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クレームはメディアに左右される 県庁職員が「ネット炎上」の実情を吐露

表現の自由と、メディアの報道。

2016年も、企業や自治体のプロモーションがネット上で批判を浴び、謝罪、取り下げに至る事例が多く見られた。

一部だが、以下に列挙する。

  • 矢口真里さんなどを起用した「日清カップヌードル」のテレビCM
  • 東京メトロのキャラクター「駅乃みちか」
  • P&G「ファブリーズvsくさや」
  • ルミネ「働く女性たちを応援するスペシャルムービー」
  • 東急電鉄のマナー広告シリーズ「わたしの東急線通学日記」
  • 映画情報サイト「映画.com」のエイプリルフールネタ
  • オリエンタルラジオの写真集「DOUSEI-ドウセイ-」
  • 一般社団法人テレコムサービス協会のICTビジネス研究会「ICT女子プロジェクト」
  • 鹿児島県志布志市の「養殖うなぎ」のPR動画「うな子」
  • 資生堂「インテグレート」のCMシリーズ
  • スペースワールド「魚氷漬けスケートリンク」(順不同)

止まらない炎上。批判を浴びる表現方法。本記事では、ネットメディアとその関係について紐解きたいと思う。

「炎上が気になりすぎる」 県庁職員の本音

BuzzFeed Newsは、某県庁に勤める男性職員に話を聞いた。彼が所属するのは広報課。県のPR企画を日々施行している。

ともすれば批判の的になり、責任を負う立場だ。匿名を条件にBuzzFeed Newsの取材に応じてくれた。

制作している側は、昨今のネットメディアをどう感じているのか?

「これまでは地方の企画であればその地域の人からのクレームが多かったのですが、最近は関係ない人もクレームに加わっている印象があります」

「例えば、スペースワールド(福岡県北九州市)の氷漬けスケートリンクは悪趣味だと思いますが、地元住民より東京の方が騒いでいたように思います」

「今までは、どう話題にするかを考えるだけでよかったのが、そのような視線も入ってきているので、過剰になっている印象はありますね」

炎上が気になり、表現の幅が狭くなっていることはあるか?

「それはあります。すごくありますね。特に自治体の広報部は(住民の意見を聞く)広聴と紐付いていることが多いので、自分たちの表現が直接クレームにつながることもあり、攻めにくくはなっています」

クレームはメディアの報道に左右される

企画の取り下げ、謝罪の基準はどうなっているのだろうか。

「クレームが的外れなこともあるので、しっかりと説明できれば持ちこたえられることもあります。しかし、(反論するかの)基準は問い合わせの量になります」

「うな子のとき、炎上してからなかなか取り下げられませんでした。あれは問い合わせ対応に職員が時間を取られて、本来やるべき業務ができないという理由で、取り下げたと聞きました」

基準となる問い合わせの量は、メディアからの量ではない。一般からの問い合わせの量だ。重要なのは、一般からの問い合わせの量は、メディアの報道に左右されるという点だ。

「メディアの報道を見て、クレームをしてくるという例が多いですね。不謹慎だとか、こんなことに税金使うなとか、気分が悪くなるから消してくれとか」

「メディアから問い合わせが来て、記事化され、一般の方からの問い合わせという順番です。おそらく個人レベルだとおかしいと思っていても、クレームを入れるところまではいかないのではないでしょうか? メディアの力という後ろ盾を得て、クレームを言う風潮はあると思います」

「ボヤ騒ぎ」を「炎上」にするネットメディアの功罪

では、なぜこのような事態になっているのか?

「炎上しそうなネタを必死に探しているのがネットメディアの現状」

こう説くのは、ネット黎明期から多くのメディアを運営。ネット文化に詳しく、著者に「ウェブはバカと暇人のもの」などがある編集者の中川淳一郎さん。

「2〜3年前からネットメディアが増え、ネタの取り合いになっています。少しでも炎上しそうなネタがあれば、記事にしてPV(ページビュー、記事閲覧数)を稼ぐ。それで広告収入を増やす」

「批判的なコメントが数件ついているだけで『賛否両論ある』『波紋を呼びそうだ』と書いてしまいます。ボヤになっているところを、あえて炎上させる方向に持っていこうと見られる記事もありますね」

事実、炎上ネタはPVが伸びる。私(播磨谷)もBuzzFeedに入社する前、別のネットメディアを運営していたときに経験した。

問題視されることが起きたら、Twitterなどで批判をしているユーザーは必ずいる。キーワードで検索し、それを集めれば簡単に「批判の声」は作れる。

「どのメディアも『○○が炎上している』とは書かない。『物議を醸している』などの書き方をします。はたして物議を醸していることがニュースなのか? 『波紋を呼びそうだ』など書いているのは、波紋を呼ばせたいからだろ」と中川さん。

「物議を醸している」や「波紋を呼びそうだ」などという表現は、もともと新聞社や雑誌がよく使ってきたし、今も使っている。世の中がある事象を問題視している。自分たちはそれを客観的に書いているだけ。そういう雰囲気を感じさせる表現だ。

「もちろん記事にすべきこともある。しかし、“粗探し”のPV稼ぎをするのが記者の仕事なのか? その記事で社会的制裁を受けるかもしれない誰かがいることを感じなければならない」

では、BuzzFeed Japanはどうなのか?

BuzzFeed Japanはネット上の誤った情報などについて検証記事を書くことが多い。「粗探し」などという批判を受けることもあるが、誤りを正し、正確な情報を報じることは価値が高いと考えている。

一方で、うな子の事例で言えば、BuzzFeed Japanは「賛否呼んだ『うなぎ美少女飼育』動画を削除 市長がホームページで謝罪」と報じた。

ネット上で批判の声が上がったことではなく、行政がキャンペーンをやめたことについて、報じる意義があると考えた。

また、映画情報サイト「映画.com」のエイプリルフールネタの際は「『映画.com』エイプリルフール企画が物議を醸す あなたは笑えた?」という記事を企業に問い合わせた上で掲載。

個人をバッシングする表現があり、報じる価値があるという判断だった。

行政に限らず、広告やキャンペーンなどあらゆる表現について、なにが本当に問題なのか。差別や偏見につながるような表現なのか。なにが表現の自由なのか。誰もが納得する一律のルールを設定することは難しい。

PV狙いでなんでもかんでも炎上させ、表現の自由が萎縮していけば、つまらない世の中になるだろう。ある在京テレビ局のプロデューサーは「ネットメディアに書かれることを恐れて、笑いも政治評論も言いたいことを言えない風潮が広がっている」と話す。

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私はネットメディア界に足を踏み入れ、来年で6年目を迎える。中堅メディアながらも編集長を務めたこともある。この間、ネットの潮流や炎上をずっと見てきた。

先述のように表現の自由が萎縮すれば、つまらない世の中になると考えている。一方で「これは報じなければならない」と思うときもある。

ネットメディアが与える影響を再認識し、今後も自身の記事に一層の責任を持つことを誓って2017年を迎えたい。