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インフル流行・・・知っておきたい2つの真実

陰性の検査結果や治癒証明書。意味のないものに振り回されていませんか?

いよいよ今期のインフルエンザも、全国的な流行入りとなりました。これからは、大晦日・お正月と大勢の人が集まるビッグイベントが続きます。今は地域の散発的な流行であっても、年末年始の人の大移動によってシャッフルされて、年明けに学校や会社が始まると、一気に流行のピークへ向かうことになるでしょう。

これを読んでいる方々の中にも、鼻の奥を綿棒でグリグリする検査を受けたことのある人も多くいるはずです。検査の結果が陰性で、ホッと一安心……でも本当にそうでしょうか。

また、インフルエンザと診断された場合に、園や学校、そして会社などから、病院からの陰性証明を求められることもあると思います。でも、その証明書にはどんな意味があり、本当に必要なものなのでしょうか。今回は、これら2つの話題について解説してみましょう。

【検査で陰性......本当にインフルじゃないの?】

すでに、インフルエンザの検査を受けたことのある人は多くいると思います。鼻の穴に長い綿棒を入れられて、奥の方をグリグリとされることは、だれにとってもいい気持がするものではありません。

でも、その検査によってインフルエンザかどうかわかるのだから、仕方がないと思って検査を受けてくれたのだと思います。

インフルエンザ検査の結果は、たった2つのパターンに分けられます。

一つは「陽性(プラス)」であり、陽性の場合には、あなたはインフルエンザと診断されます。もう一つは「陰性(マイナス)」で、この結果を聞くとインフルエンザではないと思うでしょう。

しかし、この判断には大きな間違いがあります。実は、この検査は、たとえインフルにかかっていても、すべてが陽性になるという検査ではないのです。

この検査は、感染の直後や、感染から時間が長く経過すれば、陽性となりにくくなってしまいます。また、本当はインフルエンザで、最も陽性になりやすいタイミングで検査を行っても、陽性とならないこともあります。

さらに、検査する医師のグリグリする方法(上手さ)によっても、その結果が変わることもあります。

つまり、実際にはインフルであっても、検査で陰性(マイナス)となってしまうことは、けっこうあるというのが現実。「熱?検査してこい!」→「検査で陰性」→「インフル否定で勤務オッケー」......なんて対応をしがちですが、たとえ陰性であっても、「絶対にインフルエンザではない」と証明されたわけではないのです。

インフルエンザを疑う代表的な症状には、以下のようなものがあります。

  1. 突然の発症
  2. 38℃以上の発熱
  3. 上気道炎症状(咽頭痛、咳、鼻水など)
  4. 全身症状(筋肉痛、全身けん怠感)


インフル流行期に、これらの条件を満たした時には、かなりインフルエンザの可能性が高くなります。したがって、このような症状で病院を受診した場合には、仮に検査結果が「陰性(マイナス)」であったとしても、インフルエンザの可能性は残ります。

たとえ陰性でも、手洗いの徹底や、マスク着用などの咳エチケットを、しっかりと行っておくことが大切です。

また、学校や会社等では、休みやすい環境をつくっておくことも大切です。休みにくい状況があれば、症状のある人が、無理をしてでも登校・出勤してきます。そして結果的には、学校や会社での集団感染につながってしまう危険性が高まってしまうからです。

【治癒証明......その書類、必要ですか?】

インフル感染で出席停止となり、治って再び登校するときに「治癒証明」を求める学校がまだあります。また、今でも会社から「感染していないことを病院で確認してもらってこい」と言われて困ってくる人もいます。

しかし、医療の現場においては、季節性インフルエンザの治癒確認のために検査をすることはありません。

インフルエンザの出席停止期間は、「発症したあと5日を経過し、かつ、解熱した後2日を経過するまで (注:保育所は解熱後3日となっている)」となっています。これは、あくまでも学校保健安全法による出席停止期間であり、大人に対しての正式な基準もありません。

病院に行っても、お医者さんは治癒確認のために検査をすることはありません。単に「いつから症状がでましたか?」、「いつ熱が下がりましたか?」と、あくまでも本人の言うことを信頼して確認しているだけです。

インフルの治癒証明は、実は治癒の証明はしておらず、そこにどうしても必要となる情報はありません。むしろ、本人が証明書を受け取りに行く時間的な負担、受診料や証明書の費用負担、そして流行期の医療現場への負担……。そこには無駄な負担しかないのです。

ところが今でも、治癒証明書を持ってくることを義務づけている園や学校が多くあります。最近は、治癒証明を断る病院やクリニックも増えてきています。その場合には、ふつうは診療を行っていない他の施設で治癒証明を受け取ることができないので、間に挟まれてしまった親子も困ってしまいます。

もしも必要ならば、治癒証明の代わりに、たとえば、「発症からの体温の記録」や「何日に熱がでて、何日に熱が下がったか」などを記載した用紙を、本人に持参してもらうなどの方法もあります。それでは、本人がうそをつくかもと心配する学校関係者もいるかもしれません。

でも、それは病院を受診した時も同じです。病院でも、あくまでも本人の話を信頼しているだけなのですから。


こちらもご参考に。

『なぜインフルエンザにかかってしまうのか?~原因から考える予防法~』


【今村顕史(いまむら・あきふみ)】がん・感染症センター 都立駒込病院 感染症科部長

石川県出身。1992年、浜松医大卒。駒込病院で日々診療を続けながら、病院内だけでなく、東京都や国の感染症対策などにも従事している。日本エイズ学会理事などの様々な要職を務め、感染症に関する社会的な啓発活動も積極的に行っている。駒込病院感染症科のウェブサイトはこちら