その数、10年で2400枚
10年前、塩谷さんは旅の思い出として顔ハメ看板を写していた。
「旅行に行って顔ハメ看板があったら写真を撮ってもらう—最初の2、3年は何も意識しないでいました」
本格的に興味を持ち始めたのは、伊豆大島のとある看板との出会い。「お店のおばさんが嫁いだ30年前からあったと言っていて、ボロボロだけどすごく味のある看板でした。作った人がおばさんが嫁いだ先のお義父さんで、もう体を自由に動かせない。『この看板が壊れたら終わりです』と聞き、今撮らないともう会えないと思うようになりました」
それ以来、「ただのパネルだった看板から、どんどん穴が見えてくるようになったんですよ」と話す。
塩谷さんが10年間で撮った日本国内そしてアメリカや台湾など海外の顔ハメ看板写真は約2,400枚。最近だと年に400枚近くの看板にハマっているという。
ネットや人からもらった情報をGoogleマップに記録し、会社帰りや休日に顔ハメ看板を探しに行くという。あらゆる場所で顔ハメ看板を見てきた塩谷さん。最も意外だったのは、観光地でも名所でもなく、駐車場や無料案内所といったなんでもない場所にまで、顔ハメ看板があったことだと話す。
実際、一人で顔ハメ看板を撮る時の様子を塩谷さんに見せてもらった。
セルフタイマーをセットし、看板の方へと急ぎ穴に顔をはめるのだが……
次の顔ハメ看板は2人用。
裏面を見てみると、写真を撮る間に転ばないよう、取っ手が付いている。
塩谷さんの写真をよく見てみると……
どれも、
これも、
無表情だ。
無表情で写る理由について塩谷さんは説明する。「僕は顔ハメ看板が主役だと思っているのに、あまり自分を主張しないでハマるように心がけています」
「ただ埋めているだけなんです、空間を」
看板にハマるときには、看板に敬意を払うのに心がけていることがあるという。「メガネを外すのはマナーみたいな感じがします」。また、アルコールが入るとどうしても表情が出てしまうため、看板にハマる前には一切飲まないという。