ある日気づいたら、異国で神になっていた

    『GARNiDELiA』インタビュー

    ある日気づいたら、異国で神になっていた。ラノベではない。リアルワールドの話だ。

    女性ボ―カリスト・メイリアとコンポーザーtokuによるユニット『GARNiDELiA』(ガルニデリア、以下ガルニデ)は今、中国のネット世代に高い知名度を誇っている。

    ガルニデは9月26日にアルバム『響喜乱舞』をリリースした。2012年からメイリア本人が踊り手のみうめ、217とタッグを組み、自身の曲を踊る動画“踊っちゃってみた動画”シリーズの曲をまとめたコンセプトアルバムだ。

    中国での人気に火をつけたのは、この動画シリーズの一つ『極楽浄土』。和風のサウンドに合わせて、きらびやかな着物を着たメイリアたちが踊る、2015年に投稿された動画だ。

    『極楽浄土』のMV

    YouTubeでこの動画を見る

    youtube.com

    動画を投稿してから1年ほど経つと、気になる話が2人の耳に入って来た。

    中国でイベントを開催している知人から、ダンスコンテストを開くと15人中10人が使うほど『極楽浄土』が頻繁にかかっているというのだ。

    「知り合いからは『街でもかかってるよ』と言われて、えっ、なんでって(笑)。スーパーでも『極楽浄土』がかかってる。ストリートミュージシャンも演奏しているよとも言われました」(メイリア)

    メイリアは以前から中国版Twitterとも言われる『Weibo』を開設していたが、その頃フォロワ―が5万人増加。その理由がわからず不思議に思っていた。

    実はYouTubeにアップした『極楽浄土』の動画を、ファンが中国の動画サイト『ビリビリ動画』に転載。これが中国で大人気となっていた。自分たちでアップした動画ではないため、再生回数がいくら伸びても気づきようがなかった。

    もともと海外でライブを重ねていたガルニデ。和のテイストを入れた『極楽浄土』は欧米を狙った作品で、中国からの反応は予想外。人気になったと言われても実感は伴わなかった。

    人気を肌で感じたのは2017年7月。上海で開催されたビリビリ動画のイベント『BILIBILI WORLD 2017』に招かれた時だった。

    「空港からの移動中に『あなたたちの曲、知ってます』と言われて、いきなりだったので感動しました」(メイリア)

    招待されたイベントは、日本で言えばニコニコ超会議。その会場で、自分たちの人気を実感する。

    「3000人くらいが入るステージだったんです。そんなにお客さん来ないでしょとたかをくくってステージに立ったら、客席は満杯。客席からはみ出したファンが、ブースの横の通路でこっちを見て手を振っているんです。それを見て、『もしかしてって、うちらなんかすごくなっているの?』って感じました」(メイリア)

    「イベントには他の日本人アーティストもいらっしゃったんですけど、僕らのその人気を見て『あの人たちなんなんだ』とざわざわしてました(笑)」(toku)

    『BILIBILI WORLD 2017』の様子

    ガルニデの人気はファンだけに止まらなかった。

    「『ビリビリ動画』に投稿する踊り手さんたちが、私たちに会えたことを喜んでくれているようで、イベントの最後、ステージ上に並んでお客さんに挨拶をする時から『写真撮ってください』とどんどんこちらに来て。いや、みんなお客さんにバイバイとかしてからねって思いました(笑)」(メイリア)

    打ち上げ会場でもガルニデと写真を撮りたいと長蛇の列ができ、さながらサイン会のようになった。

    「どこででもやってくるから、みんな元気だなと思う(笑)。私たちとコラボしたいという踊り手の子もいるんですけど、みんながWeiboで100万フォロワーとかいて、いや私よりすごいじゃんって! でも好きになってもらえて嬉しいですよね」(メイリア)

    なぜ『極楽浄土』は中国の人々の心を捉えたのだろう。2人は次のように分析する。

    「サウンド的には和メロとEDM。和メロは日本人だと次の展開の想像がつくんですけど、中国の方には新鮮だったのかな。EDMのビルドアップしていくところもわかりやすかった」(toku)

    ビジュアルの分かりやすさもポイントだ。

    「中国ってレイヤーさんの踊り手が多いんです。レイヤーさんのスタイルも良く、美への意識が高い。それだけ見た目に厳しい国の印象がありますね。見た目が派手だったり綺麗だったり、ぱっと見わかりやすいものが好きなんですよ」(メイリア)

    『極楽浄土』の次に作った『桃源恋歌』が二胡の音を入れるなど中国を意識し、YouTubeで1300万回再生を超えるヒット。楽曲が中国のアプリゲームのテーマソングに起用もされた。

    2017年からは月1回、多い時で2回はイベントなどで中国を訪れている2人。人口13億を超えるという中国の規模感に驚かされることも多い。

    例えば所属するレーベルとビリビリ動画がタッグを組んだ中国向けのネット番組に生出演した時のことだ。

    「番組の待機人数が60万人となっていて『さすがに6万人でしょ』と聞いたら、間違いなく60万人がいま見ていますと返されて。さらに私たちが出ると90万人に増えて…。規模が違いますよね」

    今年7月に出演したビリビリ動画主催の音楽ライブ『BILIBILI MACRO LINK 2018』では、会期中に生配信を行っていたが、その視聴者数はリアルタイムで700万人を超えた。

    「日本のネット生放送だと、リアルタイムで数十万人程ですが、一方、中国では私たちを700万人がリアルタイムで見てたとなると、もうわからないですよね。日本にはそれだけの数をリアルタイムで見せられるインフラもない」(メイリア)

    tokuは技術やサービスの進化の速さにも驚く。

    「2年連続で『BILIBILI MACRO LINK』に出させていただいているけど、去年よりも機材の質やイベントの仕切りが確実に良くなっている。演者に対するケアもすごく良くなっていて、だからイベントの中身も濃くなっている」

    「照明や演出はいまや日本を超えていますね。本当にどんな小さな会場でもLEDが全面に入っているし、据え置きなので持って行かなくていい。その点、日本は備え付けのところはほとんどないので、基本的には持ち込みですよね」

    一方、中国でのビジネスは日本と勝手が違い、難しい面もある。例えば会場の問題もあり、1万人以上の規模のライブを開くことが難しい。

    中国の良い面、そしてこれからの部分も肌感で知った今、2人はこう思っている。

    「食であったりファッションであったり、日本ブランドは中国だけでなく世界的に認められている。中国の人は日本で流行ったものが好きだし、そういうブランドを欲しがってますよね」(メイリア)

    「日本人は知らないけど、海外で受けている日本のブランドとかあるじゃないですか。あれとかもっと増えていくのかなと思います。ブランドに限らずアーティストも。僕らもそういう位置なのかなと思う」(toku)

    ガルニデとして、今後も世界に向けて曲を発信していく2人。最後にtokuは日本に対するちょっとした危惧も明かしてくれた。

    「鎖国しているわけじゃないけど、中国の情報があまり日本に入っていないのは大きい。逆に中国の方は日本語を喋れる人が多い。文化流出している感じはちょっとありますね」