7月31日午後8時。都知事選の投票が締め切られた直後、報道各社は小池百合子氏の当選確実を報じた。
自民・公明公認の増田寛也氏の事務所。自民党東京都連会長の石原伸晃経済再生担当相は呆然とした表情で、遠くを見つめていた。
「完敗です」。石原氏は、総括した。
公私混同疑惑で批判が集まった舛添要一氏が6月、都知事を辞任。7月10日の参院選を挟んで候補者を模索する中、元防衛相で自民党衆院議員の小池百合子氏が党の推薦を受けないまま立候補を表明した。
都連は、度重なる小池氏の支援要請を断り、増田氏の推薦を決めた。
自民党の推薦を諦めた小池氏は、「都連はブラックボックスのようだ」と訴え、都連への対決姿勢を強めた。都連も、増田氏以外を応援した所属議員や親族を処分対象とする文書を配布し、小池氏を孤立へ導こうとした。
しかし、知名度に勝る小池氏に、なかなか状況は上向かない。
各社の情勢調査で苦戦が伝えられる中、投票日を2日後に控えた29日午前、石原氏は官邸を訪ねた。首相との面会時間はわずか2分。そこで何がやりとりされたかは定かでない。
投開票日前日の30日。増田陣営が「最後のお願い」に都内をかけずり回っていた。安定感を訴えるしかなかった。安倍首相は、最後まで姿を現さなかった。
同日午後6時前、首相は都内のホテルで、菅義偉官房長官の同席のもと、おおさか維新の会の橋下徹前代表、松井一郎代表、馬場伸幸幹事長と会食していた。
再び、31日夜。
各社の出口調査によると、自民支持層の半数以上を小池氏に奪われての大敗。
口を真一文字に結んだ増田氏の横に立った石原会長の声は力強い。しかし表情はおぼろげで、目の焦点が合っていなかった。
「今回の選挙戦を通じ、増田さんが本当にふさわしい人物だと再確認いたしました」「私は増田寛也さんの大ファンの一人として、これからも手を携えて仕事をしていきたい」
スピーチを終えても、拍手はなかった。
石原氏は、報道陣を振り切り、事務所を後にした。