「俺も謝罪会見するのかな…」アーティストが語るフルボッコ社会への違和感

    「世界と一個になろうとしてるんだよね。世界と一個になんかなれないよ、そんなの」――。銀杏BOYZの峯田和伸は言う。

    《街のあかりぜんぶがポストトゥルースでぼやけて》(『GOD SAVE THE わーるど』)

    銀杏BOYZ、峯田和伸の歌詞には、甘美な陶酔とザラッとした違和感、さりげない逆説が同居している。約6年半ぶりのアルバム『ねえみんな大好きだよ』でも、そんな批評性は健在だ。

    《インターネット、SNSは大人をみんな子供にし、子供を大人にしてしまうものだと思います》(峯田和伸による覚書「解説のようなもの」)

    フェイクニュース、誹謗中傷、同調圧力…。「社会派」とは縁遠いところにいるロックシンガーが語る、SNS / メディア論。

    喫茶店で新聞読んで

    ――峯田さんはニュースとか見ます?

    ニュース、見ますよ。俺パソコンないからスマホで。

    新聞も読むよ。行きつけの喫茶店に朝から行くんだけど、そこに4紙ぐらい置いてあるんで。それ読みながらコーヒー飲んで、朝はそうやって始まる。

    ――ちょっと意外でした。新聞なんて興味ねえよ、という感じなのかなとばかり。

    読むよ、そりゃ。

    ラブソングとポストトゥルース

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    GINGNANGBOYZofficial / Via youtu.be

    銀杏BOYZ - ぽあだむ (MV)

    ――歌詞にも、ちらっと時事的なワードが入ってきたりしますよね。

    政府に対していろいろ言いたいことがあったり、コロナについて考えてることがあったりしても、たぶん直接的には書かないんじゃないかな、そういう歌は。

    ラブソングのなかに、引っかかる歌詞をディティールとして1行入れるぐらいで。

    ――『ぽあだむ』(2014年)の「反政府主義のデモ行進!」みたいに。

    《80円マックのコーヒー!

    反政府主義のデモ行進!

    愛と絶望とキャミソール!

    ぜんぶ飲みこんで》

    『ぽあだむ』

    とかね。今回でいったら『GOD SAVE THE わーるど』の「ポストトゥルースでぼやけて」とか、ああいうのぐらいかな。あれで、2020年になるじゃないですか。

    ――なりますね。ラブソングとしてはザラッとした肌触りの言葉ですが。

    1割ぐらいそういう要素が入ると、曲がすごいリアルになる気がしません?

    それまで田舎のラブホテルだとか、河原の情景を歌っていたところに、1行入ることでヒリヒリする。

    ただ「かわいい」だけじゃなくて、その割合なんでしょうね。バランスっていうか。9:1なのか8:2なのか、わからないけど。

    メッセージは「投げない」

    ――「ポストトゥルース」にしても「80円マックのコーヒー」にしても、世相がさりげなく入ってくる。

    意味わからなくてもいいんだよね。

    この言葉って何だろう?って思って、何週間か後にニュース見ながら「あっポストトゥルースって、そういえばあの歌の歌詞にあった!」みたいな。

    そこで何かつながるものがあるかもしれないしね、その人にとって。

    だから、「これはこうなんだよ」っていう自分のメッセージとかあったとしても、それを投げることはしない。

    ヒントじゃないけど、答えはこっちからは出したくないんですよね。聴いてくれた人が「何だろう?」と思って、自分からヒュッと入ってきてほしいから。

    そりゃ、冷たくなるよ

    ――なるほど。投げつけるより、置いておいて見にきてもらうと。

    Twitterとか見てると、みんなひとつの方向に流れちゃうでしょ。

    たとえば「政治家のここが問題だ、ひどい、辞めろ!」とかさ。「いいね、いいね!」「みんなが言ってるんだから、そりゃそうだ」って何の疑問も持たずに。

    悪いことは悪いけど、その中で「ん?どうなの、これ」っていうこともあるかもしれない。だけど、そういうことも考えないうちに、ダーッと一方向に流されちゃうじゃん。

    ヒトラー生むよね、このままいったら。怖いなと思うよ。

    Twitterってさ、140字以内でしょ。140字で自分の考えを書くってことはさ、書ききれない文字をいっぱい削ったうえで簡略化した言葉になる。そりゃ、文体は冷たくなるよ。

    もっと柔らかく議論できる

    ――確かに、最近のTwitterはギスギスしています。

    「行ってほしい」が「行け」になって、みんなそれを額面通り受け取っちゃってさ。どうしても文句言いたくなっちゃう。

    そうやって文句言い合ってるのが不毛だと思っちゃうの。そこで湧き上がる感情も。書いてる本人だって、そんなに冷たい感情持ってないと思うんだよね。

    本当はもっと柔らかく議論できるはずなんだよ。やっぱり、140字以内っていう構造の問題だよね。

    つながりたくない

    ――峯田さんTwitterはやってないけど、Instagramはやってますよね。

    Instagramはやってる。レコードの紹介とか。

    でも、「いいね」とかあんまり押さないかな。友達、誰もフォローしてないし。フォローしてるのも、田口トモロヲさん1人だけ。

    ――逆になんでトモロヲさんだけフォローしてるんですか(笑)

    俺、トモロヲさんに「Instagramっていうのがあるんですよ。やってみたらどうですか」って勧めちゃったから。それぐらいで。

    誰かとつながろうとか、一切ないんだよね。

    もう、この年で新しく誰かとつながりたいとか、友達できたらいいなとか思わないよ。今いる友達とずっと会ってたいの。つながりたくないんだよね、誰とも。

    別にいいじゃん、そんなの

    ――つながる手段だけは、過剰なほどあふれてますけどね。

    「絆」とかね。

    だって、何考えてるかわからないじゃん。「初めまして」って来られてもさ。

    だったら、いつも行ってる定食屋のおっちゃんと、世間話した方がいいよ。「こんなことあってさ」「へー」って。

    あとさ「謝れ!」みたいな風潮、あるじゃん。

    ――謝罪会見がエンターテインメントみたいになってるんでしょうね。

    「別にいいじゃん、そんなの。お前から言われなくたって」って、思うよね。

    俺も謝罪会見するのかな…

    ――自分の友達だったらね、ひとことぐらい何か言うかもしれないけど。

    そうそう。ヒマなんだよ、みんな。対象がほしいんだよ。日常でイキがれないから、ネットではイキがりたいんだよ。

    俺も、謝罪会見とかするのかな…。

    ――謝罪会見、先にやっておけばいいんじゃないですか。「申し訳ありません。これから何かやらかすかもしれません」って(笑)

    もう、そうだね。先に言っておきます!

    みんなストレスたまってるんだよ。誰かが謝ってるところ、見たいんでしょうね。

    「ご冥福を」の違和感

    ――本当は「いいね」と「悪いね」の間に「どうでもいいね」っていう広大な海があるはずなのに、どうしても両極端に振れがちですよね。

    好きな人とか、有名人が亡くなってさ。「ご冥福を」とか、つぶやくでしょ。言うなよって。

    「お世話になってました」とかさ。死んでからばっかりなんだよ、みんな。もっと生きてるうちに話題出せよ!って話だよ。なんか、嫌なんだよね。

    自分と世界は違う

    ――人の死が大喜利のようになっていて、競って「いいこと」を言おうとするような空気は感じます。これは自戒を込めてですが。

    「私を関連付けて」みたいな感じでさ。本当にその人のことを思ってるなら、喪に服せって思わない?

    「自分のこと」が「世界全体のこと」になっちゃってるんだよ、みんな。

    世の中で何かが起こった。さっぱり関係ないはずなのに、「私はこう思う」とか、世界とすごいくっついちゃってさ。本来、自分と世界なんて違うじゃん。別に関係ないんだもん。

    世界と一個になろうとしてるんだよね。世界と一個になんかなれないよ、そんなの。

    「世界がひとつになりませんように」

    ――「世界がひとつになりませんように」(2019年の日本武道館公演のタイトル)の通りですね。もっとバラバラでいいのに。

    そう、バラバラでいいの。

    ネットってさ、最初のころはすごい楽しみで「あっ、世界が近くなる」「もっとわからない世界が知れるようになる」ってワクワクしたんだけど。今はそんなにワクワクしない。

    広がると思ったのに、どんどん狭くなっちゃって。

    世界のことより、自分の中で知りたいことがいっぱいあるんだけど、みんなそっちの方は行かないもんな。狭くなっちゃったな、と思うよ。

    〈峯田和伸〉 ミュージシャン・俳優。1977年、山形生まれ。1999年、ロックバンド「GOING STEADY」としてデビュー。2003年に解散し、「銀杏BOYZ」を結成。代表作に『君と僕の第三次世界大戦的恋愛革命』『DOOR』など。最新作『ねえみんな大好きだよ』は、前作『光のなかに立っていてね』以来、約6年半ぶりのオリジナルアルバム。音楽活動のかたわら映画『アイデン&ティティ』『ボーイズ・オン・ザ・ラン』や、ドラマ『ひよっこ』『いだてん』『高嶺の花』などに出演。演技の世界でも高い評価を受けている。無観客生配信ライブ「銀杏BOYZ 年末のスマホライブ2020」を12月26日に開催予定。