「攻殻機動隊」から20年、押井守はVRの時代をどう見るか?「人間はどうやってモノを学ぶようになるんだろう」

    「最低でもあと10年は仕事したいですね」

    ベルリン発のテクノロジー&アートのフェスティバル「Tech Open Air」(TOA)の日本におけるプレイベント「TOAワールドツアー東京」が、2月22日に開催された。

    「機動警察パトレイバー」「GHOST IN THE SHELL / 攻殻機動隊」などで知られる映画監督の押井守さんも登壇。テクノロジーがアニメに与えた影響、VRへの期待と不安など、持論を展開した。

    電脳世界を描いた作品など、デジタルアニメーションの先駆者として語られることも多い押井監督。4月には「GHOST IN THE SHELL / 攻殻機動隊」のハリウッド・リメイク版映画がスカーレット・ヨハンソン主演で公開予定だ。

    1995年公開の「攻殻機動隊」の制作を振り返り、「実はコンピュータで作ったカットは全編のうち10%程度」「CGっぽく見せかけてるだけで、お金がなかったから……」と、笑いながら当時のことを話す。

    「『思わせているだけ』なのがポイント。僕らの仕事は、あくまで近未来的なイメージを捏造することなので」

    「どんな色彩で、どんな解像度なのか。人々が想像できるように映像で見せるまでが映画監督の仕事。実現するのは僕らがやることではありません」

    進化が著しいVRに関しては、複雑な思いがあるようだ。

    距離感のなさ、没入感がVRの魅力であることは認めつつ「距離感があるからこそ、いろいろ考えながら観ることができるのが映画のよさ。その意味で、僕は自分の作品にあえて感情移入“させない”努力をしてきた」と持論を話す。

    「映画も読書も、内容を楽しみながら、観たり読んだりしている自分をどこかで意識しているじゃないですか。その自意識が失われると、つまり作品との距離感がなくなってしまうと、この仕事は成立しないんですよ。理性的に踏みとどまれる領域で、没入感や多幸感をどう演出するかを考えるものなので」

    「人間の快楽原則に基いてVRが普及した未来では『人間はいつ、どうやってモノを学ぶんだろう?』と考えてしまいます。快楽ではなく、理性で観ることはできるんだろうか」

    押井監督は、昨年11月に、米国アニー賞における功労賞、ウィンザー・マッケイ賞を受賞した。

    生涯を通してアニメーション界に貢献した人物に与えられる賞で、日本人では川本喜八郎、手塚治虫、宮崎駿、大友克洋、高畑勲に続く6人目の受賞になる。

    「こんな賞ももらってしまってね。スタジオでも実写映画の現場でも、最高齢のことが増えてきた。65歳……もう『前期高齢者』ですから」

    「この賞をもらって、やめてもいいかな? とも思ったけど、今は最低でもあと10年くらいは仕事したいですね。まだまだ面白いことを、いろいろ」