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権威ある医学書がダジャレでPR 背景に「難しい本が売れない」現状

「ハリソン内科学」のチャレンジ。

「ハリソン内科学」をご存知だろうか? 医療関係者ならほとんどの人が名前を聞いたことがある、権威ある教科書だ。お値段、2万9800円(税抜き)。

その「ハリソン内科学」がTwitterで話題になっている。それが14日付の朝日新聞朝刊の一面広告。

ひょっとして、あの有名なご飯のお供とかけている? 権威ある本だけに、誰もがその真意を測りかねていたはず。そして……。

4月14〜16日に開催された第114回内科学会で、実際に設置されたブースがこちら。「大しゃもじ前」って、そういうことかよ。

購入特典と引き換え券をかねまして、「小さいハリソンしゃもじ」を使おう、と。コチラのしゃもじ、ご購入後、お持ち帰りいただけます。あと、焼印なので実際に使えます。内科学会限定企画!

ハリソン内科学は見た目の通りかなりの重さなので、レジまで持ち歩くのも大変。そこで引換券としてしゃもじを用意したとのこと。とはいえ、そこから家までは持って帰ることになるんじゃ……?

「広告のセンスがよくわからない」「スベってる感じもある」などの意見もあったが、ネットユーザーには概ね好意的に受け止められていた。

ハリソン内科学の第5版が発売されたのは2017年3月。第4版が発売されたのが2013年なので、4年振りの改訂になる。

このタイミングで、どうしてこのようなプロモーションに踏み切ったのか。BuzzFeed Newsは先述の告知を行ったTwitterアカウント「ハリソン内科学【公式】5版ですよ」の“中の人”を取材した。

——あえてお聞きします。なぜ、「ごはん」「しゃもじ」だったのでしょうか。

「5版」と「ごはん」をかけています。

——ダジャレでしょうか。

はい、ダジャレです。「ハリソン内科学 第5版」ということで、改版のアピールと短く伝わりやすいキャッチーさを検討した結果、「5版ですよ」というコピーになりました。

ハリソン内科学は世界的に最もメジャーな教科書ですが、国内では敷居の高いイメージがあります。それゆえに「ご飯のように、日本人医師、医学生にとって当たり前の存在になってほしい」という意図をコンセプトに含めています。

その結果、サブコピーや関連書籍の販促などでも「食欲」を喚起するような言い回しを使用しています。

——これだけ権威ある本が、なぜダジャレを?

医師や医学生には意外と知られていないのですが、現在国内ではハリソンなどのいわゆる「成書」と呼ばれる教科書の需要が、とても落ち込んでいます。

著名な先生方や指導医がどれだけ「読みなさい」と言っても、多くの医学生、若手医師は簡便な医学書に流れてしまう傾向にあり、弊社だけでなく教科書を出している版元にとっては大きな課題となっていました。

——医師や医学生も、難しい本よりは読みやすい本を選ぶ現状があるのですね。

はい。普通の販促で行き詰まっていたこともあり、第3版の頃から、発行元のメディカル・サイエンス・インターナショナル(MEDSi)では、医学生さんたちへの直接営業をスタートしました。

最初は純粋に営業として医学生さんたちと知り合っていったのですが、接点を増やすにつれて、彼らにとっての「ハリソン内科学」のイメージが具体的に見えてきました。

結論からいうと、ハリソンと読者との距離が遠かったんですね。それがわかってから、当時はまだ医学書業界では珍しかったTwitterを活用した販促を始めました。

——なるほど。「ハリソン内科学【公式】5版ですよ」さんは、確かにとっつきにくくないですね。

ギリギリのラインでハリソンの権威を落とさない「ユルさ」をコンセプトに運用しています。

——とはいえ、権威のある教科書です。怒られたりしませんか?

それは、もっとも気を使っている部分です。実際、そうした声もいただいておりますし、「ハリソン内科学」のアカデミック感というのは、ブランディングをする上でも重要なところですので。

一方で、ハリソンのような「成書」が使われていない現状があることも事実です。怒られる方の多くは、こうしたPRをされなくても能動的に勉強をされてきた方々なんです。

まずは「ハリソン内科学」は学生の時分から読みはじめても良い本であり、生涯手元に置いておくべき本でもある、そういう「存在」そのものに気づいていただくにはどうすればよいか、ということを考えています。

——Twitterはそのきっかけになるということですね。

はい。やはり、一番効果があるのはクチコミです。だから、興味関心を持ってもらい、話題にしていただけるようなメッセージを作り出すことに本気で取り組みました。

今回の内科学会では、多くのベテランドクターからも感想をいただきましたが、意外なことに、肯定的に受け止めてくださる先生方がほとんどでした。

われわれが想像しているよりも、医師の方々にとって医学書、特にハリソンのような本は身近なものなのだなぁ、と痛感しております。

実際に、日本内科学会のブースは完売。好評を博していたという。「難しい本は売れない」のではなく、工夫次第なのかもしれない。

内科学会会場で先生方とお話をしていて「しゃもじが欲しい」と言われるのは嬉しいし、失笑しながら「ハリソンは買うけどしゃもじはいらない」って言われるのもそれはそれで味わい深くて嬉しい。なんにせよ、いちスタッフがしゃもじネタで先生方とお話できるからそれだけで作って良かった。