一般社団法人ひとり親支援協会が11月24日、父子家庭を対象としたアンケート調査の結果を発表した。
回答した家庭の5割強が新型コロナウイルスの影響で収入減、あるいはその見込みと回答。6割が「残業や子どもの急病時に預ける場所がない」と回答した。
さらに、ひとり親家庭の中でもシングルファーザー家庭の孤立が、浮き彫りとなった。
父子家庭の実態把握、なぜ進まない?
今回の調査の特徴は、233世帯の父子家庭から回答を得たことにあると、ひとり親支援協会の今井智洋代表は語る。
2017年の厚生労働省の調査によると、 全国の母子家庭が123.2万世帯で、父子家庭は18.7万世帯。
ひとり親家庭でも父子家庭は少数派で、その課題を十分に聞き取ることはこれまで、難しかったという。
なぜ、父子家庭の実態把握が進まなかったのか。
背景には父子家庭世帯の社会的孤立がある、と今井さんは指摘する。
「男子トイレにおむつの交換台が少ないといった現状があるように、世の中が父子家庭を想定していないように感じる場面も少なくありません」
「周りへ(父子家庭であることを)打ち明けられない、周りにいる父子家庭に気付けないということもあり、弱音を吐き出す相手がいないこともあります」
ひとり親であることを理由に解雇されたケースも
今回の調査で回答した父子家庭の6割は「残業や子どもの急病時に預ける場所がない」と回答。6割が児童扶養手当を「受給していない」と答えた。
父子家庭も母子家庭と同様に新型コロナウイルスによる影響を大きく受けている。
アンケートに回答した父子家庭の5割強が収入減または収入減の見込みと回答。一方で支出は増えたと5割強が回答した。
調査の中ではひとり親であることを理由に解雇されたシングルファーザーがいることも明らかとなった。
経済的な問題がアンケート結果からは垣間見える。
しかし、行政が提供している具体的支援は所得制限で受けられないことも多いのが実態だ。
児童扶養手当は子どもが1人の場合、所得が230万円を超えると受給することができない。母子家庭の7割が児童扶養手当を受給する中、父子家庭は5割弱が受給していない。
児童扶養手当を受給できないことで自治体が実施している食料の支援やひとり親世帯を対象とした割引などを利用できないことも多い。
また、配偶者と死別した父子家庭の場合、受給できる遺族年金の金額は母子家庭が受給できる金額と大きく異なる。
支援協会によると、ファイナンシャルプランナーの試算では39歳の親と17歳の子どもが遺族となった場合の遺族年金の総額は、母子家庭であれば2395万6600円だが父子家庭の場合は137万6600円となる。
父子家庭では40歳以上65歳未満の「妻」であれば上乗せされる加算などがなく、遺族厚生年金は死亡時に年齢が55歳以上という条件を満たさなければ「夫」は受給できないため、こうした差が生まれている。
支援協会は(1)このような父子家庭の問題を社会的に周知すること、(2)母子家庭を対象としている場合が多い交流の場を父子家庭にも拡充すること、(3)児童扶養手当の所得制限の緩和、(4)2度目のひとり親臨時特別給付金の支給などを厚生労働省へ求めている。
「病院へ行くたび、母子手帳を出すのが辛いです」
ひとり親支援協会がこの日、厚労省で行った記者会見には、2人のシングルファーザー当事者も出席した。
その1人の䑓さんは、離婚して都内で3人の子どもを育てるシングルファーザーだ。
仕事と育児の両立、経済面どちらもコロナ禍で大変だと語る。
「シングルマザーも同じかもしれませんが、仕事が思うようにできず収入が下がったり、育児との両立で疲れ果ててしまうこともあります」
「離婚をした、ひとり親になったと伝えることで『仕事ができなくなるのでは?』『出張も難しいのでは』と判断されてしまうこともあり、離婚したことを会社に言えない人もいるのでは」
都内で2人の子ども育てる別のシングルファーザーは、第2子が生まれる際に妻を亡くした。
父子家庭が様々な課題を抱えていることは、「なってみて初めて知った」と男性はBuzzFeed Newsの取材に語る。
現在は千葉県に住んでいた実家の母の協力を得て、生まれたばかりの子どもの子育てをしている。
男性は仕事が減らされることなどの懸念から会社には相談できておらず、これまで通りの量の仕事をこなしていると話した。
「私の場合は病院へ行くたび、母子手帳を出すのが辛いです。まさか、この手帳を出すたびに刺されるような辛い気持ちになるなんて…せめて親子手帳とか名前を変えてもらうことも検討してもらえたらと思います」
これからひとり親になる予定の男性も今回の会見場にはいた。男性は3人の子どものうち1人を引き取る。別れた妻が育てる2人の子どもへの養育費の支払いもあり、「金銭面での不安がある」と語った。