「ハリウッドにアジアを紹介した男」があの日本映画のリメイクで炎上 人種差別と映画産業の現実

    ハリウッドにJホラーのブームをもたらしたプロデューサー、ロイ・リー。彼がアジアに注目したのには、ある意外な理由があった。

    「ハリウッドにアジアを紹介した」「リメイクの王」と呼ばれる男がいる。

    ロイ・リー。

    日本などアジア作品のリメイク映画を作ってきた映画プロデューサーだ。アジア映画への関心が低かった時代に、ホラー映画『リング』『呪怨』などのリメイクで成功した。

    日本映画のハリウッドでの人気に貢献した男が、今、日本原作のリメイク映画で批判を浴びている。なぜか。BuzzFeed Newsはロサンゼルスのリーのオフィスで話を聞いた。

    リメイクに対する「今までなかった批判」

    インタビューの場に現れたリーは、爽やかな笑顔を見せ、力強く握手をしてきた。そして、心から驚いているというような表情で、こう言った。

    「今までなかった批判に、びっくりしている」

    リーがプロデュースを手がけている、2017年8月25日にNetflixで配信される実写版『Death Note/デスノート』についてだ。

    オリジナルは、大場つぐみと小畑健による日本の人気マンガ「DEATH NOTE(デスノート)」。Netflixでのリメイク映画の予告編が公開されると、配役に関する批判が巻き起こった。

    日本のマンガにも関わらず、主役が白人。他の配役も白人中心であることが理由だった。"ホワイト・ウォッシング" だと非難の声が上がった。

    ホワイト・ウォッシングの長い歴史

    ホワイト・ウォッシングは直訳すると、白く洗浄すること。映画や舞台などの配役で、白人が非白人の役を演じることを意味する。つい最近の現象ではなく、ハリウッドで映画が作られ始めた初期の1900年代前半から存在していた。

    アフリカ系アメリカ人やアジア人などに見せかけるように、顔を黒塗りしたり、義歯をつけて出っ歯にしたり、白人俳優が外見を 変えて演じる映画が少なくなかった。

    『ティファニーで朝食を』でミッキー・ルーニーが演じる日系アメリカ人、ユニオシもその一人だ。

    メガネ、つり目に出っ歯。これが当時の日本人に対する典型的なステレオタイプだった。

    The Huffington Postによると、ホワイト・ウォッシングに対するメディアの批判が現れるようになったのは、1960年代。例えば、1965年に公開された映画『オセロ』は、白人が顔を黒く塗って黒人の役を演じていたことで非難の対象となった。

    非白人が40%でも主演は13.6%

    そして現在。1900年代と比べて、映画のジャンルやキャストの多様性がはるかに豊富になったハリウッドだが、ホワイト・ウォッシング批判は絶えない。

    アメリカの非白人の人口は約40%を占めている。しかし、カリフォルニア大学ロサンゼルス校(UCLA)の統計によると、ハリウッドの非白人の主演は13.6%(2015年)とごくわずかだ。

    また、アジア系アメリカ人やアジア人に限定して見てみると、2015年の上位100映画作品のうち49本の役はセリフなし、名前が付いていない、もしくはまったく登場しなかった。南カリフォルニア大学の研究でわかった。

    作品でアジア人の役があったとしても、その人種の俳優・女優が演じることはいまだに少ない。

    アジア系のキャラクターを、白人が占めていた『ドラゴンボール エボリューション』。原作のマーベルコミックではチベットの男性だったエンシェント・ワンの役を白人女性が演じた『ドクター・ストレンジ』。

    2017年には『ゴースト・イン・ザ・シェル』で少佐の役をスカーレット・ヨハンソンが演じたことで批判が殺到した。

    そして、今回の『Death Note/デスノート』への批判。日本映画を愛し、リメイクしてきたリーは、この批判に対して「ある意味不快」だと言い返す。

    その反論の裏には、アジア映画のリメイクを大ヒットに導いてきた自負がある。

    ロイ・リー自身もアジア系

    ロイ・リーは1969年、ニューヨーク・ブルックリンで生まれた韓国系アメリカ人だ。弁護士を目指し、1996年にロースクールを卒業。法律事務所に勤めたが、「もっとクリエイティブなことをしたい」と8ヶ月で辞めた。

    27歳でロサンゼルスに移り住み、プロデューサーの道を歩み始めた。

    しかし、若手で新人のリーには、条件の良い仕事の機会が少なかった。

    「ベテラン作家や脚本家の新作が出ても、まずはハリウッドで認められているプロデューサーに渡される。新人が作品を手に入れることは難しい」

    自分にしか見つけられない素材はなにか。リーは当時は誰も見ていなかった、日本のホラー映画に注目した。

    ネットが普及する前の時代には「海外からのコンテンツの需要があまりなかった」と説明する。映画祭などに通いつめ、宝の原石を探した。そして、見つけた。『リング』。日本でも大ヒットした鈴木光司原作の人気ホラー映画だ。

    2002年のリメイク映画『ザ・リング』は、 全米で143億円の興行収入を記録する大ヒットとなった。2004年の『呪怨/JUON』も全米ナンバー1に。アメリカに「ジャパニーズ・ホラー(Jホラー)」ブームをもたらした。

    現在は、共同設立したヴァーティゴ・エンターテイメント(Vertigo Entertainment)で、年に10~20件の映像制作プロジェクトを進行させているという。

    リメイクするのは「自分が観たくなる映画」

    リメイクする映画の決め手とは。

    「自分が観たくなる映画か、そして、アメリカで幅広く話題になりそうかどうか」

    「製作中も、自分が面白いと思ったコアのストーリーと感覚が必ず残っているようにしている。他の国の市場でうまくいくように、必要最低限の変更しかしていない」

    オリジナル作品のエッセンスを残したまま、ターゲットの観客に向けてわかりやすい内容に変える。この絶妙なバランスを、どのように保っているのだろうか。

    「作品ごとに、大衆が理解できるようなビジョンを提示することができる脚本家と監督を選ぶのが重要」

    「私の役割は、オリジナルの映画を数人のライターに見せて、アイディアを聞く。そして、より多くの観客が観たいものはどれか、推測しながら決めている」

    オリジナル作品の製作側とも連絡を取る。このコミュニケーションによって、リメイク側の変更も両サイドがより納得いくものになるという。

    「物語の流れについて聞くことができるし、こちらが内容を変更するときも、理由を説明することができる」

    8月にNetflixで配信される『Death Note/デスノート』も、オリジナルの製作側と連絡を取り合っている。台本とカットを送り、物語の醍醐味でもあるノートのルールなどを確認していると話す。

    この作品は、原作マンガをそのまま実写化しているわけではなく、アメリカ文化でストーリーを解釈していると語る。

    ストーリーに出てくる女性を例に挙げる。

    「アメリカのファンは、日本で描かれている女性たちがもっと自立していても良いと思っている。主人公・夜神月の恋人の女性は、控えめの性格になっているけど、アメリカではもっと自立した、強い人物に描きなおしている」

    「明らかな変更点を気に入る人もいるだろうし、気に入らない人もいると思う。特に、原作を忠実に再現してほしいファンは、作品にがっかりすると思う」

    そう言いつつ、こうも語る。

    「この作品を楽しむ人が、他の『デスノート』をさらに知ることができ、楽しめると思う」

    自信を口にするリーも驚いたのが、「ホワイト・ウォッシング」批判だった。

    ホワイトウォッシング批判に対する本音

    「今までも世界中の映画をリメイクしてきたのに、こんなにネガティブな反応を受けたのは、今回が初めて」

    ホワイト・ウォッシング批判で日本でも話題になったのが、人気マンガ「攻殻機動隊」を原作としたハリウッド版リメイク『ゴースト・イン・ザ・シェル』だが、2つの映画は大きく違う点がある。

    『ゴースト・イン・ザ・シェル』は近未来の日本が舞台だが、『Death Note/デスノート』は、アメリカ・シアトルを舞台にしていることだ。

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    Netflix Japan / Via youtube.com

    「アメリカに向けて製作しているんだから、その文化を反映させているだけ」とリーは弁明する。

    リーだけではなく、他の製作スタッフも作品がアメリカ向けであることを強調してきた。しかし、それは言い訳だと、このような批判もある。

    アメリカ文化を反映すると白人中心になると暗示しているのか。つまり、アジア系アメリカ人は、この “アメリカ文化”に含まれていないのか。

    「批判をしてもいいけど、まず映画を観るべきだと思う」

    メインキャストはワタリ役にアジア人、L役にアフリカ系アメリカ人、そして夜神月役や弥海砂役などに白人を採用している。リーは言葉を選ぶように間を置きながら、このキャストについて説明する。

    「主役にはアフリカ系アメリカ人もいるのに、これをホワイト・ウォッシングと言われるのは、ある意味不快」

    リーは、ホワイト・ウォッシングの存在を昔から知っていたが、自身の作品で意識したことはないという。ホワイト・ウォッシング批判に影響されて配役を考えることもないと断言する。

    「特定の俳優や女優を意識してプロジェクトを選んでいるわけではない。物語と、脚本の質で企画している」

    『Death Note/デスノート』にはホワイト・ウォッシングの問題はない、ともう一度強調する。

    「そもそも論争する価値がないところで、議論を起こしたくない。でも、この作品をきっかけに、どんなホワイト・ウォッシングの問題が起きているのか全体的に知ることができるんだったら、話し合う価値はあると思う」

    「単にキャストを多様化すれば良いというわけではない」

    ホワイト・ウォッシング批判に、ハリウッドはどう対応していくのか。リーは、プロデューサーの視点からこう述べる。

    「スタジオ側は、最終的に映画でどれくらい儲かるのかを気にしている」

    「観客は、明らかにホワイト・ウォッシングされたと思う映画を『観にいかない』という形で、意思表明することができる。これで収入を得られなかったら、スタジオは繰り返したくないと思うようになる」

    ハリウッドでは、わずか3年前と比べても、スタジオ側からキャストの多様性を求められるようになってきた、とリーは語る。

    キャスティングが多様な作品は成功している、と証明するデータがある。

    UCLAラルフ・J・ブンチ研究センターの2017年の調査によると、キャストに多様性がある作品の平均興行収入は「ジャンルを問わず最高額を得ている」。

    調査対象となったのは、2011年〜2015年の850の興行収入トップ作品。平均興行収入が最多の作品のキャスティングには、21%〜30%の非白人がいる。

    また、2015年のグローバルでの興行収入上位10本を分析した結果、5本は非白人の観客が大半を占めていた。『ワイルド・スピード SKY MISSION』(興行収入15億ドル、非白人の観客率61%)や『ミニオンズ 』(興行収入12億ドル、非白人の観客率52%)などが含まれている。

    世界の映画文化の中心であるアメリカ・ハリウッドで進む、人種の多様性の尊重。それは、日本人にとっても、韓国系アメリカ人のリーにとっても好ましいことのように思える。しかし、これはそう単純な話ではない。

    スタジオがキャストの多様性を追い求めるがばかりに、無理のある設定をもとに物語が作られていく場合もあるという。

    「単にキャストを多様化すれば良いというわけではない。どの作品も、物語が成り立たなければいけないということを意識して、観客にとって魅力的な作品を作るしかない」

    観客にとって魅力的な作品でなくなれば、興行収入は減る。ホワイト・ウォッシング批判と配役の多様化。ヒット作を生み出しつづけなければならない重圧。

    これらの絶妙なバランスを成功させるのに、ハリウッドは少しずつ変わってきている。

    しかし、過去89回開催されてきたアカデミー賞が示すように、アジア人にとってはまだ遠い道のりとなっている。

    アジア人・アジア系の主演男優賞。1956年にユル・ブリンナー、1983年にベン・キングスレーが『ガンジー』で受賞して以来いない。

    そして、主演女優賞をとったアジア系の女優は、まだ誰もいない。