「歌舞伎は発想がパンクなんです」 伝統芸能の“庶民すぎる”一面を役者に聞いた

    坂東彌十郎さんに聞きました

    先日、はじめて歌舞伎を見ました。

    「やっぱり伝統芸能はすごいな〜」と思って帰ってくる予定だったのですが、「死ぬほど難しい」が一番の感想でした。

    やっぱり20代そこらの教養では厳しいのだろうか……。

    歌舞伎役者さんにゴネてみる

    というわけで、今回は歌舞伎役者さんに、歌舞伎のよさを教えてもらおうという企画です。

    「1回見たんだけど難しかったから教えて」と、素直な思いをメールしたので怒られるかもしれない。

    指定されたカフェの中にはいると……

    こっ、怖い人いるーーーー!!!!!!

    ——先日初めて歌舞伎を見たのですが、難しくって……。

    どうやら上級者向けのお話を見たようですね。昔の言葉で演じるお芝居ですから、最初はわからなくて当然です。

    —— どうしても敷居の高さを感じてしまいました。

    本当によく言われますね。値段が高いせいもあると思います。でも、違うんです。歌舞伎はもともと庶民から生まれた文化。能や狂言など、貴族に奉納していた芸能とは違って、いまのジャニーズやAKB48のような形で愛されていました。

    ——え? 歌舞伎がジャニーズ? AKB48?

    そうです。歌舞伎は、出雲阿国さんという女性がはじめた「念仏おどり」に由来します。とても色っぽい格好で踊ったそうで、男性ファンが大勢群がりました。それこそ、今のアイドル文化と同じような構図です。ただ、武士も多かったので、ファン同士が揉めて刀で斬り合いになることもありました。

    ——ん? 男性ファンが推しメンを巡って斬り合っていたということですか?

    そうです。歌舞伎が男性だけになった理由は「女性が踊ったら、興奮したファンが暴れて風紀が乱れたから」。幕府が禁止したんです。(※諸説あります)

    禁止されても、ならば若い男性だけでやろうと「若衆歌舞伎」を考案しました。庶民の文化だから、発想がパンクなんです。ファンもその過程を楽しんでいました。いまならペンライトを持って応援にいくような、あの感覚です。

    ——歌舞伎って、もっと徳の高い歴史があるのかと思ってました。

    歌舞伎はあくまで大衆演芸です。でも値段が高いこともあり、伝統芸能ということもあって「普通の人は手が届かないもの」というイメージが付いてしまった。役者はそんなこと思っていません。誰でも大歓迎です。

    せっかくなので些細な疑問をきく

    ——歌舞伎のお化粧って、どうしてあんなに激しいのですか?

    むかし、歌舞伎は外で演じられていました。お化粧(隈取り)が濃いのは、遠くから見ても「この人が主人公ですよ」とわかってもらうためです。白塗りなのは、照明がなかった時代に、ロウソクの灯りだけでも見やすいようにという配慮から生まれました。

    「ゆっくり話す」についてもよく聞かれます。あれもお化粧と同じで、セリフを遠くのお客さんまで届けるためです。早く喋る演目もあります。

    ——「みんながわかるように」という配慮から生まれた表現なんですね。

    そうです。400年以上前から受け継がれてきた「わかりやすい表現方法」の基本が歌舞伎には詰まっています。そうした厳しいルールがある中で、いかに多様な場面を表現するか? そこも歌舞伎の面白いところです。

    いまから「歌舞伎」に触れたい人へ

    ——歌舞伎が難しい芸能ではないということはよくわかりました。でも正直、お話は難しいですよね?

    いえ、簡単なお話もあるので大丈夫です。最近話題のスーパー歌舞伎「ワンピース」や映画館で楽しめる「シネマ歌舞伎」などから入れば大丈夫。初心者にピッタリです。

    ただ、付け加えたいのは、歌舞伎は「お話」だけじゃないということです。衣装や音楽、舞台装置、そして歌舞伎役者。それぞれの表現に歴史があります。

    まずはそういった魅力から、楽しんでみてはいかがでしょうか。

    歌舞伎座の一幕見席からみた景色と、舞台からみた客席。

    ——「衣装が好きだから見る」「役者が好きだから見にきた」でもOKなんですね。

    興味を持ったところから、気になって調べているうちに、いろんなことがわかってきます。それも醍醐味です。

    また、初めて見る時は、値段は高いですが良い席で見ることをオススメします。400年間極めた技を目の前にすれば、必ずワクワクする部分がありますよ。