イラクで最後の抵抗を続けるISの「マッドマックス」のような戦術

    自爆と武装ドローンの波状攻撃で、ISはモスル西部をディストピアじみた戦場に変えている。

    イラク、テルアルラヤン――自動車爆弾による自爆攻撃、迫撃砲、上空を旋回する武装ドローン。過激派組織IS(イスラム国)は、モスル西部の街路を、ディストピアじみた戦場に変えてしまった。

    つい最近のある寒い朝、イラク軍のエリート兵士たちは、前述の武器のすべてを同時に使ったIS戦闘員の激しい反撃を必死にかわしていた。過酷な1日のはじまりだ。イラク軍は、同国におけるISの主要拠点モスルの奪還作戦を進めている。その日の戦闘では、刻々と変化する敵のおそるべき戦術の全貌があらわになった。

    イラク兵の上にドローンが爆弾の雨を降らせるなか、ISは立て続けに4回の自動車による自爆攻撃を仕掛けてきた。狙撃兵の撃った銃弾が、砂埃を巻き上げる。迫撃砲弾により兵士2名が負傷し、負傷者があわただしく運び去られていった。

    そうした次々に変わる戦術は、多数の前線で進軍するイラク軍の大きな重荷になっている。そしてそれは、互いに先手を打とうとする、ISとアメリカ主導の有志連合のつばぜりあいを示すものでもある。「敵は我々の動きを見ていた」とイラク軍特殊部隊のムスタファ・バクル曹長は言う。「相手は我々の弱点を知っている」

    米軍の砲撃と空爆による援護を受けたイラク軍は、2016年10月以来、モスルからISを掃討すべく、容赦のない攻撃を行ってきた。モスルは、2014年6月にISがカリフ制国家の樹立を宣言した都市だ。イラク軍は2017年1月、多くの犠牲者を出した戦闘のすえ、チグリス川を境とするモスルの東半分を掌握した。

    だが、モスル西部での戦闘は、きわめて困難なものになると見込まれている。この地域は街路が狭いため、侵攻するイラク軍兵士たちは、武器を据え付けたハンヴィー(高機動多用途装輪車両)の保護下を離れ、ときには歩いて家々を検分しなければならない。密集した都市部では、米軍による空爆にも限界がある。さらに、モスル西部に残されている市民は、推定65万人にのぼる。イラク軍幹部によれば、ISはそうした市民のなかに紛れ込こんでいるほか、人間の盾として市民を利用しているという。

    モスルが包囲され、シリアへ通じる道が親イラク政府のシーア派民兵に塞がれているいま、モスル西部に潜伏するISの戦闘員の逃げ場はなくなっている。「彼らは追いつめられている。戦う以外に選択肢はない」と語るのは、イラク軍特殊部隊の大隊を率い、モスル西部への侵攻を指揮しているアリ・タレブ少佐だ。

    その日の朝、タレブ少佐率いるイラク兵たちを襲った攻撃は、過酷な戦いが続く1日の前触れだった。ISの攻撃を退けたイラク軍特殊部隊は、2列に並んだハンヴィーで突撃を開始した。一方の車列部隊は、テルアルラヤンの中心部を目指す。テルアルラヤンは、ISがモスル西部の防御線としている村だ。もう一方の車列部隊は、テルアルラヤンの南側から攻撃を仕掛ける。が、彼らはすぐに反撃を受けた。

    先頭のハンヴィーの周囲で、銃弾が音を立てた。行く手の街路は一見すると放棄されたように見えるが、IS戦闘員がどこかに潜んで銃を撃っているのだ。ISが迫撃砲とロケット推進式榴弾を放ち、爆発の衝撃でハンヴィーが揺れる。車両上にいる機関銃手が反撃した。

    大隊を指揮するタレブ少佐はその前夜、モスル西部侵攻作戦では、少なくともはじめのうちは、ISは驚くほど断固たる守りを見せるだろうと警告していた。「敵は真正面から戦いを仕掛けてくるだろう」

    突然、助手席から90メートルほど離れたところで、煙と炎があがった。ISが対戦車ミサイルを使い、第2の車列部隊の先頭車両を破壊したのだ。乗っていた兵士4人は全員死亡した。黒焦げの車両から煙が立ちのぼるなか、近くにいたハンヴィーは急ぎ退避した。遺体を回収しようと先頭車両に走り寄った兵士たちを、ISの迫撃砲弾が襲った。負傷者は少なくとも1名。負傷した兵士は、砂埃の立ちこめる地面に横たわり、助けを求めて手を振っていた。

    結局、車列部隊は前進を中断した。銃撃がやんだ。と、そのとき、兵士たちは何かがこちらに向かって横道を走ってくるのに気づいた。ぴかぴかと光る宇宙船のように白く塗られた、強化金属製のボックスカーだ。

    イラク軍の車両は全速力で逃げ、爆発する前にその車から離れようとした。暴力的な衝撃波が、ハンヴィーのシートに座っていた兵士たちを前方に突き倒した。この爆発で、車両部隊のブルドーザー1台が破壊されたが、運転手は逃げていて無事だった。

    のちに攻撃時の写真を見たイラク軍高官は、その自動車爆弾が工場で製造されたものだという認識を示した。おそらくは、まだISが支配するモスル西部にある、当座の生産拠点でつくられたものだろう。

    「彼らはマッドマックスに出てくるような装甲車を製造している。(ロケット推進式榴弾の)砲火や対戦車兵器システムによる攻撃を防いだり、被害を軽減したりするためだ」と語るのは、イラク軍特殊部隊将校のアルカン大佐だ。アルカン大佐は、米軍主導の空爆を要請する立場にあり、セキュリティ上の理由から、ラストネームを匿名にすることを求めた。

    アルカン大佐が力を注いでいるのは、空爆により自動車爆弾を破壊する試みだ。この写真を見ると、ISがもっとも重要な武器である自動車爆弾にどのような改造を加えているかがわかると、アルカン大佐は指摘する。

    ぴかぴかした白い塗装を車体に施せば、米軍主導の有志連合のパイロットやドローン・オペレーターの目には、民間人の車のように見える。「新しいテクニックだ」とアルカン大佐は言う。

    さらに、ISはドローンも恐ろしいほど使いこなしていると、イラク軍幹部は指摘する。モスル西部をめぐる戦闘の初期段階では、ドローンがこれまでになく徹底的に投入されている。ISのドローンは、イラク軍の陣地を包囲し、作戦を攪乱し、死傷者の数を増やしている。イラク軍の指揮官によれば、ドローンが落とした爆弾の数は、わずか2日のあいだに1区画だけで70発にのぼったという。

    アルカン大佐自身も、空爆の要請中に、ドローンが落とした爆弾の破片で足を負傷した。「こんな混乱状態では、指揮も統制もできない。銃撃になら対応できるが、落ちてくる爆弾に対応するのはきわめて難しい」とアルカン大佐は言う。

    有志連合はドローンを操作する電波を妨害しようとしているが、少なくとも初期段階では、ISはその裏をかく方法を見つけていると、アルカン大佐は言う。また、ドローンを操縦する戦闘員も巧妙になっているという。「定位置は用いない。バックパックを背負いながらバイクに乗って操縦している」とアルカン大佐は説明する。「モスル市街のような人の多いエリアに入られたら、操縦者を攻撃するのは難しい」

    モスル東部でも、戦闘が進展するにつれ、ドローンが頻繁に用いられるようになった。だが西部での戦闘では、初期の段階から、これまでになく多くのドローンが使われている。「ISはドローンを改良する方法を習得した。(ドローンの投下する)擲弾も改良されている。いまでは、ドローンの落とす擲弾が貫通するようになっている」とイラク軍特殊部隊のハイデル・ファディル将軍は言う。「威力が大きくなっていると言えるだろう」

    ISは、ドローンから送られてくるビデオ画像を利用し、迫撃砲や自動車爆弾による攻撃を組み立てていると、ファディル将軍は指摘する。ファディル将軍によれば、前述の車列部隊を襲った自動車による自爆攻撃も、そのケースだった可能性があるという。車が突っ込んできたタイミングが、戦車に配置されていた4人のチームが一時的に持ち場を離れた直後だったためだ。

    「彼らはすべてを見ている。どこに自動車爆弾を投入すべきかを把握している」とファディル将軍は言う。

    米軍とイラク軍の幹部が最近語ったところによれば、イラク軍のモスル西部への侵攻が進むにつれ、ISのドローン問題にも対応できるようになっているという。米軍主導の有志連合は、絶えずISに適応することを求められており、今回の適応もそのひとつだ。

    「だいたいにおいて、イラク軍は彼らなりの戦術で(ドローンに)反撃している」と語るのは、アメリカ陸軍のパトリック・ワーク大佐だ。ワーク大佐の指揮する陸軍第82空挺師団第2旅団は、イラクでの地上戦に参加し、モスル奪還作戦でイラク軍を援護している。「イラク軍は前進を続け、嵐のただなかで耐えている」

    ワーク大佐によれば、アメリカ軍はモスル奪還作戦の全体を通じて、空からの援護に加え、迫撃砲や重砲により、イラク軍を援護している。また、イラク軍の指揮官たちに協力し、刻々と変わるISの戦術に臨機応変に適応できるようにすることも、重要な任務の一部だという。「敵を把握できるように協力している。敵がしていることだけでなく、敵がしたがることを知る必要がある」とワーク大佐は言う。

    イラクに駐留するアメリカ軍の最高司令官を務めるジョセフ・マーティン少将によれば、モスル侵攻が最終段階に近づくにしたがい、イラク軍は戦略の重要な点をいくつか調整したという。イラクにいるマーティン少将は、電話取材で以下のように語った。「モスル東部での戦いは厳しいものだった。地形がきわめて複雑で、敵は2年をかけて(防衛のための)準備をしていた。モスル東部を守っていたのは、創造的で対応力の高い敵だった――だが結局は、それでも十分ではなかったわけだが」

    「我々は、これまでに気づいたいくつかの点について協議した結果、敵は多数の方向からの圧力には対応できないという結論を得た。多数の難問には同時に対処できないのだ。そうしたことから、(仕切り直し後は、)敵を圧倒し、反応せざるを得ない状況にするような複数の地上作戦を同時進行で進めている」

    マーティン少将はこう付け加えた。「敵は今後も進化を続けるだろう。相手が適応するなら、我々も適応するだけだ」


    この記事は英語から翻訳されました。翻訳:梅田智世/ガリレオ、編集:中野満美子/BuzzFeed Japan