インフルエンザによる死亡例のニュース
インフルエンザが全国的な流行ピークに向けて急増しています。そのような状況の中で、病院での集団発生での死亡例、インフルエンザに伴なう肺炎での死亡例、小さな子どもの脳症での死亡例などの、重症例についてのニュース報道も増えています。このような記事をみると、多くの人は不安になると思います。
その一方で、会社や学校、あるいは家族内でも、多くの人がインフルエンザに感染して、数日間を休むだけで元気に復帰しています。そんな様子をみていると、インフルエンザという感染症は怖くないという気もしてきます。
はたして、インフルエンザは怖い感染症なのでしょうか? それとも、たいしたことのない感染症なのでしょうか?
この問題を理解するためには、重症化してしまう原因、日本における流行状況など、インフルエンザのことを正しく知ることが必要となります。

どのように重症化するのか?
インフルエンザは、特別な治療を行わなくても、多くの場合には自分の免疫によって治すことができるウイルス感染症です。しかし、稀に重症化してしまい、死亡の原因となってしまうことがあります。
それでは、インフルエンザに感染した人が、どのようにして重症化するのかを考えてみましょう。
インフルエンザのウイルスは、稀に肺炎や脳炎を起こすことがあります。そして、この「インフルエンザ肺炎」と「インフルエンザ脳症」は、重症化して死亡の原因となることがあります。特に、インフルエンザ脳炎は小さな子どもに発症しやすい合併症となっています。
また、高齢者を中心に起こりやすい合併症に、二次性の細菌性肺炎があります。これは、上記のインフルエンザウイルスが直接原因となる肺炎とは異なります。
インフルエンザに感染すると、ウイルスによって気道の粘膜などがダメージを受け、その局所にあった免疫機能が低下します。そして、局所の免疫が低下することで細菌が侵入しやすくなり、肺炎を合併しやすくなるのです。
したがって、このような細菌による肺炎は、インフルエンザに感染して回復し始めてから発症することが多くなります。
そして、進行がん、慢性の呼吸器疾患、腎障害によって透析をしている人、基礎疾患によって体力の低下している高齢者などでは、インフルエンザの発症をきっかけにして、もともとあった病気が悪化してしまうことがあります。
その結果、インフルエンザの間接的な影響によって死亡することもあるのです。
毎年の死亡者数は多いのか?
このように、インフルエンザには、ウイルスが直接の原因となる肺炎と脳症だけでなく、二次的に起こってくる細菌性肺炎、そして間接的な影響による死亡例があるのです。
医療現場では、インフルエンザが直接の原因でなければ、患者さんが亡くなった死因をインフルエンザとしては報告しないことがよくあります。したがって、インフルエンザの影響による死亡者数は、常に過小評価される傾向があるのです。
では、毎年の季節性インフルエンザでは、どれくらいの人が亡くなっているのでしょうか。ここでは、参考として厚労省のページをご紹介しましょう。
このページは、2009年に発生した新型インフルエンザ(今は季節性インフルエンザのひとつになっている)の解説となっていますが、その中にある「Q10」に季節性インフルエンザによる感染者数と死亡者数についての情報が記載されています。
この中から、重要な数値を以下に引用しながら、その意味を説明していきましょう。
死因別死亡者数では、年間でインフルエンザによる死亡数は214(2001年)~1818(2005年)人です。
毎年流行するインフルエンザは、その年によって流行するウイルスの型が異なります。以前かかったことのあるウイルス、あるいはワクチン接種の影響などによっても、死亡者数は変動する可能性があります。
このデータでもわかるように、インフルエンザが関与していると報告されている例だけでも、数百人~千人程度は死亡していることがわかります。
インフルエンザによる年間死亡者数は・・・日本で約1万人と推計されています。
インフルエンザによる直接の原因だけでなく、報告されない間接的な影響も含めれば、日本でも約1万人が毎年死亡しているということが推測されるという情報です。
これらの情報から、インフルエンザの影響によって死亡する人が、予想以上に多いと感じる人も多いのではないでしょうか。
インフルエンザの死亡率は高いのか?
では、インフルエンザは感染した人の多くが重症化する感染症なのでしょうか。このことを理解するためには、全体の感染者数についての情報を知る必要があります。
ここで、先ほどご紹介した文章から、感染者数に関する情報を引用してみます。
例年のインフルエンザの感染者数は、国内で推定約1000万人いると言われています。
推定約1000万人・・・インフルエンザの死亡についての情報を正しく理解するためには、この感染者数のことを知ることが大切なのです。インフルエンザは、ごく軽症で終わる人や、ほとんど無症状の人もいます。
また、インフルエンザに感染していても、検査で「陰性(マイナス)」と判定されてしまう人もいます。毎年、季節性インフルエンザにかかっている人は、みなさんの予想以上に多いのです。
したがって、インフルエンザによる死亡については、次のように考えることが正しい理解となります。
『インフルエンザが影響して死亡する人は、みなさんの予想以上にいます。しかし、感染者数も予想をはるかに超えた人数なので、死亡する割合は決して高くはなく、ほとんどの人は問題なく軽快しています』
特に注意すべき人は?
インフルエンザは、慢性呼吸器疾患、慢性心疾患、糖尿病、腎障害などがあると重症化しやすくなります。また、抗がん剤やステロイドの投与によって免疫不全がある場合も注意が必要です。
さらに、乳幼児、高齢者、妊婦についても、重症化しやすいグループとしてあげられています。
インフルエンザのワクチンは、打ってから効果がでるまで2週間かかります。しかし、このような方々については、今からでも接種することをおすすめします。
また、すでに感染してしまったという人も、決して安心してはいけません。インフルエンザにはA型とB型があり、A型が先行して流行して、後半にB型が増えるというのが例年の典型的なパターンです。
しかし、今年はA型とB型が同じタイミングで流行しています。最悪の場合には、続けて「2回」もインフルエンザにかかってしまうことがあるからです。
インフルエンザにかからないようにするために、みなさんができる予防策を以下のページにまとめてみました。こちらの記事もぜひお読みください。
『なぜインフルエンザにかかってしまうのか? ~原因から考える予防法~』
インフルエンザは、本人の免疫が治るために重要な働きを担っています。また、感染を広げないためにも、かかった本人がしっかり休むことが大切です。そのためには、休みやすい環境を作るなど、会社や学校の十分な理解も必要だと思います。
少しでも感染しないように、重症化しないように、この流行期を乗り越えていきましょう。
【今村顕史(いまむら・あきふみ)】がん・感染症センター 都立駒込病院 感染症科部長
石川県出身。1992年、浜松医大卒。駒込病院で日々診療を続けながら、病院内だけでなく、東京都や国の感染症対策などにも従事している。日本エイズ学会理事などの様々な要職を務め、感染症に関する社会的な啓発活動も積極的に行っている。