中国から届いた「お返し」はマスク20万枚。箱に添えられた俳句の意味は?

    「こうした国境を超えた支え合いが、いま世界で蔓延しているコロナの早期終息にも繋がっていくと思います。本当に感謝の気持ちでいっぱいです」

    新型コロナウイルスの感染拡大で、懸念されている医療機関などでのマスク不足。そんななか、中国・大連市から、福岡県北九州市にマスク20万枚が無償で提供され、話題を呼んでいます。

    マスク20万枚を無償で

    北九州市アジア交流課の担当者によると、1979年から友好都市として交流を続けている大連市から支援物資の提供の申し出があったのは、3月8日のこと。

    もともと新型コロナウイルスが中国各地で広がっていた2月初旬に、北九州市から大連市へマスク260枚と防護服70セットを送ったお返しとして、大連市から申し出があったそうです。

    「春雨や身をすり寄せて一つ傘」

    3月27日に大連市から届いた段ボール箱には、「北九州加油!日本加油!(北九州頑張れ!日本頑張れ!)」という言葉とともに、「春雨や身をすり寄せて一つ傘」という俳句が添えられていました。

    「俳人漱石」の著者で、自身も俳人の坪内稔典さん(京都教育大学名誉教授)によると、この俳句は大正5年(1916年)ごろに夏目漱石が詠んだもの。

    「漱石全集」の第15巻(初期の文章及詩歌俳句)でも、大正5年ごろの手帳の中に書かれていた16句の一つとして記載されています。

    坪内さんによると、この句は漱石の俳句の中でも知名度が低く、「知っている人はほとんどいないと思う」とのこと。

    「『身をすり寄せて一つ傘』というところに、雨の中でも寒さをしのぎあっている友情みたいなものが表現されていますよね」

    「大連の方がこの句、そして日本では俳句で気持ちを表現するという文化を知っていて、日本人の気持ちに応えようと箱に書いておいてくれたというのは、とてもいい話ですね」と語りました。

    一方、Twitterなどではこの句について、「正岡子規の『人に貸して我に傘なし春の雨』という俳句に、漱石が宛てた返句だ」という情報も拡散されていました。

    しかし子規は、漱石がこの句を詠んだ14年前の明治35年(1902年)に他界していることから、そのような背景はないのではないかと、坪内さんは指摘しています。

    国境を超えた支え合い

    では、大連市から届いた20万枚のマスクは今後、どのように活用されるのでしょうか?

    北九州市は、その他の企業や団体から寄付された支援物資とともに、市内の医療機関や高齢者施設などに配布をする予定だといいます。

    同市アジア交流課の担当者は「大連さんとは40年以上にわたる友好都市提携を通じて、深い絆を結んできました。今回これだけ多くのマスクを送ってくださったのも、そうした長年の交流の賜物だと感じています」と語ります。

    「こうした国境を超えた支え合いが、いま世界で蔓延しているコロナの早期終息にも繋がっていくと思います。本当に感謝の気持ちでいっぱいです」