将棋、囲碁、チェス 強くなる人工知能とそれぞれの向き合い方

    スマホで“カンニング”できる時代に。

    将棋プロ棋士の公式戦で、スマートフォンの対局室への持ち込みや利用が12月から禁止になる。

    コンピュータソフトが急速に強くなる中、スマホを使った不正や“カンニング”を防止するための施策だ。

    同じボードゲームのチェスや囲碁ではどのような対応をとっているのだろうか。

    BuzzFeed Newsは、日本将棋連盟、日本チェス協会、日本棋院のそれぞれに現状を聞いた。

    強くなる将棋ソフトとどう付き合うか

    日本将棋連盟によると、12月に新たに追加する規則は(1)スマートフォンなどの電子機器を事前にロッカーに預けること、(2)対局中の外出の禁止、の2つ。

    これまでは対局室の持ち込みは容認されており「着信音や振動が妨げにならないよう電源を切ること」という周知や、口頭での注意にとどまっていた。

    数年前にも一度、電子機器の持ち込みを制限を検討する委員会を連盟内で立ち上げたが、当時は結論は出なかった。

    今回、明確に規定を設けることになったのは、将棋ソフトの進化が大きいという。

    将棋ソフトは近年急速に強くなっており、年に1度行われている人間とコンピュータの対局「電王戦」でもプロ棋士に勝利する率は上がっている。「棋士の間でも研究や検討に役立てている人は多く、実力は周知の事実」という。

    手元のスマホで簡単に分析、検討できることから、トイレ休憩や昼休みなど席を立ったタイミングで、「次の一手」を“カンニング”する可能性を懸念したものだ。

    「これまでは不文律として個人のモラルにまかせていたが、時代の流れ。棋士からの要望もあった」

    新たな規定を作ることに対し、9月末に棋士60人にアンケートを実施。約6割の賛成があったことを踏まえ、連盟常務会であらためて協議し、決定したという。

    公式戦は、長いものだと深夜にまで及ぶ。昼食、夕食休憩も含めた外出禁止に関しては「1日中、将棋会館にいるのは息苦しい」などの反対意見もあったが、総合的に判断したそうだ。

    外部会場で実施するタイトル戦のルールは、主催者と協議して決めていくという。名人戦や王位戦など、2日間かけて行われるものもある。

    プロ棋士の1人、野月浩貴七段はTwitterで「対戦相手と同じ部屋にならないよう、2つに分けてほしい」と要望している。

    休憩時の食事、部屋を二つに分けて対戦相手と同じ部屋にならないようにして欲しいな。 対戦中の相手と同じ部屋でご飯食べるの嫌で注文はほとんどしなかった。 今度要望を出しておこう。

    日本将棋連盟は、12月のルール変更までに「食事や喫煙場所の確保、休憩する環境の整備などに取り組んでいく」と話した。

    チェスの世界では?

    チェスは、将棋よりも早い時期からコンピュータが人間の実力を上回っている。先んじて規定は設けられているのだろうか。

    日本チェス協会に聞くと、国内試合では電子機器の持ち込み禁止の規定はなく「電源を切って鞄に入れておくように」と周知しているという。

    「『見ないだろう』という性善説でプレイヤー各個人に任せている。海外の大会では持ち込み自体を禁止しているケースもある」

    囲碁はスマホで失格?

    囲碁は、将棋やチェスと異なり、まだコンピュータの進化が人間の実力に追いついていないゲームの1つだ。

    5月にはGoogleが開発する人工知能「AlphaGO」が世界のトップ棋士に勝ち越したが、一般的に普及しているわけではない。

    日本棋院は「現状では持ち込み、使用ともに規制していない」と話し、「将棋と比較してまだソフトが検討に利用できるレベルに達していないのが大きい。棋士からの要望も特に出ていない」と説明する。

    当然、対局を妨害しないよう「電源を切るように」という周知はしている。囲碁の場合、将棋やチェスと異なり、反した場合にペナルティを設けているという。

    対局中、電源を切らずに着信音が鳴った場合、1度目は警告だが、2度目で失格に。進行中の対局の負けが無条件に決定する。

    正式に定められたルールではあるが、この規定で負けた棋士はまだいない。