蓮舫・民進党の本当の敵はどこにいる?失敗の経験から学べること

    「党内がバラバラで分裂」という悪癖は治るのか?それは、政策以前の問題……

    蓮舫さんより注目された、あるスピーチ

    「珍しく良い演説が聞けたよ」「今回は力が入ってたね」

    2016年9月15日、東京。民進党代表選の会場で、普段、辛口な記者たちが口々に賞賛したのは、新代表に選ばれた蓮舫さん(48歳)ではない。

    影の主役は、同じく代表選に立候補し、敗北を喫した前原誠司さん(54歳)だった。

    投票直前、所属国会議員らに政策を訴える最後のアピールの場。そこで、前原さんは自身の政策を訴えるより先に、蓮舫さんに教訓を生かしてほしい、と自身の失敗に言及した。

    「蓮舫さん、素晴らしい候補です。時流は女性だということをまじまじと感じて、なんで僕が立候補したんだろうと思いました」

    「ひとつだけ、蓮舫さんに申し上げておきたいことがある。それは私の失敗の経験です。11年前、私は(旧民主党の)代表にならせていただきました。43歳。期待をされながら7カ月で辞めました。大事な同志を失いました。偽メール事件というものが起こりました」

    偽メール事件。2006年のことだった。当時、社会問題となっていたライブドア事件と、自民党との関係を追及すべく、前原さんがトップにいた野党・民主党は1通のメールを証拠にあげた。しかし、メールは偽造されたものだった。

    前原さんは責任を取り辞任、追及の先頭に立った衆院議員は、のちに自ら命を絶った。危機管理能力の低さが露呈し、民主党、そして前原さんは強い批判にさらされた。

    「あの教訓は、しっかりと裏付けをとること、そして見通しを甘くもたないこと、すべての情報を開示すること、国民の前で真摯であること。これが私の未熟さで足りませんでした。ぜひ、蓮舫さんが代表になられて、私の失敗の経験をいかしていただきたい」

    時間にして、約1分40秒。決して声を荒げることなく、一語、一語、静かに、しかし、はっきりとした口調で語りかけた。

    「失敗の経験」をいかせるのか?

    「失敗の経験」から学んだ姿を見せることができるのか。政策を訴える以前の問題を解決できるのか。蓮舫・民進党、立ち上がりの課題は、これに尽きる。

    前原さんはBuzzFeed Newsのインタビューで、民主党政権の失敗について、こんな分析を語っていた。

    「党内がバラバラで、ケンカして分裂する。離党者も相次ぎました。国民はなんだこいつら、と思ったでしょう。与党としてのガバナンスがないまま、人の好き嫌いで政治をしていた」

    「自民党も幅広い考えを持った人が集まっていますが、相手を倒すまで殴らずにまとめる大人の知恵がある。私たちはなかったんです」

    火種があるときこそ団結ではなく、人の好き嫌いを重視して分裂する。異論を出し合うことと、合意を作り上げることの区別ができない。政策よりも党の問題ばかりに追われ、結果、信頼は低下し「自民党に代わる政権交代可能な政党」は、絵に描いた餅になる。繰り返されてきたパターンだ。

    民進党は「チャンスをピンチにしている」

    民進党最大のリスクは外側ではなく、内側にある。

    例えば蓮舫さんの二重国籍問題。蓮舫さんは、この日も「私の不確かな記憶や発言でご迷惑をお掛けしたことをお詫び致します」と謝罪した。

    これまで、蓮舫さんの姿勢に「納得ができない」と批判したのは、一部の保守派、ネットユーザーだけにとどまらない。当の民進党内部からも、選挙期間中、公然と出馬取りやめを求める声があがっていた。

    ある民進党国会議員は「蓮舫さんが代表に選ばれたからといって、(批判をしてきた)彼らが納得したわけではないでしょう。何かあれば、すぐにまた批判を展開して、ごたごたを印象付けられます。ここぞというときに、党内が分裂してきた過去から何を学んでいるのだろう」と嘆き、こう続ける。

    「普通、代表選をやれば支持率は多少なりとも回復する。しかし、そうはなっていない。これが現実です。私たちはピンチをチャンスにするのではなく、チャンスをピンチにしている」

    蓮舫さんは日本への「愛」を強調する

    蓮舫さんは、批判を強く意識したのだろう。臨時党大会で、ルーツを遡り台湾の祖母から、自身の半生までを語ることで理解を求めた。

    「日本統治時代の台湾で生まれたおばあちゃんは、女手ひとつで父を含む4人の子供を育てました。時代は変わり、長い日本の統治が終わりました。白色テロ、戒厳令のもとで生きたおばあちゃんは、子供たちにいつか女の子が生まれたら、蓮という字をつけてほしいと強く願ったと、父から何度も聞かされました」

    「蓮は平和の象徴です。初めて生まれた女の子は私でした。おばあちゃんは私に、いつか幸せの時がきたら、いつか平時のときがきたら、蓮の花を人々が愛でる静かな時間が持てるように、蓮の花の船をいくつもいくつも、紡いで、つないでいくことができるようにと、蓮舫という名前をつけてくれました」

    「日本、台湾、中国……。戦前、戦後、激動の混乱の時代を生きたおばあちゃんが、平和の願いを込めて私につけてくれた蓮舫という名前に私は誇りを持っています」「私は、蓮舫という名前で17歳のとき日本人として生きることを自ら選択しました。日本人であることを誇りに思い、我が国を愛しています」

    自身に向けられた声に抗うかのように、繰り返し、日本への「愛」を語る蓮舫さん。新代表選出後、初めての記者会見。すべての質問が終わったあと、後方に掲げられた国旗に向かってそっと一礼をして、壇上を降りた。

    前原さんは語る「個人の問題が党の問題になる。それが代表になるということ」

    すべてが終わった後のことだ。すっきりとした表情を浮かべていた前原さんは、BuzzFeed Newsにこう語った。

    「蓮舫さんへのメッセージは今日になって入れようと決めました。私も多様性は大事だと思っていますが、この問題について誰かが言わないといけない」

    「代表になるということは、個人の問題が党の問題になるということなんです。党を巻き込むことの重みを受け止めてほしい。リスクマネジメントをしっかりやってほしいということです」

    「私はみんなに迷惑をおかけしましたからね……。狙い?もちろんエールですよ。うまくやってくれ、と」

    「失敗の経験」をいかすときは、今しかない

    果たして、うまくやることはできるのか。

    蓮舫さんは前原さんのエールについて「厳しい提言をくれるいい先輩がいると感謝しました。リスクマネジメントも含めて、これから気をつけていかなければいけないという提言もしっかり受け止めました」と語ったのだが……。

    問題が起きるたびに、ここぞとばかりに不満をぶつけ、団結よりも分裂を繰り返す悪癖をまたでるのか。それとも、最初の火種、党内に残るリスクをうまくマネジメントできるのか。

    蓮舫さんが目指す「新世代の民進党」になれるのかどうかの試金石はそこだ。

    華やかなイメージと、巧みな話術だけでは、すぐに限界がくるだろう。「失敗の歴史」から学んだ教訓をいかす機会は、今しかない。