ドイツの衝撃的な集団女性暴行 被害者の証言に欧州の難民受け入れが揺れる

    被害届379件、容疑者は1千人にのぼるともされる大規模な性犯罪がケルンで発生した。続々と報告される難民関与の情報。女性たちはその夜、何をされたのか。BuzzFeed News記者が現地に入った。

    昨年の大みそか、ドイツ・ケルン中央駅で、百人規模の女性が襲われ、少なくとも2人がレイプされる集団暴行事件が起きた。BuzzFeed Newsの記者が1週間後、ケルンに取材に入った。

    「あんな事件が起きた後、姉妹を1人で電車に乗せたくなくて、昨夜は空港に迎えに行った」。BuzzFeed Newsに対し、Giulia Baricさんはこう話す。

    「駅にいると、午後10時過ぎに女の子はここにいるべきではない、気をつけるようにと男性から注意された。バカげている。ここは治安のいいエリアなのに」

    地元メディアに暴行被害について話すMichelleさん(左)と匿名の女性(右)

    警察は「概ね平和的なものだった」

    この事件では、襲撃に難民が関わっている疑いと、その場合の反発の大きさに焦点が集まった。

    独メディア「シュピーゲル」が入手した警察の1月4日付の内部報告書によると、警官たちはケンカ、窃盗、性的暴行といった犯罪に気づいていたという。「犯人は警官を煽る移民の男だった」などという記述や、「シリア難民を名乗る犯人がいた」という警官の証言も並ぶ。

    「おれはシリア人だ。配慮をもって接しろ。メルケル(首相)がおれを招いたんだからな」と話す犯人もいたという。

    この報告書の内容は、「概ね平和的なものだった」とする元日の警察発表とはかけ離れていた。発表では性的暴行や移民への言及がなかったため、反移民感情を抑えるためだったのではないか、という憶測を呼んだ。

    市民が手にできるのは、断片的な情報だけ。ケルンに住むSaraという女性は駅の外で「女性たちによる被害証言が表になって初めて、何かが起きたとわかり始めた」とBuzzFeed Newsに話した。

    複数の被害者が「犯人がアラブ系または北アフリカ系だった」と証言すると、犯人は難民だとする主張が広まった。ドイツの複雑な移民問題が影を落とす。

    メルケル首相は、ドイツの法律を破る移民や難民を本国へ送還する可能性に触れた。

    被害届は379件、千人が関与の報道も

    群衆の中で起きた強盗や性的暴行、レイプの被害は徐々に表面化。最初の4日間で暴行と強盗の被害届は60件にのぼり、1月7日までに女性からの被害届は120件を超した。レイプも2件あった。警察は1月9日、暴力犯罪の被害届は379件にのぼり、うち4割が性的被害だと発表した。性的暴行の被害届が増えるにつれ、世論の怒りが高まり、政治家や警察は、前代未聞で組織的な犯罪だと非難し始めた。

    「女性たちが泣き叫び、声をあげながら追いかける男たちがいた」。複数の目撃者が地元メディアに語った。二人の男が抵抗する女性たちを囲い込み、体を触っていたという。

    ある女性は「突然、周囲の男たちが私たちの体を触り始めた。尻を触られ、股をつかまれた。全身をまさぐられた。もしこのまま群衆の中にいたら、殺され、レイプされ、そして、誰も気づいてくれないかもしれないと思った。でも、されるがままになるしかないと思った」と話す。

    別の女性はBuzzFeed Newsの取材に対し「警察官を呼んだが、『気をつけなさい。今は何もできない』と言われた」とこたえた。

    学生のVanessa(21)は友人と現場にいて、被害に遭った。「先月、ミュンヘンでも、大勢の男たちに性的な嫌がらせをされて、怖い思いをした。大みそかにも同じことが起きた。どうしたらいいかわからなかった。友人は体を触られた。気持ちが悪いし、なんでこんなことが許されるのかわからない」

    彼女は、ケルンのヘンリエッテ・レーカー市長の発言にも苛立っている。レーカー市長は、「行動規範」を守って「見知らぬ人から腕が届かない範囲」を保つことで大みそかのような襲撃を避けるべきだと提案、被害者を傷つける発言だと批判された。「スカートをはいていても、コートとズボン姿でも性的被害には遭う」とVanessaは話す。

    政治家や警察の報告書に対する不信は大きい。メディアは初期に、犯罪行為に関わった男は千人にのぼると報道した。ケルンの警察トップのWolfgang Albers氏(当時)はこの数字を否定し、関わったのは「数人の容疑者」だけで、少人数の集団が被害者を狙っていたとした。ただ、ある記者は千人という数字は大きく外れていないとみている。

    「暴行をどう定義するかで変わる。わたしの出身は、祭りではこうした暴行が日常的な地域。警察は、何者かが尻をつかんだり、闇雲に身体を触ったりするのを暴行と捉えるべきだし、もしそうなら、千人が非現実的な数字であるとする根拠はない」


    いまも、住民の多くは、事件の全容を知らされているのか、なぜ最初に詳細が伏せられたのかと疑問に思っている。もし警察が反発を恐れて、性的暴行の全容や襲撃者の背景を詳細にしなかったとしたら、逆にそれが反発を勢いづかせたといえる。

    「難民たちの犯行だ」。ある女性はBuzzFeed Newsに話す。「現場にいた友人はアラビア語を学んでいるので、何者かが自分について話しているのがわかったそうです」。違った見方をする人もいる。「難民だろうとなかろうと、どうでもいい。ドイツ人の可能性もある。こんなことはしょっちゅう起きるし、起きれば悲惨なだけ」

    極右の集会に数万人

    ケルンでは、反イスラム派とトルコ・北アフリカ系が多いイスラム教徒の緊張関係が続いてきたため、ドイツの移民問題の焦点になりつつある。

    ここ数年、ケルンは「西洋のイスラム化に反対する欧州愛国者」(ペギーダ)や「サラフィーに反対するフーリガン」といった極右グループの本拠地となり、集会が開かれると、数万人の支持者が街に溢れかえることもあった。昨年10月には、警察が集会を止めようとしたが、極右の反対にあい、放水銃が配備されたこともあった。

    「ケルンは、つねに注意を払うべき街だ」。ある警察官は7日、駅をパトロールしながら、BuzzFeed Newsに話した。「暴力や小競り合いの危険と隣り合わせ。路上強盗、女性への暴力。常軌を逸している。ギャングの活動は長く問題だ」

    ケルン警察は、事件とギャングとの関連性も指摘する。デュッセルドルフなど近隣の町で、同様の事件が起きているからだ。ギャングの犯罪が、ここ数年、ケルンの夜を不穏にしていると地元では報道されている。

    それでも、被害者の気をそらせて金品を奪う目的で性的嫌がらせをする手口は、これまであまり聞かれなかった。

    「(出身がどこであろうと)若者の集団が性的な嫌がらせをすることはよくあること。だが、あっても、3〜5人の小さなグループによる犯行だった」。ケルン大学の犯罪学者Frank Neubacher氏は話す。「もしケルンの犯罪に100人以上の性的暴行犯がかかわっているとしたら、(事前に)準備されていた可能性がある」

    地元に住むAlexanderさんは、ギャングの活動を見聞きしてきた。大みそか、真夜中に駅に着くと、泣きながら慰め合っている少女たちを見た。未明に駅に到着する難民を地元のシェルターに連れていくために、いつも駅に来ているという。

    「警察は、あの夜に現れたやつらを知っていた。毎晩見てるからだ。ギャングは、到着した難民にスリをすることもある。到着して眠っている難民たちから盗みを働く相談をする声を聞くこともある」

    慈善活動に携わる人たちは、大みそか以来、難民への襲撃が続いていると話す。シリア人家族に爆竹が投げ込まれることもあったという。

    Alexanderさんは、到着したばかりの難民が事件に関わっているとは信じがたいという。「これまでに接したここに来たシリア人はみな、あの夜のようなことはしない。疲労と空腹で、そんなことはできないはずだ」

    昨年1月、前週にイスラム教徒への抗議活動をしたペギーダに反対して、ケルン大聖堂が明かりを消した。その新年の演説でメルケル首相は、ペギーダ幹部を「偏見に満ち、冷徹で、敵意に溢れる」と糾弾している。

    同大聖堂のNorbert Feldhoff主席司祭はBuzzFeed Newsに対して、「ペギーダは、社会の中流から人種差別主義者、極右まで幅広い人間で構成されている」と説明。「明かりを消すことで、デモを止め、考えさせたい」

    ケルンの住民たちは、今後、反イスラムの抗議活動が相次ぐだろうとみている。ペギーダは、ドイツの難民受け入れ策に反対するためにケルン中央駅の外で集会を開いた。事件によって、自分たちの主張に注目が集まったと考えている。

    Kopetzky Irmgardさんはここ数年、性犯罪被害者の緊急相談に乗る地元の慈善団体で働いてきた。ここ数年、難民の流入が続くが、性的暴行やレイプの件数は増えたとは認識していないという。

    「女性が襲われ、痴漢行為に遭い、怒鳴られるのは今に始まった話ではない。最近、20〜30人の乗客が居合わせながら、電車から男に引きずり降ろされて性的暴行を受けたという女性の話を聞いた」

    ケルン中央駅は、大みそかに犯罪が「多発する場所だ」とIrmgardさん。「警察はおそらくあの夜、準備を怠った。想定していたのは、ケンカや殴り合い、爆竹。性的暴行は予期していなかった」

    また、多くの女性が性的暴行を届けたことは「非常にまれだ」という。前例のない数の被害届があっただけではない。女性のほとんどは怖がって届け出ることさえしないからだ。

    「彼女たちはメディアで支援を受けていると感じ、話がしやすくなっている」。ただ、こうした被害者に対する支援の一部は、犯人たちの国籍だけが理由ではないかとみる。「こうした支援はつねにされるべき。ただ、残念だが、そうではない」