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DeNA問題で問うべきは「ネットの信頼性」じゃない 現代のメディアのあり方だ

「キュレーションメディア」が槍玉に挙げられたが、その本質は何か。DeNAやネットを批判して終わる問題ではない。月刊誌「Journalism」2017年2月号への寄稿に加筆して転載。

IT大手のDeNAが運営し、急成長してきた「キュレーションメディア」が昨年12月、一斉に休止に追い込まれた。新聞やテレビでは、インターネットメディア全体の信頼性を問うような報道がなされた。

ネットメディアの一つ、BuzzFeedは一連の問題について早くから報じ、事態を動かす大きなスクープもあった。私は編集長としてそれらの記事を監修しながら、新聞やテレビの報道とネットメディアの報道との間に、あるズレを感じてきた。

一体、何が問題なのか。何を改善する必要があるのか。この部分において、両者の間には、根本的な認識の違いがあったのではないだろうか。

新聞は問題をどのように報じたか

  • 「DeNA、医療サイト非公開に 『WELQ』記事に無断利用・誤りの指摘」(朝日新聞)
  • 「DeNA 医療サイト停止 『WELQ』記事誤り指摘相次ぎ」(読売新聞)
  • 「DeNA、医療情報サイト公開中止 信ぴょう性に疑念指摘で」(日経新聞)


2016年11月30日、朝日、読売、日経各紙の朝刊にこんな見出しが踊った。DeNAが運営する医療情報メディア「WELQ」や、このメディアが引き起こした一連の問題について新聞が報じたのは、この日が初めてだった。

これを境に、新聞やテレビは、DeNAが手掛ける「キュレーションメディア」に関する問題を一斉に報じ始めた。そして、ネットメディアへの疑問を提示した。

たとえば、日経新聞は次のように指摘した。

情報が氾濫する現在、まとめサイトの人気は高い。しかし、情報を提供するには、多大な労力と細心の注意を払って内容を精査する作業が欠かせない。DeNAの不祥事は、ネットメディア全体の信頼性を揺るがすことにもなりかねない。(日経電子版12月2日

ここで改めて考えたい。そもそも今回の問題は「ネットメディア全体の信頼性を揺るがす」ことなのだろうか。

一連の経緯を振り返ろう。

問題を指摘したのは誰だったのか

最初に声をあげたのはネットメディアだった。

とりわけ早かったのは、医学部出身のライターである朽木誠一郎さん(注: この記事が掲載されたのち、2017年4月にBuzzFeed Japanに入社)。2016年9月30日に「Yahoo!ニュース個人」でこういう記事を書いている。

医療情報に関わるメディアは「覚悟」を―問われる検索結果の信頼性

朽木さんは「執筆者の身元が不明確」「WELQは記事の信頼性を担保していない」といった点を挙げ、命に関わる医療情報を扱うメディアとして不適切で、危険が伴うと指摘している。

WELQの記事が医療や健康に関する検索結果の上位を独占しつつあることは、少しずつ話題になっていた。BuzzFeedも、朽木さんや、検索の専門家としての観点からWELQの問題を指摘していた辻正浩さんらに話を聞き、取材を始めた。

BuzzFeedが最初の記事を公開したのは10月28日だ。

無責任な医療情報、大量生産の闇 その記事、信頼できますか?

この記事では、WELQがどのような記事を出しているかを列挙し、問題点を具体的に指摘した。紹介したWELQの記事には、「がんを始めさまざまな病気を予防する水」「死以外のあらゆる病を癒す薬」など、一見して信頼性が低いと伺わせる表現が並んでいた。

しかも、それらの記事には、他メディアから剽窃していると疑われる箇所がいくつもあった。

朽木さんも指摘したように、WELQ編集部は記事の信頼性を担保していなかった。次のような「但し書き」が各記事の末尾につけられていた。

当社は、この記事の情報及びこの情報を用いて行う利用者の判断について、正確性、完全性、有益性、特定目的への適合性、その他一切について責任を負うものではありません。この記事の情報を用いて行う行動に関する判断・決定は、利用者ご自身の責任において行っていただきますようお願いいたします

自社でコンテンツを出す企業としては、ありえない無責任さだ。BuzzFeedは、編集部の責任について改めて問い合わせてみた。すると、広報を通じて次のような回答があった。

「自由に投稿が可能なプラットフォームという性質があることもあり、ご指摘の文言を記載させていただいております。一方で、今後、医師などの専門家による監修を受けた運営側制作の記事配信を増やすこともかねてより検討しており、サービスの信頼性をより向上させていくことを目指す所存です」

決定的な記事 DeNAの関わり示すマニュアルの存在

「自由に投稿が可能なプラットフォーム」だから責任を背負わない。この回答では納得できない。BuzzFeedは、10月28日に公開した記事の末尾で読者からの情報提供を呼びかけたり、人脈を辿ったりして、さらに取材を続けた。

そして、強力な証拠を掴んだ。編集部が外部のライターに記事の書き方を指南するためにつくられた「マニュアル」だ。

WELQ編集部、つまりDeNAは「自由に投稿が可能なプラットフォーム」であることを理由に、信頼性が低い記事について、自分たちの責任を回避していた。

しかし、実際にはどのようなテーマで、どのように記事を書くべきかを指南するマニュアルが存在しており、クラウドソーシングサービスを利用して大量に集めた外部ライターに、このマニュアルを示して、安価な報酬で記事を書かせていた。

マニュアルには、グーグル検索で上位に来るための対策や、ネット上からコピーしたコンテンツを元の記事から巧みに改変し、盗用をごまかす手法までもが掲載されていた。

BuzzFeedは現役社員やライターの証言も得た上で、11月28日、次のような記事を出した。

DeNAの「WELQ」はどうやって問題記事を大量生産したか 現役社員、ライターが組織的関与を証言

この中で我々は、WELQ編集部が「誰もが投稿できるプラットフォーム」を名乗りながら、信頼性の低い記事を組織的に大量生産し、しかもSEO(検索エンジン最適化)を徹底して、グーグル検索の上位を占める実態を詳細に報じた。

問題は、朽木さんが指摘したことだけではなかったのだ。以下に列挙する。

  • 信頼性の低い医療情報を公開
  • 他メディアからの剽窃
  • プラットフォームであることを理由に信頼性を担保していない
  • しかし、実は外注で組織的にコンテンツを作っている


DeNAは「パレット構想」と銘打ち、WELQ以外にも9の「キュレーションメディア」を運営していた。そのうちMERYを除く8メディアは、WELQと似た体制が取られていた。

10メディアすべてを停止 ようやく動いた新聞・TV

BuzzFeedの記事が公開され、ソーシャル上でバズってからのDeNAの反応は早かった。翌29日にはWELQ全記事を非公開にし、12月1日にはWELQに続いてキュレーション8メディアの非公開に踏み切った。

そして、冒頭に記した通り、この段階になって、ようやく各新聞社やテレビがこの問題を報じ始めた。

実は、私は10月末にBuzzFeedが最初の記事を出して以降、数人の新聞記者から連絡を受けていた。彼らはこの問題の重要性に気づいていた。しかし、その後もDeNAが休止という判断を下すまで、記事が書かれることはなかった。

私自身、2年前まで新聞社で働いていただけに、事情はよくわかる。今回のDeNAの問題を新聞社が記事にするには大きなハードルがある。

一つは、新聞社にネットに詳しい人が少ないこと。記事を監修する上司、つまり「デスク」にこの問題を説明しようとしたら、キュレーションメディアとは何か、について理解してもらうだけで骨が折れる。

次に、どの部署の誰が担当するか、という問題もある。企業の話だから経済部なのか、法律が絡むから司法担当なのか、ネットの話だから、デジタルの部署なのか。分野横断的だ。

もう一つある。新聞やテレビが報じる「特ダネ」の多くは、警察や公的機関、企業などの動きをいち早く報じるものであり、自ら問題点をあぶり出し、世の中の動きを生むような「調査報道」は、実は数が少ない。

それが、DeNAの決定を受けて状況は一変。12月2日以降、新聞、テレビ、雑誌での報道は活況を呈した。冒頭に紹介したように、「ネットメディア全体の信頼性」という捉え方をする言説までもが出てきた。

ここではその言説の是非には触れず、その後の流れを追う。

DeNAは12月7日に会見を開き、創業者の南場智子会長、守安功CEO、小林賢治経営企画本部長の3人が揃って謝罪した。守安CEOは自社が運営する10メディアをすべて停止する判断の理由としてマニュアルの存在を挙げ、「BuzzFeedの報道で知った」と述べた。

私もこの会見に参加し、質問をした。私の他にも、問題の発覚後、他メディアに先駆けて守安CEOの単独インタビューをとったTechCrunch Japanの岩本有平副編集長ら、多くのネットメディアの記者が参加し、活発に質問をしていた。

DeNAだけの問題ではない

ここまで経緯を振り返ってきた理由の一つは、DeNAのメディア運営の何が問題視されたのかを明確にするためだ。先述のBuzzFeedが指摘する4つの問題点を、いま一度、見てもらいたい。

  • 信頼性の低い記事
  • 剽窃
  • プラットフォームであることを理由に責任を回避
  • 一方で、外注で組織的にコンテンツを作成


一部上場の大企業であるDeNAが、これを大規模にやって、検索結果の上位を占めたことで、批判は燃え上がった。だが、実際には、「信頼性の低い記事」「剽窃」「プラットフォームであることを理由に責任を回避」といった特徴は、他のネットメディアにも見られる。

代表的なところでは、キュレーションプラットフォームの最大手であるLINE社の「NAVERまとめ」。あるいはサイバーエージェントの「Spotlight」だ。BuzzFeedはそれぞれ以下のような記事を書いているので、詳細はそちらを参照してもらいたい。


これら以外にも、一連の問題を受けて、危うい記事を消したり、編集部の体制を見直したりしたネットメディアは大量にあった。さらに言えば、こうした問題を受けても、対応を改めていないネットメディアすらある。

ネットメディアにとって大きな収益源である広告の出稿を絞る動きも、一部の企業ではあった。その意味で、今回の事態はまさに「ネットメディア全体の信頼性を揺るがした」といっても過言ではないだろう。

ただ、少し立ち止まって欲しい。これらの問題を率先して指摘したのは誰だったのか。ここまで書いてきたように、BuzzFeedを含むネットメディアやネットで活躍するライターではないか。

「ネットメディア全体の信頼性」という十把一絡げの理解ではなく、本当の問題が何なのかを、もう少し細かく見ていくべきではないだろうか。

WELQでまず問題視されたのは、「不正確な医療情報」だった。読者の命や健康に関わり、医薬品医療機器法(薬機法)違反の可能性も指摘される悪質なものだから、当然であろう。

だが、問題はそこに止まらない。そうでなければ、DeNAが、医療情報以外の「住宅」や「旅行」などの情報を扱うメディアまでも停止する必要はなかった。

DeNAは自らが運営する10のメディアを、「キュレーションメディア」と呼んでいた。新聞やテレビの報道でも、「キュレーションメディア」の問題として扱われることが多かった。

時代の必然としてのキュレーションメディア

そもそもキュレーションとは何か。語源は、博物館や美術館などで所蔵品を管理する「キュレーター」だ。デジタル時代になると、ネット上の様々な情報を収集し、わかりやすく提示する手法のことも指すようにもなった。

DeNAが使った「キュレーションメディア」という言葉は、2つの意味を持っていた。ネット上の書き込みや画像を集めて記事を作ること、そして、そういった記事を集めたプラットフォームであるということ、だ。

まず、前者について考えてみよう。一連の問題が起きてから、キュレーション自体が悪であるかのような論評が見られるようになった。代表的な反応が、朝日新聞社会部のTwitterアカウントによる、次のツイートだろう。

相手に十分取材をして、記事を書く。そんな当たり前のプロセスが存在しないキュレーションなるネットメディアの一旦が垣間見えます。自分たちのコンテンツに愛着とか、思いとか、そんなものはないんでしょうね。(@Asahi_Shakai 12月9日)

このツイートを担当した記者は知らないのかもしれない。朝日新聞社も自社のデジタル版や運営サイト「withnews」でキュレーションをしている。私自身が朝日新聞にいた頃、この手法で記事や企画をまとめたこともある。

ソーシャルネットワークのTwitterやInstagramの書き込みをサイトに埋め込むことを「エンベッド」という。ネット上にアップされた書き込みや画像を、簡単に引用できる仕組みのことだ。規約でも認められている。これを用いたキュレーションは、ネット時代のごく一般的な手法に過ぎない。

日本では、いわゆる「伝統メディア」のデジタル化が遅れたために、朝日新聞以外の新聞やテレビでは、利用があまり進んでいない。しかし、BBCやCNN、ニューヨークタイムズなど世界の主要メディアの多くが取り入れている。

ソーシャルネットワークとスマートフォンの普及により、「誰でも・いつでも・どこでも」情報がネットにアップされ、拡散されるようになった。事件や事故、災害が起これば、現場にいる人がリアルタイムで写真や動画を公開する。中高生の間で本当に流行っているものは、大人が取材するメディアを通じてではなく、ソーシャルネットワークを通じて共有されるようになった。

とすれば、これらの無数の情報をまとめる「キュレーションメディア」が生まれるのは、時代の必然と言える。事件や事故があっても、警察からの情報提供がなければ、発生場所もわからなかった時代とは違う。

私たちは、インターネットに繋がるすべての人を情報源にすることができる時代に生きている。

問題は正確性と著作権 キュレーションではない

後者のプラットフォームとしてのキュレーションメディアも、時代の必然と言える。アナログの時代には日記だったものがブログになり、そこに簡単にネット上の様々な情報を埋め込めるようになった。キュレーションで書きたい人も、読みたい人も集まるプラットフォームが生まれるのは当然だ。

総務省「通信利用動向調査」によると、日本のインターネット普及率は83%(2015年末現在)に達し、利用者人口は1億人を超えた。

もはや、インターネットは「仮想空間」ではない。人々はそこで友人や家族と繋がる。新しい出会いがあり、情報を入手し、議論し、商品やお互いの持ち物・サービスを売買する。私たちがリアルに生活をする場となっている。

私が2015年10月に朝日新聞を辞めてBuzzFeedに加わり、ニューヨークに研修に行ったときに驚いたことがある。

まだ大学を卒業して2年目の若手だが、次々とヒット記事を書く記者と雑談をしていたときのことだ。どうやったら、100万ビューや10万シェアを超えるような記事を次々と書けるのか。聞いてみた。

彼女はFacebookで取材のネタを見つけ、Facebookで取材相手にコンタクトをとり、Facebookでメッセージをやりとりして記事を書くという。Facebook以外では、全くやりとりをしないことも珍しくないという。

私は驚いて尋ねた。実際に会いに行かないのか。彼女はこう答えた。

「会いに行くことはある。そうじゃないときもある。みんなFacebookに住んでいて、そこで会えるから」

このような状況において、キュレーションは時代の必然だ。それ自体は何も問題ではない。問題はその手法を使って、内容が誤っていたり、著作権法に違反していたりするコンテンツが出ることだ。

記事の正確性については、いつの時代も変わらず、すべてのメディアが取り組むべき課題だ。そこで、ここでは「著作権」と、キュレーションメディアを語る上で避けられないもう一つの法律について論じたい。

著作権法違反助長するプロバイダ責任制限法

WELQは高い専門性が必要とされる医療情報のサイトでありながら、専門家への取材や監修がなかった。そして、規約上許されるエンベッドや、著作権法が認める引用ではない形のコンテンツの盗用があった。しかも、それをマニュアルで推奨していた。これは問題のある行為であり、BuzzFeedでもそう指摘をした。

では、NAVERまとめやSpotlightはどうか。この2つのサービスでも、明らかに著作権法に違反しているコンテンツがある。BuzzFeed Japanの記事がそっくりそのまま転載されていたこともある。

ただし、両者は「これらの著作権法に反したコンテンツはユーザーが作成したものであり、プロバイダ責任制限法(プロ責法)に則り、サービス提供者は責任を追わない」という風に主張している。

ユーザーが法に反したときに、サービス提供者まで罪に問われていたら事業が成り立たない。プロ責法はネット事業を推進する上で、重要な法律だ。

だが、それが壁となって対策が取りづらくなり、キュレーションプラットフォーム上での著作権法違反を助長している面があることは否めない。

現状では、被害を受けた側は、自分のコンテンツが盗用されたことをサービス事業者に証明し、対応を依頼しなければならない。被害を受けた側からすれば、非常に面倒な作業だ。

法に反したコンテンツでビューを集めているのであれば、プラットフォーム側が対応すべきだという声が出るのは当然だ。プロ責法の見直しが必要ではないか。

同様に、著作権法についても、見直しが必要ではないか。現行法は、コンテンツのコピー、エンベッド、ソーシャルネットワーク上でのシェアが簡単にできるようになった時代に適応していると言えるだろうか。

著作権者の財産権を守ることが大切なことは言うまでもない。だが、その著作物がコピーされ、エンベッドされても誰の財産も傷つかないような場合には、そのような利用を認める方向に進む方が、コンテンツの新たな魅力の発見やファン獲得に繋がるはずだ。

例えば、海外ではテレビや映画、ミュージックビデオの1シーンを切り抜いて、簡単な加工を施し、シェアをする文化がごく一般的に広がっている。その1シーンを見たから、テレビや映画の本編を見ない、という人はいない。むしろ、口コミでの認知度の広まりに寄与している。

新聞もテレビも、もはやネットメディア

今回の問題が明るみにでてから、私は様々なネットメディアの編集者たちと議論してきた。多くの人が共通の問題意識を持っていたが、その中でショックだったことがある。

それは、新聞、テレビ、雑誌業界の人たちが、これを「ネットメディアの問題」だと捉えていること。さらには、「自分たちにとっては追い風だ」とまで考える人たちがいたことだ。

いまや主要メディアでウェブサイトを持っていないところはない。その多くは、ネット専業のメディアよりも多くのPVやオーディエンスを持つ。その点で、新聞社もまた、ネットメディアだ。

付け加えると、「すべてのメディアはバイラルメディア」とも言える。「バイラルメディア」とは、ソーシャルネットワーク上での拡散を情報の流通経路とするメディアを指す。今の時代、ソーシャルを無視できるメディアなんてない。

そんな時代においては、メディアと法律のあり方を、ネットと新聞・テレビの区別なく、みんなで考える必要がある。

Buzzfeed Japanは昨年1月にローンチして以来、DeNAの問題に限らず、誤報やデマ情報について指摘を続けてきた。ネットメディアだけではない。新聞もテレビも、間違いを犯してきた。

では、BuzzFeedが間違いを指摘した新聞記事やニュース番組はいま、どうなっているか。正直言って、ネット上でそれらが訂正されていることを確認することはほとんどできない。

ネットメディアでは、訂正する場合、元の記事と同じページで修正したうえで、いつ、どこを修正したかを明記することが、読者への説明責任とされる。

ところが、新聞やテレビの場合、第一に重視されるのは、紙面や番組のなかでの訂正だ。ウェブ上の誤った記事は、突然削除されたり、訂正されてもどこを直したのかわからなかったりする。

新聞やテレビはネットメディアの問題を指摘するだけでなく、まず、自分たちのウェブサイトがどういう状態にあるのかを見つめ直す必要もあるのではないか。

メディアには社会的責任がある

最後に一つ、付け加えておきたい。メディアの責任についてだ。

WELQを散々批判した人たちの中で、WELQのコンテンツを色々と見ていた人がどれだけいるだろう。実は、WELQのコンテンツには、BuzzFeedも指摘したような誤った内容の記事だけでなく、健康情報として、実際に役に立つ記事もあった。

他の医療情報メディアを参照しているのだから、役に立つ記事もあるのは当たり前だ。複数のネット業界の人から、こう言われたことがある。

「WELQには役に立つ情報もあった。WELQがなくなって、もっとひどい情報が検索上位に出て来ることもある。WELQはそれほど悪いことをしたんでしょうか」

そう聞かれると、私はこういう例え話をしている。

安くて、品揃えのいい食堂がある。美味しくはないが、食えなくもない。でも、頼んだ料理のうち、2割は食中毒を起こす。食材は盗んできたものを使う。

あなたは、そんな食堂に行きますか?

メディアは食堂だ。発信する情報は、読者の知的・精神的な健康を養う。

「8割OKなら、2割は食中毒を起こしても構わない」はずはない。現実的には不可能でも、10割正しい情報を出すために不断の努力を続けなくてはならない。

それが、紙でもテレビでもネットでも変わらない、メディアの責任だろう。