沖縄県知事選(9月30日投開票)に立候補している佐喜真淳氏(自民、公明、維新など推薦)の選挙公約にある携帯電話の利用料金に関して、「4割削減させます」などという表記がTwitterやYouTubeにあり、本人の力で実現できるとも取れる表現が使われている。
しかし、通信行政を所管する総務省によると、携帯電話の利用料金を引き下げる権限は知事や国にはない。そういった法律もないという。
公約となる政策集には4割削減を「求める」と掲げている。だが、BuzzFeed Newsが話を聞いた有権者らは「候補者自らが実現すること」を公約と考えており、解釈に大きな差があることがわかった。
佐喜真氏は自身のHPで、「国と連携して携帯電話の利用料の4割削減を求めていきます」と公約を表記している。
一方で、sns上やチラシでは「削減させます」「削減を進め家計を助けます」などと書かれる。それに対し、ネット上では「県知事にそんな権限があるのか」「知事選との関係は」と指摘する声があがっていた。
権限の有無について総務省の担当者は「県知事に利用料金を引き下げる権限はありません。国にもない」とBuzzFeed Newsに話す。
さらに、携帯電話会社について記載のある電気通信事業法には、料金を変更する規定はないという。
自民党県連が語る公約の意味
では、この公約にはどんな意味があるのか。
那覇市内にある選挙事務所でこの公約の趣旨について尋ねた。すると、担当者は「自民党沖縄県連が政策の窓口になっているので、答えられない」と回答。
そこで、同党沖縄県連に出向くと、担当者は次のように経緯を説明した。
菅官房長官が「携帯電話料金は4割程度下げる余地がある」と問題提起。それを受け、「ぜひ私どもは、政策の中心に据えて訴えていきたい」と話したところ、受け入れられたという。
県知事には料金を引き下げる権限はない。あくまで求める。それが公約ということか。そう問うと、「そうです。携帯電話料金を引き下げる権限は知事にはない」と返ってきた。
ただし、「実現していくという公約もある」との説明もあった。どういうことか。
「佐喜真は国政与党である自民党の推薦候補で、話ができる立場にいるのでね」
この公約は、今回が18歳から投票できるようになって初の県知事選であるため若者の支持を集めようとするとともに、菅官房長官ら政権中枢とのパイプをアピールしたいとの背景があるとみられる。
そもそも、携帯料金の4割削減を巡る議論が本格化したのは2018年8月。菅官房長官が札幌市で開かれた講演会で「4割削減の余地がある。競争が働いていないと言わざるを得ない」と語ったからだ。
総務省は10月から研究会を設け、引き下げについて議論する方針だ。
ただし、国にも引き下げの権限がない以上、「携帯電話業界が競争をする中で引き下げができるのではないか。競争を促す具体策を検討する会」(総務省担当者)だという。2019年末までに結論がまとまる見通しだ。
菅官房長官は9月16日、「佐喜真候補がこの問題を公約に挙げ、声を上げていただきました」と那覇市内での街頭演説で応援に立った。そして、「4割程度引き下げる。そうした方向に向かって実現をしたい」と改めて強調した。
有権者たちの解釈
これに対し、BuzzFeed Newsが取材した有権者らは、異なる受け止め方をしていた。
佐喜真氏の選挙事務所そばにある携帯ショップから出てきた有権者らに話を聞くと、那覇市の女子大学生(19)は「佐喜真さんが実現するのが公約のように思いました」と話した。
「実際に4割削減したら嬉しいけど、(2016年1月の宜野湾市長選のときに)ディズニーリゾートの誘致を実現します、とも言っていたし、今回も本当に実現するのかなって疑問です」
同市のアルバイトの男性(57)も同じく佐喜真氏による「実現」が公約に感じたという。
「4割削減されるのであれば嬉しいですよ。実現できるのなら大いにやってもらいたい」
「あれだけ強気ならやってくれるだろう」(男性会社員、25歳)との期待もあった。
「求める=公約ではない」
話を聞いた5人中5人が、佐喜真氏自らが料金引き下げを「実現する=公約」であって、「求める=公約ではない」と捉えていた。
政策パンフレットやHPで掲げる公約では「求める」にしている事実と異なり、解釈に大きな差があった。
この点をどう考えるのか。先出の自民党沖縄県連の担当者は「県民のすべてが解釈を間違えているわけではない」と反論。
「ただ、間違った期待にはならないのではないかな。佐喜真には求める根拠がある。携帯の利用料を下げるために求めていく、チャレンジしていくんです」
対抗馬は「県内全域でWi-Fiを無料に」
一方で、選挙戦の対抗馬である玉城デニー氏は、「県内どこでもWi-Fiを無料に」との公約を掲げている。陣営関係者は「(県の事業として行えば)実現可能性が大いにある」と主張する。
今回の沖縄知事選では、元那覇市議で琉球料理研究家の渡口初美氏、元会社員の兼島俊氏も出馬している。
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