ハックされる人の心。嘘記事とFacebookとネット広告、暗い未来

    記事は嘘でいい。本文がなくてもいい。

    フェイク(偽)ニュースの猛威が止まらない。扇情的な見出しや写真を使って、Facebookを入り口に誘導し、広告収入を得る。BuzzFeed Newsの調べで、イスラム教徒への反感を利用した新規サイトがこのビジネスモデルで成功しており、鍵をにぎる人物は東欧ジョージア共和国にいる可能性が高いことがわかった。

    American President Donald J. Trump」(アメリカ大統領ドナルド・J・ トランプ)というFacebookページがある。38万フォロワーがいて、使命は「我が大統領に関連するあらゆるニュースを支持者たちに伝える」ことだという。大統領本人とは関係ない。

    「TrueTrumpers.com」(トランプの真の支持者)というサイトが配信している記事を多くリンク投稿している。このサイトは2月23日に登録されたばかりだ。

    イスラム教徒への憎悪を駆り立てるフェイクニュースで溢れる。アメリカ国内でのイスラム教徒によるレイプや殺人といった犯罪の記事を捏造している。(芸能人の政治的発言死亡をでっち上げたり、ニュースサイトから記事を剽窃して架空の見出しをつけたりもしている)

    反イスラム感情

    例えば、こんな見出しがある。「速報:トランプのシリア爆撃を受け、ミシガン州でイスラム教徒の難民が30人を殺害 トランプ大統領が絞首刑にすることに賛成か?

    この「絞首刑に賛成か?」は見出しの決まったパターンだ。英語が間違いだらけなことも共通している。

    こうした「記事」は、広告ネットワーク「Revcontent」がリコマンドする広告で埋め尽くされていて、さらに画面上のどこをクリックしても、ポップアップ広告が表示される。見出しと本文は関係ないことも、本文が1行だけのこともある。

    「ページの実際の中身はどうでもいんです。ほとんどの人は読みさえしないから」。アドフラウド(広告不正)に詳しいオーギュスティン・フォウ博士はこう指摘する。サイトを一瞥して、BuzzFeed Newsの取材に答えた。「全ては広告インプレッションのためです」

    膨らむエンゲージメント

    「TrueTrumpers.com」への正確なトラフィックを測ることは難しい。ただAlexaによると、ローンチからトラフィック順位を急激に上げていることがわかる。

    「TrueTrumpers.com」が成功していることは、反イスラム感情を利用して広告収入を得られる「市場」があることを証明している。

    Facebookが入り口

    「TrueTrumpers.com」はFacebookからのトラフィック流入に大きく頼っている可能性が高い。これが可能なのは、英語圏においてFacebookが最大のニュースサイトへのリファラーだからだ。

    入り口となっているFacebookページ「American President Donald J. Trump」のエンゲージメント(シェア、リアクション、コメントの合計)の大きさは、既存のサイトと比較するとよくわかる。

    下記のチャートは、このドメインが登録された翌日の2月後半から、週ごとのリンク投稿に対するエンゲージメントをグラフ化したものだ。他社のFacebookページ四つと比較した。

    2月1日から4月20日までのリンク投稿への合計エンゲージメントを比較すると、Facebookページ「American President Donald J. Trump」が、こうした既存メディアや長年運営されてきたオンラインメディアを圧倒的に上回っていることがわかる。

    Facebookページのファンを増やし、扇動的な見出しやサムネイル写真でクリックをさそえば、広告収入が転がり込む。

    アービトラージ・サイト

    「トラフィック・アービトラージ・サイト」。「TrueTrumpers.com」のようなサイトは、大きな括りでこう呼ばれる。

    トラフィックを得るために支払う費用とトラフィックが産む広告利益の価格差でもうける仕組み。記事も読者もそのための道具に過ぎない。金儲けの方法は進化し続け、その闇は深い。

    トラフィックを獲得するために、Facebook広告を出すこともあれば、OutbrainやTaboolaといったコンテンツレコメンドエンジンを使うこともある。ボットによって安くトラフィックを生むこともできる。

    価格差をより正確に予測し、広告を効率的に配置するのがサイト運営者のキモとなる。一旦誘い込んだ読者に対して、ページを分割して、次ページをクリックさせることで、より多くの広告に接触させることもある。

    とにかく、広告収入がトラフィック獲得費用を上回りさえすればいい。FacebookとGoogleのアドセンスを使って、140万ドル(1.5億円)を稼いだというマーケターもいる。

    「いかさまサイトは毎日アップされ、ほぼすぐに利益を生み始める」。AdExchangerにケン・ヴァン・エブリー氏は「制御不能のトラフィック・アービトラージ」という題のコラムを寄せている。

    Taboola、Outbrain、Facebook、Revcontent、AdBlade、Gravity、content.ad、infolinks、MGID、ZergNet、Earnify、AdBistro——。トラフィックを呼び込んでくれるプラットフォームは限りない。

    「金儲け道はシンプル。こうしたプラットフォームから、コスト・パー・クリック(CPC)でトラフィックを買う。ランディングページの動画やバナーの広告がこれを上回る収入を生む」

    運営者の正体は?

    BuzzFeed Newsの調べで、「TrueTrumpers.com」は「ベカ・ラッザビゼ」という人物が関係していることがわかった。(詳しくは記事末を参照。)実はこの男性、米大統領選でフェイクニュースを拡散した「有名人」だ。

    ニューヨークタイムズは昨年11月、東欧ジョージア共和国の首都トビリシに、本人を取材している。22歳の学生だと名乗ったラッザビゼ氏は、真偽をないまぜたり、完全にでっち上げたりした複数のサイトを、3人で運営していると打ち明けている。

    たしかに、配信する記事ではイスラム教徒を悪く書いている。だが、本人は「反イスラム教徒ではない」と断言。では理由はなにか。答えは、ネットで受けがいいから、だった。(ラッザビゼ氏はBuzzFeed Newsの取材依頼に答えなかった)

    かみ合った歯車

    こうしたフェイクニュースのビジネスが成り立つ背景は何か。「政治の両極化」「増幅装置Facebook」「アドテック」という三つの歯車がある。

    進むグローバル化。格差拡大や産業空洞化に不満を持つ層は、移民に怒りを向け、国家や民族のアイデンティティを強調する。多様性を重んじ、開かれた社会を求める層とは、激しく意見が対立する。

    この両極化につけ込むように、フェイクニュースの見出しやサムネイル写真は、憎悪をかき立てる工夫がされている。感情をハックし、広告ページに誘導する。

    Facebookはフェイクニュースを撒き散らす増幅装置となり、アドテックがビジネスチャンスを広げる。重要なのは見出しとサムネイル写真で、記事本文がでっちあげでも、本文自体がなくても、ビジネスには支障がない。ニュースの真偽を見極められない読者がカモとなる。

    この三つの歯車が回転し続ける限り、フェイクニュースサイトは走り続ける。闇は深い。


    「TrueTrumpers.com」と「ベカ・ラッザビゼ」の関係

    「TrueTrumpers.com」は2月23日に登録された。同サイトの表示するRevcontentの広告にはIDがある。

    Trendolizer社のツールで確認したところ、同じIDを「dcposts.info」というサイトが使っていた。両者のサイトデザインは酷似している。このサイトにはFacebookページ「American President Donald J. Trump」をプロモートするウィジェットも埋め込まれている。

    「dcposts.info」に埋め込まれたGoogleアドセンスのIDは、「DailyNewsPosts.info」というサイトにもある。DomainToolsで調べると、このサイトは2016年2月、ベカ・ラッザビゼ氏が登録していた。さらに現在、このサイトは「dcposts.info」にリダイレクトされる。

    この記事は英語から編集しました。