DeNA報告書が示すSEO最優先の実態 守安社長が定めた目標が優先された

    DeNAはどのような方針でキュレーションメディアを運営してきたのか。調査報告書は、WELQやMERYの実態を明らかにしている。

    IT大手DeNAが公表した自社キュレーションメディアに関する第三者委調査報告書。記事の質を内容ではなく検索結果で測り、トップが作った強気な目標を達成することが優先された実態が赤裸々に書かれている。

    見出しも含めて300ページ超の調査報告書で繰り返し言及されるのが「検索エンジン最適化(SEO)」へのこだわりだ。グーグル検索でいかに上位に表示されるか。それが事業を成功させる鍵と認識されていた。

    もっとも批判が大きかった医療健康サイトWELQに関して、次のように指摘する。

    記事の「質」を専らSEOの観点から捉え、SEOを十分に意識した記事こそがユーザーのニーズに合致した「質の高い記事」であるとするものである(中略)記事が専門的知見に裏付けられた正確な内容のものとなっているかといった観点や、法令に適合した内容のものとなっているかどうかといった観点は等閑視されていた。(調査報告書P173)

    「質が高い記事だから検索上位になる」ではなく「検索上位だから質が高い」。そういう考えからスタートしているために、不正確で法的にも危うい記事が生産された。

    調査報告書やDeNAの今後の対応の概要については、別の記事にまとめている。ここでは、報告書の内容を具体的にみていく。

    「肩こりの原因は霊」 すべてはSEOのため

    WELQでもっとも批判された記事の一つが「肩こりがひどいのは病気が原因?気になる怖い病気とセルフ対処法」と題したものだ。

    この記事では肩こりの原因について「幽霊が原因のことも?」という項目がある。医療健康サイトで、肩こりの原因を幽霊と解説していることに批判が出た。

    この記事が作られた経緯が、説明書の中で詳述されている。それによると、「幽霊が原因」とする記事を作るように指示したのは、WELQチームの記事構成案の作成担当者だった。流れはこうだ。

    1. 構成案の担当者がGoogleで「肩が痛い」と検索する
    2. 予測キーワードの1つに「霊」と表示
    3. 記事の小見出しに「幽霊が原因のことも?」を含む構成案を作成
    4. クラウドソーシングで外部ライターに書かせる

    つまり、Google検索で上位表示されるためにあえて盛り込んだ項目であり、それを指示したのはWELQ編集部だったということだ。

    昨年、WELQに対して批判が出た際、DeNAは当初、一般ユーザーからの投稿も可能なプラットフォームであることを理由に、記事の内容に責任を負わないと説明していた。

    だが、実際にはマニュアルを作成して、外部ライターに細かい指示を出していたことがBuzzFeed Newsの記事で明らかになっていた。以下の記事にその内容を詳述している。

    DeNAの「WELQ」はどうやって問題記事を大量生産したか 現役社員、ライターが組織的関与を証言

    今回の調査報告書は、その実態をより詳しく明らかにしている。

    守安功社長が作った強気な目標

    メディアの本来の責任であるはずの正確な情報の提供は後回しになっていた。その傾向を決定づけているのが、成長目標だ。調査報告書はこう指摘する。

    キュレーション事業については、まず守安氏が、大きな運営方針、すなわちDAU、売上高等、運営の目標となる数値を決定していた。

    守安氏は、目標とする時価総額から逆算してDAUを計算し、9サイトにおいて達成すべきDAUをA氏に伝えていた。(P73)

    DAUは1日あたりのユーザー数を示す。A氏とはメディア統括部長の村田マリ氏だ。報告書によると、MERYについては9サイトとは別に守安氏が目標DAUを指示していたという。

    目標は2018年3月までに9サイト合計で「1000万DAU及び四半期あたり10億円の営業利益」、MERY単体で「400万DAU及び四半期あたり10億円の営業利益」という強気なものだった。

    調査報告書によると、村田氏は「いずれも相当高い水準にあると思った」というが、達成に突き進むこととなった。

    SEO重視、質より量の方針が固まる

    DAU急増に向けて、どのような施策が議論されたのか。

    読者流入にはSEO以外にソーシャルメディア経由のものもある。守安氏は前者を重視した。「アルゴリズムの安定性は、SNSよりもGoogleの方が高い」(報告書)と考えたからだ。

    SEOについてだけでなく、記事作成において、量と質のどちらを重視するかの議論もあったという。

    キュレーション事業を立ち上げた当初は、そもそも記事を量産する体制がなかった。量重視が強まったのは、2015年2月のFind Travel社を買収後だという。

    Find TravelのSEO施策が成功し、記事の量産が可能になったことから、Find Travel社に倣って記事を量産する体制を構築する方針が強まっていった。(P74)

    記事量産の方針については、反対するサイトもあったが、村田氏らボードメンバーが中心となり、2015年夏頃に本格化させたという。

    守安氏は報告書の結果を踏まえ、月額報酬50%を6ヶ月間減給の処分を受けた。村田氏は辞任の意向を表明している。

    DeNAメディア事業の再開は

    数値目標を定め、読者に正確な情報を提供するというメディアの責任を無視して、成長を優先させる。

    報告書の終盤、社員からのヒアリングを列挙した箇所では、この傾向への根本的な疑問が提示されている。

    誰のためにどういう価値を届けたいのか、その上で超えてはならない一線は何かという倫理的な価値観が欠如していたのではないか。

    ユーザーのことをゼロから考えたメディア設計はあまりされていない印象を受ける。基準は数字のみという考えが通用しないビジネスが、メディアなのではないか。(共にP234)

    DeNAがメディア事業を再開するのであれば、倫理的な価値観、そして、メディアとは何かについて考えることがそのスタートとなる。