大人たちが絶賛し続けるアンパンマンの「神映画」を知っていますか?
「何のために生まれて 何をして生きるのか」アンパンマンのマーチがテーマの名作。
その作品は、2006に公開された「いのちの星のドーリィ」。
「アンパンマンのマーチ」の歌詞にある「何のために生まれて 何をして生きるのか」という一節がテーマとして問われた名作です。
いのちの星によって命を得た人形のドーリィは「せっかく命をもらったんだもん、自分が好きなことだけして、自分のことだけ考えて、毎日楽しく生きればいいのよ!」と勝手気ままな行動でみんな困らせてしまいます。
やがて、ドーリィは、胸のいのちの星のほのおが小さくなっていることに気づきます。
「なにかが足りない気がするの。私は何のために生まれてきたんだろう」
レビューサイトには「大人一人、テレビの前で号泣してしまいました」「子供とパパと一緒に見ましたが、普段映画じゃ泣かないパパが、このアニメで泣きました」などの感想が寄せられています。
2018年の新作「かがやけ!クルンといのちの星」は再び「いのちの星」がテーマ。
――「いのちの星のドーリィ」はアンパンマンの「いのちの星」が抜けてしまうという、インパクトの大きい映画です。このシナリオは最初から決まっていたのでしょうか?
金春:いいえ、途中でそうなりました。
当時は、やなせ先生から内容のご提案をいただく場合と、アニメスタッフ側から提案する場合があって、「ドーリィ」についてはこちら側から「子供たちが作った人形が命を得て、アンパンマンやみんなとの交流で成長していく話」というような提案をしたと記憶しています。
それに対して先生から「捨てられた人形がいい」というご提案と共に、ドーリィのキャラクターやイメージボード的な絵が送られてきました。その時はまだ名前も別のものがついていました。
それを元に、こちら側でまたふくらませてご提案し、さらに先生からご意見をいただいて…ということを繰り返して、現在のストーリーになりました。アンパンマンが死んでしまうという展開も、その過程で決まったものです。
実は「なんのために生まれて なにをして生きるのか」をメインテーマとして強く押し出そうということ自体も途中で決まりました。
今思い出すと、「いのちの星のドーリィ」は、何か不思議な力に導かれてできていった作品のようにも感じられます。
――30周年を記念した作品で、改めて「いのちの星」「アンパンマンのマーチ」をテーマにした理由を教えてください。
矢野:先生が亡くなられてからは、先生が作詞された歌をテーマにして作品を生み出してきました。
先生が作られた歌詞の中にはたくさんのキーワードがちりばめられていますので。
制作チームの中で30周年のテーマとなる歌は「アンパンマンのマーチ」だね、と自然な流れで出てきました。
そのテーマから出てきたのが「いのちの星」であった、ということだと思います。
――「なんのために生まれて なにをして生きるのか」難しいテーマを子供向けに書くときに、大切にしていることはありますか?
金春:「アンパンマン」に限ったことではありませんが、脚本を書く時に絶対に「子供だまし」はしません。
キッズアニメを書く時も、自分が本気で面白い、楽しい、感情が動かされると感じていないと、子供たちに見破られてしまう気がします。
子供たちにテーマをどう伝えるかということはあまり意識しないで、アンパンマンの世界の中で登場人物たちの気持ちを深く考えながら、彼らが自然に動けるように脚本を書くようにしています。
――今作では、ばいきんまんがアンパンマンを助けようとするシーンが印象的でした。アンパンマンとばいきんまんの関係性、ばいきんまんの心境が少し変わってきているように思えます。そのような変化を描いた理由を教えてください。
矢野:そう見えるのかもしれませんが、実は何も変わっていません。
先生も言っていたことですが、パンと菌はお互い必要な存在で、アンパンマンがあってばいきんまんがあり、ばいきんまんがあってアンパンマンがあるんです。菌がなければパンはできません。
アンパンマンは元々ばいきんまんがイタズラをした時に止めているだけです。
ばいきんまんがピンチの時に助けに行くことは今までもあります。今回も自然とそれをしているだけのことです。
ばいきんまんは自分のために、自分がライバルとして必要な存在だと思っているからこそ自然と体が動いているだけで、心境は特に何も変わっていないです。
お互いに必要な存在・関係であることは今も昔も変わりません。
金春:アンパンマンとばいきんまんのことを掘り下げていって、これまでに描かれていない面を描こうとすると、関係性が変わったようにも見えるのかもしれませんね。
でも、根本の部分は何も変わっていないと思います。
逆に言うと、劇場版では彼らの関係性が変わって見えるぐらいの「危機」が描かれることがあるということなのかもしれません。
――ロールパンナちゃんのセリフで「アンパンマンはすごいな。自分がなんのために生まれてきたのか知っている…」
「(ロールパンナちゃんはなんのために生まれてきたの?という問いに)…わからない」というものがありましたね。
ロールパンナちゃんは物語でどのような役割を持っているのでしょうか?
金春:ロールパンナちゃんはとても重い運命を背負って生まれていて、他のキャラクターたちとは立ち位置が違います。
いつも孤独で、誰よりも「自分は何のために生まれてきたんだろう」と自分を見つめ続けているキャラクターであるように思います。
そんな彼女の考えていることを、クルンちゃんにも聞かせてあげたいと思って、この場面を書きました。
――やなせ先生が亡くなって4年が経ちました。やなせ先生とのやりとりで、印象に残っている言葉はありますか?
矢野:先生とのやりとりは作品を作る時の印象ばかりなのですが…。
第23作目「すくえ!ココリンと奇跡の星」(全てを動かしているヘンテエネルギーがなくなりそうで困っているヘンテ星からやってきたココリンが、真心こめてパンを作るということを通して成長していく話)の時の先生とのやりとりです。この年は東日本大震災が起きた年でした。
シナリオや絵コンテのチェックもOKが出て、作画の段階で大震災が起こりました。
エンディングでヘンテ星の住人がアンパンマンワールドで畑を耕しているカットがあったんです。ヘンテ星に住めなくなった住人が、アンパンマンワールドに来た…と思える絵でした。
先生は作品が出来上がった時、アンパンマンは迎え入れる選択ではなく「住めなくなった星を元に戻す」選択をするとおっしゃっていた。故郷を元に戻すことをあきらめないんだ、ということですね。
その後先生の最後のアイディアとなった「りんごぼうやとみんなの願い」(監督:川越淳)のテーマは『故郷』。先生の故郷に対する思いの強さを知ったやりとりとして、印象に残っています。
金春:私の場合は直接お話しする機会は限られていて、普段はこちらからはメール、先生からは会社経由でのFAXでのやりとりがほとんどでした。
先生は私が書いた原稿に対して、内容面へのご意見だけではなく、私に対する励ましや時にはお叱りなどたくさんのメッセージを書いてくださいました。
その言葉のひとつひとつ、全部が今も大切な宝ものです。
――金春様は12作品、矢野様は21作品手がけられています。回数を重ねるごとに変わってきたこと、変わらないことはありますか?
矢野:「それいけ!アンパンマン」という作品に向き合うこと自体は一切変わっていません。
変わらないことがこの作品の柱だと思っています。
金春:アニメは共同作業なので、脚本を仕上げるまでにたくさんの会議をして、プロデューサーの方たちや文芸担当の方たちとの話し合いをします。
そのメンバーには入れ代わりもあるのですが、みなさん、「アンパンマン」をよくご存知の方々です。
回を重ねるにつれて、「ひとりで抱え込まずに、みなさんに相談しよう」という考え方ができるようになってきたように思います。
とはいえ、実際に原稿を書く時には「愛と勇気だけが友だち」です(笑)。
――アンパンマンで育ったお父さん、お母さんへメッセージをお願いします。
金春:「アンパンマン」に対する気持ちを親子2代で共有できるなんて、とてもすてきなことですね。
アンパンマンはずっと変わらずそこにいて、今日も困っている人たちを助けています。
今回の映画をお子さんと一緒にご覧になって、親子で笑顔になっていただけたら、とても嬉しいです。
矢野:お子さんとぜひ映画館の大きなスクリーンで、一緒にアンパンマンを楽しんでいただければと思っています。