地震報道とは異なる風景が広がる熊本・阿蘇 宿や店が続々と再開している

    「ペンションを再開することも、復興の一つなんです」

    大規模な土砂崩れが繰り返し報じられた熊本・阿蘇。地震の被害が激しかった地域の一つだが、実際には違った印象を受ける。例年、観光客が押し寄せるゴールデンウィーク2日目に現地を訪ねた。

    羽田から熊本空港まで1時間半。阿蘇まで30分で着く県道28号が通行止めになっているため、レンタカーで南に迂回するグリーンロードを走った。

    空港から南阿蘇村の中心部まで、通常なら30分。だが、迂回するため1時間ほどかかかる。道はほとんど崩れていない。阿蘇を愛したバイクの世界王者ケニー・ロバーツの名を冠した道路は緑に囲まれ、美しい。

    南阿蘇村の観光の中枢「あそ望の郷くぎの」は開いていた。

    普段は平日でも満車で長い列ができる。しかし、地震で観光客の足が遠のき、好天に恵まれた連休なのに、駐車場には空きがあった。

    レストランも開いていた。メニューが限られている分、そば大盛りはサービス。「がんばろう!南阿蘇」のメッセージがある。

    名物の「阿蘇のあか牛の焼肉丼」は食べられる。とても美味しかった。

    レストランのテラス席からは、阿蘇の山並みを一望できる。

    南阿蘇村を車で走っていて、地震の傷跡を意識することは少ない。のどかな田園風景が広がる。

    道端には、色とりどりの花が咲く。

    青空を鮮やかに泳ぐ鯉のぼりをよく見かける。

    阿蘇は名水や温泉が湧く郷として知られる。湧水量が減る被害も出たが、一部地域に留まる。最も有名な白川水源には影響が見られない。



    すでにオープンしている温泉もある。四季の森温泉は無料開放中だ。

    もちろん、これが阿蘇のすべてではない。東西に長い南阿蘇村の西部、活断層の近くや大規模な土砂崩れが起きた地区では、深刻な被害が出ている。犠牲者が出た東海大阿蘇キャンパスや崩落した阿蘇大橋が、この地域に位置する。

    九州で最も歴史のあるペンション地区「メルヘン村」もこの地域で、活断層の近くにあった。地震と土砂くずれで、大きな打撃を受けた。

    6件あるペンションは、再開のめどが立っていない。被災直後に避難し、無人になった際には、この地区にも空き巣が入った。壊れた建物から、通帳やアクセサリー、工具などが盗まれた。

    「森のこびと」を経営する早川初水さん(37)は、親子2代でペンションを営んできた。県ペンション協会理事長でもある早川さんは、壊れた建物から家財道具を運びだす作業に追われながらも「被害が少ないところは、もう営業再開できている。そういう情報を発信して、他のペンションをサポートしたい」と話した。

    その言葉通り、すでに営業を再開しているペンションはある。「星降る里 響」は、21日に営業再開した。きっかけは全国から復興支援に来ている人たちの「素泊まりでいいから、泊まらせてください」という声だったという。

    オーナーの和田浩平さん(51)は「昼間は復旧で走り回っている人たちに、夜はゆっくり休んでもらわないと倒れてしまうと思った」。共にペンションを経営する妻は元看護師で、避難所に医療支援に行っている。それでも、再開を決めた。

    食材が揃わないため、まだ、夕食は出せない。和田さんもペンション協会の理事長経験者で、仲間たちがまだ困っている時に営業を再開することに後ろめたい気持ちもあったという。

    「でも、県外から来られたボランティアの方に言われたんです。『和田さん、何も恥じることはない。ペンションを再開することも復興の一つなんです』。その言葉で胸のつかえが取れました」

    自慢の焼酎瓶は並べた棚から下ろし、がらんとしている。本格的な再開がいつになるかはまだわからない。「でも、全国の常連さんから『早く泊まりに行きたい』と励まされてます。阿蘇は必ず復興しますよ」

    和田さんに、阿蘇で最も見晴らしがいいところはどこかと聞いた。「大観峰」を勧められた。

    南阿蘇村から阿蘇市へ。被害の大きかった阿蘇の西側を通るため、道路規制が一部で続いている。しかし、渋滞はなく、規制地域を超えるとスムーズに走れた。

    大観峰へは1時間半ほどで着いた。阿蘇外輪山の最高地点、標高936メートルの展望所から見える風景は、雄大で長閑だ。小鳥やカエルの鳴き声が聞こえる。

    夕暮れの空に、パラグライダーがゆったりと舞っていた。

    雄大な自然が、ときに災害をもたらす。「地震が起きてから、ここに活断層があるというニュースをたくさん見た。だけど、それまでは全く知らなかった」。そんな声を多くの人から聞いた。そして、活断層は日本各地にある。

    メルヘン村で大きな被害を受けたペンション「ティンクナ」のオーナー森尾寛昭さんは、こう言っていた。

    「被害があったところも、ほとんどなかったところもある。ないところには、どんどんお客さんが来て欲しいですね。それが阿蘇の復興につながるんだから。そして、僕たちもなんとかして再開したい」