客層の変化で増える声優ライブのマナー違反 ホリプロはサイリウム禁止を発表

    10月に大橋彩香さんにサイリウムが投げられる

    10月29日に都内で行われたライブイベント「Super Anisong Ichiban!!!!」で客席からステージで歌っていた人気声優の大橋彩香に向かってサイリウム(ケミカルライト)が投げられる事件があった。

    幸いサイリウムは大橋さんにかすった程度だったものの、警備員が該当者を特定。すぐに事情を聞き、運営に差し障るため退場させた。

    ライブを主催し、大橋の所属事務所であるホリプロでは11月30日に所属する大橋、大木貢祐、木戸衣吹、田所あずさ、Machico、山崎エリイの「ライブ観覧における参加規約」を発表。

    今後、ペンライトやサイリウムの使用、適切でない大声を張り上げるMIXなどの行為を禁止する。

    「投げられたことには僕らもショックを受けています」

    「Super Anisong Ichiban!!!!」を主催するホリプロの担当者によれば、大橋さんに飛んだサイリウムは1本。ホリプロとしてもアーティストにサイリウムを投げられたのは初めてのことだった。

    「サイリウムを投げたという事実に関しては、故意か故意じゃないかでいえば故意だと思います。ただ会場ではサイリウムが投げられる前にはペットボトルなども投げられていて、気持ちが高ぶっての行動かと思います。大橋を傷つけるつもりはなかったと思いますが、真意はわかりません。投げられたことには僕らもショックを受けています」

    アイドルや声優ライブのグッズであるサイリウムは、中のガラス製アンプルを折ることで光る。

    国内の製造メーカーである株式会社ルミカは「余程の衝撃がない限り、液漏れや中のガラスが飛び出ることはありません。その分、外を覆うプラスチックは頑丈で、当たればかなり痛い。そもそも投げることを想定していない」と危険性を語る。

    サイリウムを投げる行為は論外だが、肩車をしたり、腕を振り回したりといった”オタ芸”も目立つようになってきた。

    もともとグループアイドルの現場で生まれた「オタ芸」だが、現在では声優のライブでも増加。周囲に被害が及ぶ可能性があり、オタ芸を禁止している声優も多い。

    担当スタッフは「声優やアニメのライブ全体として、お客さんがヒートアップしすぎて、アーティストがやりにくい状況が最近ぽつぽつ出始めている。私たちとしては、結果として動員が減ってしまうかもしれないけど、そういう人を減らしていきたい。よりよいライブを作れるお客さん、アーティストと一緒に歩んでいければと考えています」と話す。

    「アイドルと声優の2つのファンが相互流入し、急速に文化が近づいていると感じます」

    そう語るのは漫画家の藍さん。アイドルファンを題材にした漫画「ミリオンドール」の作者で、自身もアイドルのライブに通う。アイドル業界についてのトークイベントも開催している。

    以前から迷惑行為をするファンは声優のライブでも存在したが、全体的には大人しく、静かに見たいというファンが多かった。

    しかしアニメ「ラブライブ!!!」から派生したμ'sや「アイドルマスターシンデレラガールズ」などのヒットによりアイドル声優ファンが急増。

    声優やアニソンアーティストを集めたライブフェスイベントも増え、客層が変わり始め、「厄介」と呼ばれる迷惑行為をするファンの相互流入も始まったという。

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    アイドルライブでサイリウムを投げるファンたち

    サイリウムを投げる行為は、アイドルファンの中で「スターダスト」と呼ばれる。もともとは手が滑って、サイリウムが空中を飛ぶことを指していたが、いつしか故意に投げる行為へと変化してきた。

    アイドルグループ「でんぱ組.inc」の最上もがさんは2015年、ライブで見られたサイリウム投げに対し、ツイッターで「誰かに迷惑をかけるやり方は最低だと思ってます」と不快感を示している。

    2016年9月に行われたアイドルフェス「@JAM×ナタリー EXPO 2016」では、アイドルグループ「ベイビーレイズ」のライブ中、事前に注意したにもかかわらずサイリウムが投げられ、メンバーたちがステージ上で泣いて抗議する場面自体もあった。

    藍さんによれば、アイドルライブでも声優ライブでも、ライブに慣れていない若いファンが集団心理で迷惑行為に走るケースが増加している傾向にある。

    「会場の規模が小さいころからのファンは、迷惑な行動をとったら現場がなくなるという心配がつきまとっていました。アイドルも声優もそうですが、マイノリティであると認識しているジャンルでは、自浄作用が強いんです。厄介なファンは少数派だったり数が決まっていました。最近は大型フェスも増え、業界も安定したので、その時楽しければいいフェス感覚のファンが増えたように感じます」

    アーティストやスタッフは最後にはファンを信じるしかない

    ホリプロの担当スタッフも声優とアイドルの垣根があいまいになっているとした上で、現在は過渡期だと話す。

    「声優が小学生のなりたい仕事のランキングに入っていますし、興味を持ってくれている人は増えている。声優が一般的なものになりつつある中での難しさもあるのかなと思います。さらに声優業界が広がる前の状況なのかもしれません」

    大橋さんの事件後、ホリプロは関係のあるイベンターたちと協議。11月30日にライブ観覧における新たな参加規約を発表した。

    サイリウムやペンライトについては、これまで極端に長いものや大型のものに関し禁止していたが、今後は全面的に使用禁止。

    暴れて周りに迷惑をかけるオタ芸に加え、適切ではない大声を上げるMIXなどの行為も禁止。確認がとれ次第、退場処分となる。

    「ただ基本はお客さんとファンと一緒によいライブを作っていきましょうという思いです。それを1%の人たちの行為で崩してしまうのはみんなの損だから、その意識を持って楽しみましょうと訴えたい」(担当スタッフ)

    対策は講じるものの、最終的にアーティストもライブ主催者も、ファンを信頼することしかできない。

    その思いに応えるか、思いに反しアーティストの笑顔を奪うのか。選ぶのはファンだ。