彼らは音楽性の違いで「解散しない」。“パンク路線から大変身したバンド”が11周年を迎えられた理由

    ネクストブレイクとして注目されている4人組音楽バンド「FIVE NEW OLD」。活動の中で音楽性をガラッと変えた彼らに、「音楽性の違いで解散しない」理由を聞きました。

    「音楽性の違いにより」

    バンドの解散やメンバーの脱退等が起こった際に、よく聞く理由だ。

    1つのチームで活動をするからこそ、誰か一人でもやりたい音楽の方向が違えば、バンドはうまくいかなくなる。

    逆に各々の「音楽性の違い」を楽しむグループも存在する。

    ネクストブレイクとして注目されている4人組バンド「FIVE NEW OLD(ファイブニューオールド)」もそのうちのひとつだ。

    2012年にデビューした彼らは当時、「フォール・アウト・ボーイ」や「オール・タイム・ロウ」のようなポップパンクど真ん中のサウンドを奏でていた。

    だが、その後2014年にリリースされた『Hole』ではジャズやR&Bの要素を取り入れ、オルタナティブなサウンドへと大変身を遂げたのだ。

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    デビュー11周年を迎える2021年、 5月現在ですでに4本もTVタイアップを獲得するなど、FIVE NEW OLDはますます勢いを増している。

    なぜ方向性を変えても第一線で活躍し続けられているのだろう。メンバーに聞いた。

    「パンクをやらない」メンバーの葛藤


    ーーポップパンクから、どのようにして今のスタイルになったんでしょうか。

    HIROSHI:2010年にFIVE NEW OLDを結成してから、ずっとパンクをやっていたんですが、音楽の技術が上達していくにつれて、もっと凝ったことや奥行きのある音楽をやりたいなと。

    その時に、音楽を聴き始めたきっかけを振り返ってみたら、子供の頃に家族が聴かせてくれたジャズとかモータウン・サウンドが源流にあったなあと気づいたんですね。

    そういう音を楽曲にアプローチしたときに、ストンとハマる感覚があって。それが『Hole』だったんです。

    ただ、最初はバンドの中で自分だけがひとり歩きしてしまっていた感じはありました。

    自分自身でも方向性が定まっていなくて、デモを出した時に「これは自分たちがやるべき音楽なのか」という意見が出ることもありました。

    ーーメンバー内でも葛藤があったと。

    HAYATO:バンドのコンセプトやイメージとして「海外バンドに日本人が近づけるように頑張ろうぜ」というのが最初にあったんです。自分も「ドラムは殴るもの」「シンバルは割ったほうがかっこいい」とか、ガムシャラなスタイルだったので。

    なので『Hole』を最初に聴いた時、メロディーはすごく良かったんですが「『FIVE NEW OLD』がやるべきことなのかな」と率直に思いました。

    当時もうひとつ、4つ打ちでアッパー系の曲があって。そっちの方が今までのイメージと近いので、リード曲として押し出す予定でした。

    ただ、レコーディングし終わった後に『Hole』を聴いてみたら、めちゃくちゃかっこよくて。

    正直、ここまでパンクの部分が消えるとは思ってなかったですけど、HIROSHIから「この方面でやっていきたいんだよね」って話をされたので、それならやっていこうと思いました。

    ーーそこで意見が割れなかったんですね。

    HAYATO:そうですね。スタンスとしては「HIROSHIがやりたいことを表現したい」なので。

    ーーHIROSHIさん、とても愛されているんですね。

    HAYATO:結成のきっかけも、僕が彼の歌に一目惚れして、ですから。

    元々HIROSHIとWATARUが2人でやっていたバンドと、僕がやっていたバンドがお互い解散したタイミングで。半年かけて口説いたんですよ。その時から気持ちは変わっていないんです。

    WATARU:僕は幼稚園からの幼馴染で、もう25年くらい一緒にいるんですよね。

    学生時代から一緒に作品作りをするのが楽しくて。それがHIROSHIと音楽をやりたい理由なので。純粋に彼が作り出す音楽が好きなんですよ。

    ーーすごい関係性だ。SHUNさんは2017年からの加入ですが、バンドの空気をどのように感じていましたか。

    SHUN:正式に加入する前もサポートとして関わっていたんですが、その時はわりと俯瞰でメンバーを見ていて。

    先ほどあったように、「HIROSHIがやりたい音楽をみんなが支える」という印象は感じていました。

    だから、HIROSHIがやりたいことじゃないと進んでいかないなと。加入時にもバンドとして進むべき方向はメンバーと話し合えて、みんなと共通の認識が持てているなと感じています。

    「音楽性の違い」を楽しむ


    ーー「HIROSHIさん=バンドの方向性」となると、意見がぶつかることはあんまりないんでしょうか。

    HIROSHI:ありますよ。

    お互いに「こうした方がもっといい曲になる」って気持ちが強いと、平行線のまま進まないってこともあったりします。ただ、感情的にぶつかるってことはないです。

    だけどそういう時って、自分が凝り固まってるところがあったんだなって、話を重ねるにつれだんだん気がついてくるんですよね。

    自分にないところから出てくるアイデアだと、最初は戸惑ってしまうんですが、やってみたら面白いかもしれないって思えたり。

    SHUN:意見がぶつかる中でも、「この部分はいいよね」ってお互い認め合えている部分があるので、「この曲では違うけど、他の曲でアイデアを採用しようか」って進め方ができるんです。

    HIROSHI:瞬間的にだと「片方の意見が通って、片方が折れた」って見えるかもしれないんですが。長い目で見たら、折れたように見えた意見が反対側の人に吸収されて、別の形で生まれ変わったりしてるってことはありますね。

    こう考えると、コミュニケーションとか話し合いって大事ですね。

    バンドに起こった「もう一つの変化」


    ーー話し合いを積極的にしているからこそ、ここまで4人の信頼関係が築き上げられているんですね。

    HAYATO:そうですね。ただ、すごく意見が言い合えるようになったのはここ2年くらいからなんです。

    HIROSHIは、今は底抜けに明るいですが、それまで口数が少ない方でした。前まではバンドのフロントマンとして「俺が進まないと」って気持ちで、抱え込みすぎていたと思うんです。

    それが、メンバー同士の接着剤になってくれるSHUNの加入によって徐々にほどけてきて。「みんなで作っていこうぜ」って雰囲気に変わったような気がしますね。

    ーーそれは意外です。口数が少ないのは意識的だったんですか?

    HIROSHI:意識的だった部分もあると思います。性格的に、みんなとワイワイ楽しくするのも好きなんですが、それと同じくらい喋りたくなくなったり大勢が苦手に感じる時もあったりします。

    バンドを始めた時も、バンド同士のコミュニケーションってのがよくわからなかったんです。先輩への接し方とか、後輩との関係性とか…どうするのが正しいのかわからなくて。

    その点HAYATOは昔からバンドの交友関係が広いので、コミュニケーションのとり方をちゃんと分かっているので、任せっきりにしていました。

    それがバンド内のコミュニケーションにも影響していたのかなと。

    ーーそこから、どのように変わっていったんでしょうか。

    HIROSHI:先ほどあったように、みんな「HIROSHIがやりたいことをやりたい」って言ってくれるんです。それだと、自分は常に何をやりたいか考えてないといけない。

    中途半端な答えはできないと思っているからこそ、さんざん待たせた挙げ句、自分の中からなにも答えが出せないってことも多かったんですよね。

    これだとみんなを困らせて、迷惑をかけてしまう。ここままではいけないと思ったんですが、3人は「どうしていこうか」って、一緒に考えてくれて、僕の想いをすくい取ろうとしてくれたんです。

    その時に、自分はバンドを背負っていたわけではなく、ただみんなを手持ち無沙汰にしてしまったんだなって気づきました。

    今まで、僕の答えが出るまで待たせてしまっていたのは時間の無駄だった。これからは「わからないことはわからない」と共有したほうが絶対にいいなと。

    頼れるようになってからは、むしろ自分がやりたいことが明確になってきて。なにを背負わないといけないかがはっきりわかるようになりました。

    ーー幼馴染のWATARUさんは、この変化をどう見ていましたか?

    WATARU:HAYATOから見て、HIROSHIの印象は「おとなしくて静かなやつ」だったと思うんですが、自分は小さい頃から知っているので、抑えているのも感じていました。

    ーーでは、WATARUさんからもアドバイスなどがあったのでしょうか。

    WATARU:いや。僕もコミュニケーションが苦手なので、HIROSHIの気持ちや悩みがわかるなって。むしろ「よく喋ってるな」って思うこともありました。

    周りがどうこう言ったってよりは、HIROSHI自身で変わっていったんじゃないでしょうか。

    音楽を職業にしていく気持ちがなくて


    ーー「FIVE NEW OLD」もいい方向へ変わっていったのではないでしょうか。

    SHUN:自分は加入時から、このバンドのポテンシャルとか、メンバーの才能を枯らしたくないなって気持ちがあって。もっと彼らを世の中に広めるべきだし、日本の音楽シーンにとってすごく重要なことをしてると思っているんです。

    HIROSHIは、ほっといたらすぐ好き勝手なことをやってしまうんですよ。急に音楽をやらなくなったと思えば、四六時中ゲームに夢中になったりとか。

    集中力がどこにいくかわからない人なので、HIROSHIがやりたいことや思っていることをフックアップしながら、みんなで音楽をつくれるのようになったのは本当にいいことだと思っています。


    HIROSHI:最初、HAYATOが誘ってくれた時は、本気で音楽を職業にしていこうって気持ちがなくて。大学の青春の一部としてなんとなくやっている感覚だったんです。

    だけど、実際にスタジオに入って音を鳴らした時に熱意がすごく伝わってきて、「やってみてもいいかもしれない」って思えました。

    HAYATOがいなかったら、こんなに帰る場所も増えなかったなあと。

    SHUNが加入したことによりコミュニケーションが増えたし、最初の頃より今の方がいろんな話をするので、絆はどんどん強くなっている感じがしますね。

    3人と会えるのが本当に嬉しいし、このメンバーでバンドができてすごい幸せだなって思います。