず、書き間違いも多かった。最後に『では苦情申し立て書を作成して提出しに来てください』と言われ、力が抜けました。提出しても、中退していたため不受理になるかもしれない、とのことでした」

「大学でハラスメントが起こる、と知って」

BuzzFeed Newsが7月12日、早稲田大学広報室に、ハラスメント防止室の体制や対応について取材を申し込んだところ、「現在、ハラスメント防止委員会がかかわっている個別案件の内容や担当者への取材対応は、差し控えさせていただいております」との返答があった。

その後、早稲田大学は7月27日付でホームページで「教員の解任について」として解任事由を公表した。

とりわけ、指導教員の立場や優越的地位を利用して、学生に対して繰り返し飲食に誘い、恋愛感情を表明し、相手に卒業後に「愛人」になるよう迫った行為については、およそ本学教員としての適格性を欠いており、改善を期待することはできない。

したがって、本学教員としての職責を全うすることができないことは明らかである。

別の教員による二次的なハラスメントや、大学の対応については「引き続き調査を進める」としている。女性は訴える。

「ハラスメントの相談窓口が救済機関として機能しておらず、むしろ相談することが苦痛になるほどです。大学でハラスメントが起こりうるということ、相談先が整備されていないことをもっと知ってほしいです」

個室に通してもらえない

他の大学でも、相談窓口で二次被害に遭ったという話を聞いた。

関西地方の大学4年生の女性(21)は昨年、院生から執拗につきまとわれた。学内の心理カウンセリングセンターに相談した際、セクハラ相談窓口を紹介された。

相談窓口の電話番号は、学務課と同じ番号だった。普段、学務課の窓口で対応している女性事務員が電話に出た。

相談を受け付けてもらうには、学部と名前を名乗らなければならなかった。

後日、相談に訪れると、個室には通されず、「ここで話を聞きます」と言われたのは学務課の入り口のカウンターだった。そばを何人もの学生が出入りするところで、50代の事務員に被害を話さなければならなかった。

「メモ、とってるのかな?」

心配になるほど、彼女のメモのスピードは遅かった。1時間ほど話して、「私では対応できないので」と後日もう一度、来るように言われた。

相談を受ける人との世代差

2回目に相談することになったのは、60代の女性事務員。1回目のメモの内容が伝わっていないのか、メモが不十分だったからなのか、話が伝わっておらず、一から話さなければならなかった。しかも、

「彼は誠実な人だから」

「無理やりホテルに連れて行かれたってことはないから大丈夫」

などと、女性に非があるような発言を何度もされた。

「相談を受ける人は女性でしたが、年が離れすぎていて、私たちとは感覚が違うと思いました。胸やお尻を触られたくらいで騒ぐなんて、という価値観で対応される。セクハラの意識は変わってきているのに、被害者や学生の感覚に合わせて話を聞いてはくれませんでした」

その後、相談窓口を通して教授に被害が伝わったが、教授は「別れ話のもつれ」と判断し、院生に注意することはなかった。

「院生と教授は2人きりで飲んだりもしていて、教授にとっても、6年間ずっと面倒を見てきた院生のほうがかわいくて大事なんだろうと思いました」

女性は、大学内で院生の姿を見かけたときに過呼吸で倒れてから、しばらく大学に通えなくなった。外部の相談機関に相談している。

相談電話は内線のみ

大学でのセクシュアル・ハラスメントの対応はどうなっているのか。

1999年の「文部省におけるセクシュアル・ハラスメントの防止等に関する規程」などをもとに、各大学がガイドラインを制定している。

相談体制について、「文部省規程」では「原則として2人の職員で対応」「同性の職員が同席」「周りから遮断した場所で行う」などの指示があるが、具体的な運用方法は、各大学が決めているのが現状だ。

関東地方のある大学では、相談窓口の電話番号が、相談担当の教員の研究室の内線番号になっている。つまり、大学内にある固定電話からしか電話をかけられない。この大学に通う女子学生はこう話す。

「ハラスメントは自分の担当教員から受けることが多いのに、研究室にある電話を借りて、そこから電話をかけろというのでしょうか。相談を受けたくないのかな、と思ってしまうくらいです。学生がハラスメントを告発するハードルは、ものすごく高いです」

学生の夢を奪う罪

冒頭の女性は、渡部氏のハラスメントを告発することで、現代文芸コースがつぶれてしまうかもしれない、と悩んでいた。教授はその分野における権威。自分だけでなく、ほかの学生の学ぶ権利や夢を奪ってしまうのではないか、という心配が、当初は告発のハードルになった。

大学のハラスメント対策に長く関わってきた、横浜国立大学大学院都市イノベーション研究院教授の江原由美子さんは、声をあげる被害者のリスクは大きいとしながらも、こう話す。

「大学や教育現場でのハラスメントの最も大きな問題は、学生たちの学問への夢や学ぶ意欲を奪ってしまうことです。研究できなくなるかもしれない、辞めざるをえないかもしれない、という不安は、長期的にみた人生においても大きなマイナスとなりえます」

「研究室で生き延びるためにハラスメントを黙ってやり過ごすことで、一時的には業績は残せるかもしれませんが、その分野で人は育ちません。ハラスメントによって学生をつぶすような研究室が生き残っていることは、その学問分野に悪影響を与え続けるのです」

江原さんは、告発した学生たちに向けてこのようなメッセージを送る。

「次なる被害者をなくすためにハラスメントにノーを突きつけることは、その学問分野の成長に貢献することです。告発も一つの大きな功績だと思います」

なぜ大学でハラスメントが起こり続けるのか。大学特有の組織構造に着目した江原由美子さんの解説はこちら。

「俺の研究室の問題は俺に言え」 こうして大学でのハラスメントは握りつぶされてきた



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