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豪雨災害と感染症 ~被災地での感染症から身を守るために~

十分な衛生環境が整っていない被災地で、今、あなたにできることは?

この度の豪雨による災害により亡くなられた方々には、深く哀悼の意を捧げます。そして、被災された皆様にも心よりお見舞いを申し上げます。

災害の後には、衛生環境の悪化、栄養状態の低下、避難所での集団生活などによって、いろいろな感染症の発生リスクが高まります。

不明者を捜索する警察の救助隊員(13日、広島県坂町小屋浦)。猛暑や衛生環境の悪化で感染症のリスクが高まることが心配される
時事通信

不明者を捜索する警察の救助隊員(13日、広島県坂町小屋浦)。猛暑や衛生環境の悪化で感染症のリスクが高まることが心配される

今回のような広域災害の場合には、猛暑などの気候の影響、水の不足、トイレやお風呂不足のなどの状況が、地域によって大きく異なることも特徴です。

このような環境においては、全てにおいてベストな対策をとることは困難です。

したがって、注意すべき感染症の特徴を知り、それぞれの環境の中で行える方法を選びながら、感染症のリスクを少しでも低くしていくという考え方が必要となります。

感染症専門医の立場から、今、あなたにできることを一緒に考えてみましょう。

【豪雨をきっかけに起こる感染症】

豪雨災害後の被災地における作業では、「破傷風」への十分な注意が必要となります。破傷風は、死亡率の高い病気です。

菌が産生する強力な神経毒によって、3~21日で口が開きにくくなる開口障害が現れて、全身けいれん、そして呼吸筋麻痺を起こしてしまいます。

破傷風の原因菌は、外界では芽胞(がほう)という殻の中で安定して、一般的な土壌の中にも潜んでいます。空気が嫌いな菌なので、古い釘を深く刺した時など、空気の少ない深い傷の奥などで増殖して、強力な毒素を産生するのです。

浸水し泥だらけになった自宅を片付ける住民ら。釘などを刺して破傷風のきっかけを作らないようにしたい(13日午前、岡山県倉敷市)
時事通信

浸水し泥だらけになった自宅を片付ける住民ら。釘などを刺して破傷風のきっかけを作らないようにしたい(13日午前、岡山県倉敷市)

したがって、大雨によって流れてきた木材、壊れた家の瓦礫、流れ込んだ泥などを処理する作業の時には、深い傷を負わないように注意する必要があります(擦り傷などの浅い傷は、空気に触れやすいので、深い傷よりリスクは低くなります)。

また、「レプトスピラ症」という感染症も、豪雨災害の後に起こることがあります。レプトスピラは、病原体を含むネズミなどの尿によって、水や土壌が汚染されてしまい、それが皮膚や粘膜に接触することで感染します。

これらの感染症は、まれな病気ではありますが、重症となることが多いので予防対策が必要です。

暑い時期ではありますが、上記のような作業を行う場合には、予防のために長袖と長ズボン、厚手の手袋を着用しましょう。

また、靴については、できれば底が厚いものがおすすめです。また、作業によって、深い創傷を負ってしまった場合には、現地の医療スタッフに相談してください。破傷風を防ぐために、受傷後に接種するワクチンや免疫グロブリンもあります。

【細菌による食中毒】

今回のような夏の時期に発生した豪雨災害後には、細菌による食中毒が、身近で発生しやすい感染症のひとつとなります。

猛暑が続く中においては、食中毒の菌も増殖しやすくなります。また、災害後の家や避難所では、水回りなどの衛生環境や食品保存が悪化するため、食中毒の危険性もさらに高くなるのです。

日常生活と比較して、より災害後に注意したい食中毒菌として、「黄色ブドウ球菌」「ウエルシュ菌」があげられます。

避難所の食事で心配なのはおにぎり。食中毒を起こさないように使い捨て手袋かラップを使って握ることがおすすめだ
Tagstock1 / Getty Images

避難所の食事で心配なのはおにぎり。食中毒を起こさないように使い捨て手袋かラップを使って握ることがおすすめだ

黄色ブドウ球菌による食中毒は、エンテロトキシンという毒素によって食後1~5時間という短時間で発症します。

この菌は、もともと人の手に常在しています。したがって、災害後の食事として作られる「おにぎり」が原因となりやすく注意が必要です。特に、手に傷があったり、荒れていたりすると、菌の量が多くなって食中毒を起こしてしまいます。

できれば、使い捨て手袋をつけるか、ラップを使って握ることがおすすめです。作る前には、手をよく洗うようにしてください。水が十分にない時には、アルコールを含む手指衛生剤、ウエットティッシュ、ペーパータオルなども役立ちます。

ウエルシュ菌は、100℃に熱しても死なず、40~50℃という高い温度で増殖しやすい食中毒菌です。したがって、カレー、シチュー、煮物など、大きな鍋の中で、ゆっくり温度が下がる時に菌が増殖してしまいます。災害後には、炊き出しなどで大きめの鍋をつかって調理することもあります。一度で食べきってしまうか、できるだけ素早く冷ましたり、小分けにしてしまうのが対策のポイントとなります。

鶏肉に多い「カンピロバクター」、卵に多い「サルモネラ菌」などによる食中毒については、日常の注意点と同じように、しっかりと火を通すことで予防することができます

水が不足している中では、食材の水洗いが十分にできないので、野菜類も加熱することがすすめられます。

食中毒になってしまったら?

下痢・腹痛・おう吐などの症状が出た場合には、可能ならば医療スタッフに相談してもらいたいですが、特に幼小児や高齢者は脱水に注意が必要です。幼小児では脱水に気づくのが遅れたり、高齢者では水不足で我慢してしまうこともあります。

腹痛、おう吐などの症状が出たら、特に脱水に気をつけて
Ah86 / Getty Images

腹痛、おう吐などの症状が出たら、特に脱水に気をつけて

また、基礎疾患がある方にも注意が必要です。弱者を優先して「気づき」と「ゆずり合い」も大切です。

下痢やおう吐などの症状がでた人は、二次感染による拡大を防ぐことも重要です。

これには、トイレのあとの手洗いが最大のポイント。手洗いの水が十分になければ、アルコール手指消毒剤や、アルコールを含んだウエットティッシュも役に立ちます。また、下痢をしている人のオムツを扱う場合にも、使用後のオムツ処理に注意し、処理後の手洗いを行うことが大切です。

被災地となった現地では、手洗いも十分にできない環境となっていることが多くあります。もしも、水の利用に制限があるのならば、調理前、食前、排便後、そして排便後のオムツ処理後などが、食中毒を防ぐために手洗いを優先する場面となります。

【一般的な感染症への注意】

避難所などの、人が密集して生活するところでは、日常的な様々な感染症が流行しやすくなります。

罹災(りさい)証明の申請に訪れた真備町地区の被災者ら(13日午前、岡山県倉敷市)。咳が出始めたら、マスクの活用や咳エチケットも重要となる
時事通信

罹災(りさい)証明の申請に訪れた真備町地区の被災者ら(13日午前、岡山県倉敷市)。咳が出始めたら、マスクの活用や咳エチケットも重要となる

日常的にもすすめられている、「咳エチケット」や「手洗い」は、このような感染症の流行に対しても有効です。咳がではじめた人は、マスクを着用することをおすすめします。

マスクがない場合には、人に向かって咳をしないように気をつけ、ティッシュや肘の裏側で覆って咳をするようにします(手で覆うと、汚染された手で他の環境に触れる可能性があります)。

高齢者には、まわりのことを気づかってしまい、症状を訴えるのが遅くなってしまう方もいます。症状の発見が遅れると重症化するかもしれません。

また、感染症の対応が遅れることで、結果的に他の人へ感染を広げてしまう可能性もあります。自分のためだけでなく、まわりの人のためにも、下痢、咳、発熱などによる症状を早めに伝えることは大切だということを知っておくことも大切です。

【ボランティアとして参加する方へ】

災害時には、多くのボランティアの方々による、献身的な努力も大きな助けとなります。

住宅から土砂をかき出す住民とボランティア(12日、広島市南区似島)。感染症を持ち込まないように予防することも大事だ
時事通信

住宅から土砂をかき出す住民とボランティア(12日、広島市南区似島)。感染症を持ち込まないように予防することも大事だ

しかし、他の地域からボランティアとして参加する場合には、感染症を持ち込まないことも重要です。せっかくボランティアとして参加するのに、感染症を流行させるきっかけとなってはいけません。

発熱だけでなく、咳や下痢があるときには活動を控えることは最低限のルールです。また、現地の方々が多く生活している避難所に、必要以上に入ることは避けておきましょう。

現地で、土砂、木材、家の瓦礫や家財などを処理する作業をする予定の方は、感染症予防のために、長袖と長ズボン、厚手の手袋、底が厚い靴を準備してください。

マスク、ウエットティッシュ、アルコール性の手指衛生剤などは、自分で持参することをおすすめします。また、破傷風の予防においては、最終のワクチン接種から10年以上が経過している場合には、早めの追加接種についても検討してください。

【今村顕史(いまむら・あきふみ)】がん・感染症センター 都立駒込病院 感染症科部長

石川県出身。1992年、浜松医大卒。駒込病院で日々診療を続けながら、病院内だけでなく、東京都や国の感染症対策などにも従事している。日本エイズ学会理事などの様々な要職を務め、感染症に関する社会的な啓発活動も積極的に行っている。駒込病院感染症科のウェブサイトはこちら