男と女の友情は成立するのか? ロケット団の3人に聞く

    アニメ『ポケットモンスター』に登場するロケット団は、子供の前に立ちはだかる不思議な存在だ。ドジでいつも不運に見舞われる彼らだが、決裂することなくラブリーチャーミーな敵役に徹してきた。長い間、絶妙なチームワークを保てる秘訣は何なのか? ムサシ、コジロウ、ニャースの声の主、林原めぐみ、三木眞一郎、犬山イヌコの3名に聞いた。

    アニメ『ポケットモンスター』に登場するロケット団は、子供の前に立ちはだかる不思議な存在だ。ドジでいつも不運に見舞われる彼らだが、決裂することなくラブリーチャーミーな敵役に徹してきた。

    そんなロケット団に転機が訪れる。放送開始22年目にして初めてムサシとコジロウがバトルをしたのだ。

    長い間、絶妙なチームワークを保てる秘訣は何なのか? また、バトルにはどんな意味があったのか?

    ムサシ、コジロウ、ニャースの声の主、林原めぐみ、三木眞一郎、犬山イヌコの3名に聞いた。

    ムサシ、コジロウ、ニャース誕生秘話

    ©Nintendo・Creatures・GAME FREAK・TV Tokyo・ShoPro・JR Kikaku ©Pokémon

    ――今でこそ息がぴったりな皆さんですが、ロケット団が決まった時ってどういう感じだったんでしょうか?

    林原:私は、アニメ『ミンキーモモ』などのご縁から、呼んでいただいたんです。でも、名前がムサシでずいぶん渋い名前だなと思いましたね。宮本武蔵が由来なのかな。

    三木:ポケットモンスターのゲームが既に人気だったから、とにかくオーディション会場に人が多かった。それしか覚えてないな…。

    犬山:20年以上も前だからね。でも、まさかこんなに大きなプロジェクトになるなんて想像していなかったし。

    オーディション会場のロビーで場を支配してる人がいて、その人しか覚えてないですね。元気でハキハキしていて、ロビーの中心人物だった。サトシ役の松本梨香さんなんですけど(笑)。

    ――役のまま! ロケット団のみなさんはアドリブが多いと聞きました。例えば「ヤな感じ」という決め台詞も当初は台本になかったとか。

    三木:悲鳴とともに飛ばされるだけだと痛々しい。そういう提案があってもいいんじゃない?と、3人の中で合議がとれた記憶がありますね。

    アドリブって、出ちゃうものなんですよね。単に付け足すのはアドリブじゃない。いらないものを出したら、それはノイズ。作品にとってはゴミなんです。だから実はすごく難しい。

    林原:他人にウケようとしたり、自分はこうしたいっていうエゴが混ざるとね……。

    犬山:必要なものとしてそのキャラから出てくる言葉。ムサシの場合は多い。気持ちがいい。

    林原:嬉しい。ムサシはテンションが乗ってきちゃうと。「もう一声!」ってなっちゃう人だからね。

    三木:林原さんがやりたがってるわけじゃない。3人でいると自然と生まれるテンポがあるんですよ。

    男女の友情はなぜ成立するのか?

    ――……ムサシとコジロウって恋愛関係にならないのですか?

    (一同爆笑)

    林原:あるわけない!

    三木:一切ない! 一切ないね。怪しいことも何一つない。

    ――でも、コジロウの許嫁のルミカはムサシに似てましたよね?

    三木:声……一緒だしね(ルミカの声優も林原さん)。僕たちの間では「絶対ない」と思うけれど、子供から見た大人って、愛とか恋とか、友情とは違う縁で結ばれているように見えるかもしれませんね。

    犬山:恋愛沙汰があったら、ロケット団の関係はこんなに長く続かないよね。絵面だけではシュッとした男女がバラを背負ってて、なんだか不思議ですけど。

    林原:ムサシはウエストを出して、タイトなミニスカートを履いてるのに……

    犬山:1ミリもエロくない。

    三木:あれは林原さんの力じゃないの? 素晴らしい。

    林原:ちょっと!

    ――子供が見る番組だから、色気を抑えるような工夫をしてる……とか?

    (一同爆笑)

    三木:林原さんが!!……林原さんが……!

    犬山:林原さんは「フェロモンがほしい」とよく言ってて、そういう本を買おうとしていましたからね。

    林原:20年も前ですけど、あまりに色気が足りないから本屋で見つけた「5分でフェロモンが出る本」に手を伸ばしかけたぐらいですよ。でも、「だめだ! そんなものは本にもらっちゃいけない!」って、手を止めたんですけどね。買っておけばよかった。

    三木:役では大丈夫でしょ。

    林原:役ではね。でもムサシには一滴も色気を入れられなかった。

    ©Nintendo・Creatures・GAME FREAK・TV Tokyo・ShoPro・JR Kikaku ©Pokémon

    ――男女の友情ってどうすれば成立するんでしょうか?

    三木:男と女から始まるから、うまくいかないんじゃないかな。

    林原:出た! 哲学ー! 三木君はすぐ難しいがお上手~。

    三木:ちょっと! 仲のいい人がたまたま女と男だったとすれば、友情は成立するって話ですよ。ロケット団なんて、男・女・ポケモンだからね。仲よくなった相手が、どれも異性……なのかな。

    六角形のレーダーチャートで強みを表すならば、ムサシ、コジロウ、ニャースって、それぞれ六角形のバランスがいびつなんだと思います。でも、3人揃うと六角が100点になる。

    犬山:ムサシが一番鋭角のグラフで、コジロウが中間管理職的で一番大変そう。ニャースはスルーする術を知ってますから、都合のいいときだけ、ポケモンのフリをするというか……。

    三木:ニャースはもはや人だもんね。

    犬山:人……だね。「ニャーもポケモンだったのニャ」って思い出す程度には、自分がポケモンだってことを忘れている。

    三木:お互い偏見なく、フラットに接してる。

    ――こんなにもタイプが違って、それぞれ自己主張するタイプなのに、ずっと仲良くやっていける秘訣ってなんだと思いますか?

    林原:黒いロケット団にならない理由が、きっとどこかにあるんでしょうね。朱に交わっても赤くならない。黒い方に行けば、野宿をしなくて済むし楽でしょう。でも、それを望んでいない。このどうしようもない現状でボスに貢献したい。共通認識が3人をつないでいるんです。

    三木:彼らは、ポケモンを傷つけている人を見ると、「ひどいことしやがって!」と怒る。

    ポケモンをモノではなく、ちゃんと生き物として認識していて愛しているんですよね。なまじ一緒にいるしね。

    林原:ポケモンのことを思って別れることも多い。ムサシだったら、ドクケイル自身の恋愛成就を祈って、「行きなさい」と手放すシーンだったり、コジロウだったら『劇場版ポケットモンスター アドバンスジェネレーション ミュウと波導の勇者 ルカリオ』でのチリーンに対する行動が好きですね。

    三木:コジロウが「お前だけでも(逃げるんだ)」とチリーンを庇って身代わりになるところね。

    コジロウのポケモン、チリーン。/ ©Nintendo・Creatures・GAME FREAK・TV Tokyo・ShoPro・JR Kikaku ©Pokémon

    林原:普通、ポケモンは戦わせるものなのに。

    三木:愛情深い。

    林原:根底にある人の良さ。ニャースが言ってた……悪の悪じゃなくて……。

    犬山:「悪の悪じゃなくて、正義の悪なのニャ」(笑)

    一見矛盾しているようですけど、ロケット団の中では一貫している。

    ――ドジでお人好しなロケット団から一転、シリアスな「悪役」に徹した時期もありました。

    林原:あれは3人にとって修行の時期。「自分たちは悪だったんじゃないか」と冷徹になるんですよね。寂しかった……。最初から、冷たい役だったら別ですが、心の交流を描くのが難しくて。

    犬山:シリアスに振舞っても違和感があって、ニャースがどんどん無口になった。それまでは人間味溢れる感じだったので、まさに修行でしたね。

    三木:ロケット団は中身は優しさと思いやりでつながっていますからね。修行が明けてよかった。

    22年目にしてロケット団に新しい展開が……

    ©Nintendo・Creatures・GAME FREAK・TV Tokyo・ShoPro・JR Kikaku ©Pokémon

    ――アニメ「ポケットモンスター サン&ムーン」で7月21日に放送された「ムサシVSコジロウ!愛と真実のバトルフィールド!!」では、ムサシとコジロウが初めてバトルしました。

    林原:台本もらったときに「なんで?」と思いましたね。ムサシの私なのか、私自身なのかわからないけど、コジロウはロイヤルマスクが大好きだから、ロイヤルマスクと戦わせてあげたいと思ったの。でも、絶対私が勝つ!という相反するふたつの気持ちが湧きました。

    三木:コジロウ的には、ムサシに勝利を譲るんだろうな、と。

    犬山:わしは絶対コジロウが勝つと思ってた。

    三木:なんで!?

    犬山:そっちのほうが面白いから。

    三木:ちょっと待って(笑)。安易にコジロウがムサシに勝つと大変なことになるから!

    犬山:大変さを描くのかなと思った。

    ©Nintendo・Creatures・GAME FREAK・TV Tokyo・ShoPro・JR Kikaku ©Pokémon

    ――なぜ、コジロウは正々堂々戦うことにしたんでしょう?

    三木:ポケモンに対する愛ですよ、絶対。特に愛情深いヤツだから……。根底にあるポケモンへの愛がムサシと戦うことを選ばせたんじゃないかな。

    でもその後の展開が痺れましたよ! ムサシが怒ると思いきや……

    林原:……受け入れちゃったね。

    三木:新しいムサシが登場した。「勝ってきなさいよ!」と送り出す。

    林原:多分、このリーグで勝ち上がることにはそこまで興味なかったんじゃないかしら。執着してなかったのよ。

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    三木:ムサシは切り替えがすごく早いからね。バーっと突っ走ってみてダメだったら、スパッと違う方に向かうじゃない?

    林原:それは自分と似てる。逆に三木君とコジロウは切り替えが遅いところが似てる。

    三木:粘り強いって言って! …夜、絶対酒飲もう(涙)。

    大人の友情

    ――みなさんも、まるでロケット団のようなチームワークで……。

    林原:役からもらっているのか3人の雑談からもらっているのか。私たちはお互いの話をよくするんですよ。仕事もプライベートも本当にいろんなこと。夜中まで撮影だった、舞台はこういうのをやっている……みたいな。今、何が大変で、どう頑張っているのかをなんとな~く知ってる。そして全部は知らないし知らなくていい。

    会話の中でお互いを思いやったり、何気ない一言で救われたり。ロケット団を離れた所でのコミュニケーションが、私たちそれぞれにプラスになっているんです。

    三木:3人でいるときにしか生まれないことが、たくさんある。そもそも、合わない人と20年も一緒にできないですよ(笑)。

    林原:でも仕事だから、合わない人ともやらなきゃいけないときもあるかもしれないじゃん!

    三木:そうなったら本当に大変でしょうね! 2対1で対立したら、目も当てられないですよ。

    そういえば、この3人で2対1に意見がわかれたことがない。スタジオの中で他の声優さんたちのセリフで素晴らしいものがパン!と生まれた時、みんなで「いいね」って言い合うんですよ。

    犬山:「いいね」と思う箇所が同じだから笑っちゃうよね。

    三木:ちゃんと同じ方向を見て仕事ができてるって実感しますね。

    ――ロケット団の人間味とみなさんのチームワーク。愛される理由を感じました。

    三木:愛されてる悪役という手応えは……正直ないんですよ。

    犬山:悪役っていう存在自体も危ういから(笑)。

    林原:でも、2017年にロケット団が使っているニャースの気球が実際にお披露目されたときは、ちょっと感動しちゃった。

    初めて知ったんですけれど、気球って膨らますのってものすごく大変なんですね。

    【明日のポケんち】明日のポケモン交換旅に、ニャース気球が登場!大空からポケだちを探そうと、あばれる君とピカちゅうえいを乗せて飛び立つ!日曜あさ8時! https://t.co/O4XBQJJPIW #ポケモン #ポケんち

    犬山:強風でイベントが中止になったくらい。

    林原:ニャースの気球がヘロヘロと大きくなって、それを色んな人たちが「頑張れ!」と拍手しながら応援してくれて。

    ARでもVRでもなくて、現実にあの気球をみんなが見ている。ロケット団すごいって思いました。

    三木:ポケモンの世界にあるものが現実に生まれるすごさってあるよね。

    林原:ただの悪役だとしたら、こんなに素敵な思いをさせてもらっていない。ピカチュウが毎年横浜で大量発生するのは知ってるけど、ニャースの気球がお披露目になろうとは。

    三木:愛されてたんだね。

    林原:過去形にしないで!

    三木:愛されてるって言うと、いやらしいでしょう?

    林原:そういうところもコジロウっぽいよね!


    テレビアニメ「ポケットモンスター サン&ムーン」

    毎週日曜ゆうがた6時~テレビ東京系列にて好評放送中!https://www.tv-tokyo.co.jp/anime/pokemon_sunmoon/