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「俺の研究室の問題は俺に言え」 こうして大学でのハラスメントは握りつぶされてきた

たとえ大学を辞めても、絶対的な序列から逃れられない

東京医科大学が医学部医学科の一般入試で、受験生の得点を調整していた問題。内部調査委員会は報告書で、このように指摘した。

「女性の受験生について、ただ女性だからという理由だけで不利な得点調整を行うことに関しては、もはや女性差別以外の何物でもない」

早稲田大学大学院は、大学院生だった女性にセクハラやパワハラをしたとして、7月27日付で男性教授を解任した。香川大学は、男性教授がTwitterで「趣味はセクハラです」といった投稿をしていたことを発表した。秋田看護福祉大学でも、女子学生2人にセクハラ行為をしたとして、男性准教授を8月3日付で懲戒免職処分にした。

なぜ、大学という高等教育の場で、性差別やハラスメントが起きてしまうのか。

大学のハラスメントと20年以上向き合い続けている、横浜国立大学都市イノベーション研究院教授の江原由美子さんは、BuzzFeed Newsにこう話す。

「『まさか大学で』『まさか教授が』と思われがちなことこそ、ハラスメントや不正の解決を難しくする、大学特有の構造なのです」

大学は性差別に満ちている

江原さんは、学生時代を含めると、大学社会に身を置いて48年になる。

「セクハラ」が流行語大賞になった後の1992年、東京都立大学の人文学部助教授となり、学内のハラスメント対策に力を注いだ。1997年に共著『キャンパス性差別事情』に寄せた文章は、このように始まる。

大学社会も、他の社会領域と同じく、性差別に満ちている。

大学社会の構成員のうち重要な意思決定に関わる管理職や教員は、圧倒的に男性によって占められており、女性は学生や大学院生・非常勤職員など、相対的に地位が低い構成員に多い。

このように、大学社会は、他の社会領域と同じく「男性支配」の社会である。

女性の教授は少なく、助手は多い

内閣府によると、大学の女性教員は人数も割合も2006年度から一貫して増え続けており、2016年度は23.7%。10年前の1.5倍となった。

だが、その内訳は上の図のように、教授など地位が高いほど女性の割合は低く、助手など地位が低いほど女性の割合が高くなっている。1997年に江原さんが指摘した状況が、現在も続いているといえる。

男女構成がいびつであるうえに、教授から学生まで明確な序列がある大学の権力構造について、ここからは江原さんに語ってもらう。


「研究者ムラ」から逃れられない

大学のハラスメントの問題は、とても厄介です。なぜかというと、被害者が加害者から逃れられないからです。

一つの大学の背後には、複数の大学にまたがる特定の専門領域の研究者集団があります。いわゆる「ムラ」に近い集団です。お互いに業績を認め、評価を共有し、家族関係に至るまで相互に知り合っています。

一般企業なら退職すれば組織を離れられますが、大学の場合は退学しても退職しても、その専門領域で研究を続ける限り、研究者ムラには所属し続けます。研究会や学会で加害者と顔を合わせることになるのです。

さらに、加害者はその専門領域の重鎮であり、研究者ムラの古参メンバーであることが多い。加害者と決定的に対立し、低い評価や悪評をムラに流されると、新参者の被害者にとっては圧倒的に不利な状況になります。

そうなるともう、その専門領域で研究を続けることはできない。被害者がハラスメントにノーと言うことは、研究者人生と引き換えになる場合もあるのです。

教授の評価が絶対

一般企業なら、人事評定には人事部をはじめ、複数の上司の目が入ります。しかし大学の業績評価や成績評価は、教授が絶対的な権力を持っています。

もちろん、論文の評価プロセスには複数の目が入りますが、主査となる教授がオッケーしない論文が通ることはないでしょう。教授との関係が最も大事で、そこが壊れたら大学を替えて分野も替えて、ゼロから出直すしかありません。

セクハラはまだ言動の不適切さの基準が明確ですが、アカハラ(アカデミック・ハラスメント)の場合には、評価が不当だと証明することがとても難しい。その分野の第一人者である教授の評価に口出しできる人は、大学の中に誰もいませんから。

インフォーマルな序列

大学の通常の研究費が減ったため、教授は企業から研究費を取るために駆け回り、ほとんど研究室にいないということもあります。

実際に研究をしているのは、地位が低い研究者たち。閉鎖的な研究室で、権限もルールもなく、将来の見通しもないまま、研究室に入った順などのインフォーマルな序列のもとで牽制し合っています。

そうした中、グレーゾーンのジェンダーハラスメントも根強くあります。女性が少ない分野の研究室で、お茶くみや酒の席でのお酌を要求されたり、「女は学問をしても仕方がない」といった将来に不安を感じさせるような発言をされたり。

助手や非常勤職員の女性が嫌な思いをしても、上司に女性がおらず相談できない。また、他の研究室のことには口出ししない不文律があるため、被害者は孤立します。被害者が声をあげにくい構造体質、声をあげても支援者を得にくい構造体質になっているのです。

問題を握りつぶす

では、大学でハラスメント被害に遭ったら、誰に助けを求めればよいのでしょう。

大学のハラスメント相談窓口が機能していない、という話も聞きます。相談の予約をして事務室に行って、何度も同じ話を繰り返して、書類に記入して、ようやく調査委員会にかけてもらえる......というプロセスをまどろっこしいと感じる方もいるでしょう。

しかし、被害者を守るためにはこのプロセスが必要なんです。

困ったことに、ハラスメント被害の相談を受けると、自己判断で立ち回る大学の先生たちが実に多い。その結果、加害者に知られることにもなり、圧倒的な力関係の差によって被害者の訴えはつぶされてしまうことがあります。

ある大学で、私がハラスメントの調査をしていたとき、学部長が飛んできて「俺のところで起きた問題なのに、なんで俺にまず報告しないのか!」と怒られたことがありました。彼は自分で問題を解決したいと言うんですが、こういう「解決」は多くの場合、表沙汰にしないことが優先され、結果的に問題が握りつぶされてしまいます。

関係者がごろごろいる大学の通常の意思決定システムには、解決能力がないのです。

被害者を守ることが第一

自浄作用が働きにくい大学組織のハラスメント対応で重要なことは、通常の権力体制から外すことと、被害者を保護することです。被害者が同意しない限り、周りが勝手に動いてはいけません。

「ハラスメントがあるのに誰も動いてくれない」と不満に思う人もいるかもしれません。本人の同意が必要ということでは、被害者にプレッシャーがかかるという批判もあります。それでも被害者の同意なしに加害者へ介入することは、被害者にどんな被害が及ぶかわからないので、どうしても避ける必要があります。被害者保護を第一にすべきだと思っています。

大学によって、ハラスメントの相談件数はケタが違います。相談件数の多さはハラスメントの多さと比例しているわけではなく、相談しやすさや、深刻化する前に対策できていることも表しています。

大学はハラスメントをなくせるか、組織のあり方が問われていると思います。

大学のハラスメント対応の実態については、セクハラ相談員は「触られたくらいで」と言い放った。大学はハラスメントに対応できるのか にまとめています。


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