「<建築>が暗殺された」磯崎新さん、ザハ・ハディドへの想い綴る

    「あらためて、私は憤っている」

    「<建築>が暗殺された」――建築家の磯崎新さんが、3月31日に亡くなったザハ・ハディドさんを追悼する手記を親しい建築関係者に送付した。ザハさんの先進性を評価し、新国立競技場の問題でもザハさんの続投を望んでいた磯崎さんは、改めて一連の騒動を批判し、卓越した建築家の死を悼んでいる。

    BuzzFeed Newsは6日、磯崎さんの事務所に取材し、この手記が磯崎さんによって書かれたものであることを確認した。

    ザハさんは2020年東京オリンピックのメイン会場となる新国立競技場の設計を手がけていたが、高騰する建設費に批判が集まり、2015年7月、政府により白紙撤回された。ザハさんの事務所は、コスト減額の提案が受け入れられず、建設費高騰は設計側の責任ではなかったと主張。白紙撤回は不当と抗議している最中の急逝だった。

    新国立競技場の白紙撤回について、磯崎さんは追悼文にこう綴っている。

    そのイメージの片鱗が、あと数年で極東の島国に実現する予定であった。ところがあらたに戦争を準備しているこの国の政府は、ザハ・ハディドのイメージを五輪誘致の切り札に利用しながら、プロジェクトの制御に失敗し、巧妙に操作された世論の排外主義を頼んで廃案にしてしまった。その迷走劇に巻き込まれたザハ本人はプロフェッショナルな建築家として、一貫した姿勢を崩さなかった。だがその心労の程ははかりはかり知れない。

    〈建築〉が暗殺されたのだ。

    あらためて、私は憤っている。

    磯崎さんは、プリツカー賞と並び、建築界で最も権威のある王立英国建築家協会のRIBAゴールドメダルを受賞するなど、世界で活躍する建築家。ザハさんの先進性をいち早く見抜き、評価していた。

    しかし、2014年に公開された、建設コスト見直し後の新国立競技場の修正案に対しては「列島の水没を待つ亀のような鈍重な姿」「将来の東京は巨大な『粗大ゴミ』を抱え込む」などと批判。開会式は皇居前広場で開催し、スタジアムは設計者をザハさんのままとして設計し直すことを提案していた

    追悼文の中で、磯崎さんは故人を惜しみ、こう書いている。

    彼女の内部にひそむ可能性として体現されていた〈建築〉の姿が消えたのだ。はかり知れない損失である