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台風の情報が「ひらがなツイート」で投稿された理由

台風19号の際に話題になったメディアや自治体による「やさしい日本語」でのツイート。多言語だけでなく、やさしい日本語で情報を伝える重要さを聞きました。

「たいふう 19ごう は おおきくて とても つよい です」「ながのけんに すんでいる がいこくじんの みなさん。こまった ことが あれば 15のことばで そうだん が できます」ーー。

大規模な被害が予想されていた台風19号を前に、NHKや各地の自治体が、ひらがなや、簡単な日本語のみで書かれたツイートを相次いで投稿した。

実は、これは「やさしい日本語」と呼ばれるもの。日本在住の外国人など、日本語に不慣れな人たちのための発信だ。

だが、Twitterではその存在を知らない人から「なぜ、ひらがなばかりのツイートが?」「外国人向けなら、なぜ英語や多言語でツイートしないのか」と批判的なコメントもあがっていた。

そんな中、「どちらも大切なんです」と呼びかけた、あるアカウントがある。

\どちらも大切なんです/ ★多言語での情報提供 ★易しいレベルの日本語での情報提供(やさしい日本語) 1人でも多くの外国人に大切な情報を届けるために ”どちらも”必要なんです。 このことを日本の皆さんにぜひ知っていただきたいです。

@bloomyourwish

「1人でも多くの外国人に大切な情報を届けるために”どちらも”必要なんです。このことを日本の皆さんにぜひ知っていただきたいです」

台風19号が東海、関東地方を直撃した当日、イラストを通じてTwitterでそう呼びかけたのは、「やさしい日本語」のワークショップなどで講師を務める黒田友子さんだ。

「もちろん多言語での発信も重要です。しかし、やさしい日本語の存在を知らない方などから『外国人向けには、日本語での発信は意味がない』というような意見もありました。両方の大切さを知ってもらえたらと思い、イラストを描きました」

これまで、やさしい日本語を教え、その大切さを広めてきた黒田さんはそう語る。

そもそも、やさしい日本語とは

やさしい日本語の起源は、1995年に発生した阪神淡路大震災にある

多くの人が甚大な被害に見舞われた中、外国人の多くが言葉が分からないことを理由に、被災状況を掴めなかったり、情報伝達も滞ったりした。

とはいえ、外国人の中には、多くの国籍の人々がいた。そのため、簡単な言葉やシンプルな文法を使い伝える、「やさしい日本語」が誕生したのだ。

やさしい日本語は、ただ単に、ひらがな表記にしたり、漢字にふりがなをふるものではない。

例えば、「危険」を「あぶない」、「避難」を「にげる」に言い換えるなど、難易度が高い言葉を使わないこともポイントだ。

また、簡単な文法や言い回しを心がけ、一つの文章を短くする。文節ごとにスペースを開けて、読みやすくする工夫は「分かち書き」と呼ばれている。

命を救う言葉

黒田さんは、外国人患者が増える医療機関の職員らに、「やさしい日本語」の指導なども行なっている。

「命に関わることを話す医療の現場でも、『やさしい日本語』を使います。その言語の外国人通訳がいたとしても、通訳さんに対し、分かりやすいように、やさしい日本語を使うようにしています」

「日本人ならコツさえ分かると、誰でも書けるようになります。医療に限らず、災害も命に関わること。『やさしい日本語』が重要なのです」

多言語、やさしい日本語の発信「どちらも大切」

黒田さんが投稿したイラスト内で説明されている「やさしい日本語」と多言語での発信の、それぞれのメリット・デメリットはこのような点だ。

【やさしい日本語での発信】

メリット:日本語を勉強中の人に情報を届けることができる。翻訳する時にも役に立つ。

デメリット:日本語を学ぶ人以外には不自然に見える。読みにくい人もいる。

【多言語での発信】

メリット:日本語が分からない観光客などに役立つ。

デメリット:対応言語が限られている。

黒田さんは「もちろん多言語での発信ができ、(翻訳や内容の正確性の)チェック機能が整っている場合は、外国語での発信もたくさんあるに越したことはありません」と話す。

特に、英語や中国語など、広く使われている言語は、日本語を理解することができない確率が高い外国人観光客への案内に有効だ。実際に台風19号でも、JRなどが、電車などの運休情報を多言語でツイートしていた。

なぜ、やさしい日本語が必要なの?

一方、「やさしい日本語」は日本語を勉強している外国人や、マイナーな言語を母語とする人に災害情報を届ける際に、特に力を発揮する。黒田さんは言う。

「日本にいるということで、難しい漢字は読めなくても、多少は日本語ができる人が多いです。やはり外国語で発信する際は、言語を限定することで、比較的マイナーな言葉を話す人たちが、こぼれ落ちてしまいます。どちらの発信も、絶対必要なのです」

日本で暮らす在留外国人のうち、人口がもっとも多いのは中国(構成比27.8%)、韓国(同16.0%)、ベトナム(13.1%)、フィリピン(同9.8%)、ブラジル(7.3%)などの国々を出身地とする人たちだ(2019年6月現在)。これらの国々では、英語を母語とする人はほぼいない。

だが、日本語を学んでいる人は多いため、「やさしい日本語」なら情報を届けることが可能になるのだ。

発信する難しさも

【がいこくじん の みなさんへ】 たいふう19ごう が 12にち~13にち に にしにほん~きたにほんの ちかくに きそうです。 たいふう19ごう は おおきくて とても つよいです。 き を つけて ください。 (↓よんで ください) https://t.co/47Pb7NhZu6 https://t.co/kHlFxQUAnG

@nhk_news

ひらがなのみで発信されたNHKのツイート

普段、様々な日本語習得レベルの外国人生徒に日本語を教える黒田さんは、外国人向けに日本語で発信する難しさについて、こう指摘する。

「様々な日本語習得レベルの人がいて、ひらがなしか読めない人もいます。日本語ネイティブの人たちの目線では、ひらがなばかりの文章は読みにくいかもしれませんが、限られたツイートの文字数の中で情報を伝えないといけない時は、有効です」

普段、黒田さんがやさしい日本語で文章を書く際には、「台風(たいふう)」などのように、漢字の後にふりがなをふることを心がけているという。

それは、その言葉が分からない時に、コピーして調べやすいということに加え、ひらがなだけでは同音異義語が分からないからだ。

例えば、「いじょう」と書いていて意味が分からなくても、「以上(いじょう)」「異常(いじょう)」と漢字とふりがなを合わせて書いてあれば、漢字から調べることができる。

「ひらがなだけで書いてあると、意味が全くわからないときに、調べようがなくて、正しい情報にアクセスできないのです」と黒田さんは説明する。

写真やイラストをツイートで活用

【がいこくじん の みなさんへ】 たいふう19ごう の あめで ひがい が でた ところでは、 きょう の ゆうがた から あめが また たくさん ふる かもしれません。 かわ の みず が あふれたり、 やま が くずれたりする かもしれません。 かわ や やま の ちかくに いかないでください。

@nhk_news

ツイートに視覚情報を増やすために写真をつけた例

そうした理由から、NHKを含む報道機関の「やさしい日本語」の記事は、漢字表記に加えて、ふりがなや丸がっこ内で、ひらがな表記がある。

ツイートの場合は、丸がっこでふりがなを入れていると文章が長くなってしまうために、全ての文章をひらがなで表記する場合もあるのだという。

また、黒田さんは「ツイートは、画像がつけられるので、画像で視覚情報で伝えることが最も効果があると思います」とも話す。

上記のツイートのように、写真をツイートにつけ、河川氾濫や土砂崩れの警戒を呼びかけるのも一つの有効な方法だ。

自動翻訳でも役立つ、やさしい日本語

さらに、「やさしい日本語」は、多言語発信をする際の土台としても役に立つと黒田さんは指摘する

台風19号の際、ブラジル人が多く住む静岡県浜松市では、避難を呼びかけるポルトガル語での防災メールで、誤訳があった。

大雨により、川から離れるよう呼びかけるところを、川に避難するようにという内容になっていたという。

もちろん、その言語のプロや通訳者が、翻訳したりチェックをしたりすることがベストだが、黒田さんは「どうしても自動翻訳を使わないといけない時にも、役に立つのが『やさしい日本語』です」と話す。

漢字の熟語などが多い通常の日本語をそのまま自動翻訳にかけるより、まず「やさしい日本語」の文章を英語に自動翻訳し、それをその他の言語に訳すことで、誤訳を防ぐ対策にもなるという。

黒田さんは、外国人に対する災害時の対応について、こう語る。

「災害時は、スマホでは大きな音の緊急速報が鳴るのに、漢字ばかりで内容が分からないなど、外国の方は怖いと思います。やさしい日本語での発信や、声かけ、一緒に避難するなど、行動に移せたら良いと思います」