大人になると、絵も文字も消えて読めなくなってしまう——。そんなネバーランドの魔法がかかったピーターパンの絵本が話題を呼んでいます。
日が経つにつれて読めなくなるピーターパンの絵本を作りました。絵と文字が日焼けした後と同じ色に印刷されていて、絵本を渡された子供が大人になる頃には絵本全体が日焼けして内容が見えなくなっているという仕組みです。ここには載っていませんが… https://t.co/9yGknKnxxZ
ネバーランドの物語は消えてしまう
この絵本では、空を飛ぶピーターパンの挿絵や文字など、ネバーランドにまつわるものが全て、20年の月日をかけて日焼けした絵本の色を再現したインクで印刷されています。

そのため、絵本を初めて手渡された子どもたちが大人になるころには、絵本全体が日焼けして、ページに残されるのは黒いインクで印刷されたロンドンの街並みや月などの現実世界のみ。
ピーターパンと子どもたちが繰り広げるネバーランドの冒険物語は、読めなくなってしまう仕掛けになっています。

いつか読めなくなる本だからこそ
絵本を制作したのは、多摩美術大学に通う岡松由華さん(@annko64)。
「新しい読書体験を考える」という大学の課題が出された際に、岡松さん自身もこれまで本を買ったことに満足して、最後まで読まないことがよくあると気づいたそう。
そこでたどり着いたのが、「いつか読むことができなくなる本」というアイディアだったとBuzzFeed Newsの取材に話します。

「今まで自分がどのように本と触れ合っていたかを考えたときに、よく自分がしてしまう行為の内の一つに『本を買った事に満足して、結局最後まで読まずに本棚の奥底で眠ってしまう』ことがよくありました」
「これは、本の『時間に左右されずいつでも読めてしまう』特徴の表れで、これが本当の意味で本の寿命を縮めているのではないかと思いました」
「そこで『いつか読むことができなくなる本』があれば、より読む事のできる時間を大切にできるのではないか、と思ったのがこのアイデアの始まりです」

完成した絵本をTwitterで紹介すると、リツイートは4万8千件を超え、「ピーターパンが見えるのは子ども時だけって発想力に脱帽」「これぞ子どもの国ネバーランドを表してる絵本」と称賛する声が寄せられました。
子どものころのワクワクは忘れない
まだ絵本は販売していないものの、今後装丁や内容をブラッシュアップして商品化を目指したいと岡松さんは話します。
ピーターパンが子どもたちと空を飛ぶページに添えられたのは、「子どもたちはやがて大人になって、この冒険を忘れてしまいましたが、ウェンディーだけはいつまでも忘れませんでした」の文字。
「この絵本を誰に手に取って欲しいですか?」という問いに、岡松さんはこう答えました。

「ぜひ親子で読んで欲しいです。みんな子どもだったころがあり、その記憶の全てを大人になってから思い出すことはもしかしたら難しいかもしれません」
「しかし、それでも絶対に子どものころに感じていた温度やワクワクした感覚はなくならないと思います」
「絵本を渡された子どもが大人になったとき、この作品を通じてあのときの感覚をまた思い出してくれたら、そしてまたそれが親から子へと続いていけばいいな、と思っています」
