「高齢ドライバー=危険」ではない。専門家が語る実態と家族にできること

家族にもできる支援。家族だからできる支援。

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「高齢ドライバー=危険」ではない。専門家が語る実態と家族にできること

家族にもできる支援。家族だからできる支援。

押し寄せる高齢化の波。その影響がにわかに現れ始めているのが、高齢ドライバー問題だ。

メディアで取り上げられるたびに、インターネット上を中心に湧き上がるのは、免許返納に関する議論。しかし、返す・返さないの単なる二元論には収まりそうもない。高齢ドライバーをめぐる問題の実態と解決法を探った。

高齢ドライバー事故に関する「ありがちな誤解」とは

「高齢ドライバーの事故が急増」──このようなフレーズで高齢ドライバー問題が取り上げられる機会は少なくない。2018年の死亡事故件数を年齢層別に見ると、運転者が75歳以上の場合、75歳未満の約2.4倍高い。しかし、この数字は必ずしも、実態の理解につながる事実ではない。

高齢ドライバー問題は、誤解されている部分も少なくないと指摘するのは、NPO法人 高齢者安全運転支援研究会の平塚雅之事務局長だ。

「大きな事故の報道ばかりが注目され、『最近の高齢ドライバー=危ない』という構図が浸透しています。たしかに、過失の最も重い第一当事者が75歳以上の死亡事故件数は、2018年に前年の418件から460件に増えています。しかし、これは高齢者自体の人口が増えているだけで、事故を起こしやすくなったわけではない。事実、人数当たりの件数に直すと、ほぼ横ばいか減少傾向にあるのです」

「高齢ドライバーの人口が増えれば、件数も増えるのは必然なのに、単純な事故件数の増減だけを見て慌てている。適切な情報が少なく、正しい理解ができていない状態です」(平塚さん)

「免許返納を促す動き」に少しずつ変化

「道路交通法が改正された2017年頃は、国も自治体もみんな免許返納させようとする動きでした。高齢者の安全運転を支援する我々へも『どうしたら免許を返納させられるか』という講演依頼が多かったですね」

しかし、この1年半ほどで風向きが変わり、最近は「どうすれば安全に長く運転できるかのコツ」についての依頼が増加したと平塚さんは言う。

都心のように代替交通網が発達している場所ばかりではない。日々の買い物、通院はどうするのか。

「高齢ドライバー問題について語るときにありがちなのが、『高齢者は免許返納しましょう。でも、地方は車なしでは生活できないので、移動手段の確保が課題ですね』という抽象的な話。しかし、これは野球とサッカーを同時に語るようなもの」(平塚さん)

本来はそれぞれ対応を検討すべき問題であると、平塚さんは強調する。「車がないと生活が立ち行かない。それなら、運転していいのでしょうか。答えはNOです」

このような高齢ドライバー問題の対策として、免許更新の際に行われるのが、70歳以上に義務付けられた「高齢者講習」。そして、75歳以上が対象の「認知機能検査」だ。

警察庁の「認知機能と安全運転の関係に関する調査研究報告書」によれば、2018年に認知機能検査を受けた約216万5000人のうち、第1分類と判定された人は約5万4700人(2.5%)。さらに、第1分類と判定されて処分などが決定した人のうち、65.2%が自主返納または、更新しないままの失効で免許を手放している。

とはいえ、認知機能検査は高齢ドライバーの事故抑止に、必ずしも有用とは言い難い。ここで測れるのは、認知症の中でも日本人に最も多いアルツハイマー型のリスクだけなのだ。

それよりも、歳を取るほど顕著になる“運転のクセ”こそ、危険をはらんでいると平塚さんは指摘する。「日本の運転免許は基本的に、視力検査さえ通れば更新し続けられるシステム。高齢者講習を受けるまでの約50年もの間、ドライバーは誰からも、1度たりとも運転指導を受けません。この“空白の50年”の中で染みついたクセは、おいそれとは直せなくなっているのです」

安全運転のカギは、経年変化を捉えること

2020年に全員が70代を迎える団塊の世代(1947年~1949年生まれ)は、生活のためだけではなく、ライフワークとして運転が組み込まれ、生活の中心には常に車があった世代だ。

「自動車がアイデンティティの一つであることに加えて、おおむね9割以上の高齢ドライバーは『自分の運転はうまい』と思っている。その背景にあるのは、これまで事故を起こしたり違反で捕まったりした経験がないこと。ですが、それは運転スキルの担保になりません」(平塚さん)

「高齢ドライバーは危ない」という先入観と同様に、「自分は大丈夫」という根拠のない運転への自信にもまた注意が必要だ。では、本当に危ないのか・どこが危ないのかを見極めるにはどうすればいいのだろうか。

平塚さんによれば、高齢ドライバーが口をそろえるのは、駐車する際の感覚の衰えだという。

「スペースに合わせて一発で停められなくなり、何度も切り返す。停められたと思っても枠に対してズレていたりする。目印を覚えている自宅ならうまく停められても、目標物のない外出先だとミスが出てきます」(平塚さん)

また、同乗者との会話を嫌がるのも、高齢者に多い認知機能が低下しているサインだ。複数の作業を同時にこなすことが難しくなり、運転に集中したがるようになる。

運転支援テクノロジーの向上や運転免許制度の見直しなど、新たな高齢ドライバーの事故防止策が期待されるなか、このような項目によるチェックは、ドライバー本人が変化に気づく自衛策であり、その家族にもできる最も身近な安全対策だ。

日産自動車が展開中の取り組み「#助手席孝行」のように、家族が同乗してドライバーの運転技術をチェックするのも有効だと平塚さんは話す。

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日産自動車 / Via nissan.co.jp

「子どもが助手席に座り、親の運転能⼒を自身の目で確かめてみよう」と呼びかける取り組み

ただし、気になるポイントがあっても、ドライバー本人に伝える際には心構えが必要だ。

「家族に『ここが危ない』と言われても、高齢者はなかなか素直に聞いてはくれません。コツは、指示・指摘ではなくお願いで伝えること。たとえば、『もうちょっと速度落として』『酔いそうだから、もうちょっとゆっくりブレーキを踏んでくれる?』などです」(平塚さん)

「大切なのは、1回だけでなく半年に1回など継続的にチェックして、経年変化を見ていくこと。気になる項目が増えなければ安定している証拠です。本人と家族のチェックとを比較すれば、自己認識の甘さに気づけますし、親子で安全運転について話し合うきっかけになります」

もし一緒に助手席に座ってドライブする時間がなければ、車の周りをぐるっと見て回るだけでも意味があると、平塚さんはアドバイスする。

「運転席側にキズが増えていたら要注意。一番見えやすく、ぶつけにくい箇所です。それに加えて、実際に運転をチェックする。自分の目でちゃんと親の運転が危ないか安全かを見極めてください」

All interview photos by Warach Pattayanan(vvpfoto) for BuzzFeed