津波のとき、車避難はダメなのか? 東日本大震災の教訓から学ぶ現実的な対策

    1枚の写真が広げた波紋

    11月22日早朝に発生した、福島県沖を震源とする地震。福島県、宮城県で津波警報が出され、住民らは避難に追われた。その様子を撮影した1枚の写真が波紋を広げている。

    #小名浜 港から内陸方面に避難する車で渋滞する市内(22日午前6時39分、福島県いわき市で、冨田大介撮影) #地震 #津波 #福島県

    福島県いわき市内で撮影されたものだ。避難する住民の車で道路が渋滞していることがわかる。これに対して、ネット上では「教訓が生かされていない」「車社会の地域の課題」などと声が上がった。

    そもそも車での避難をめぐっては、東日本大震災のときから議論が積み上がっている。東京大大学院で災害研究を進めている関谷直也・特任准教授(社会心理学)は、2012年の論文で検証している。

    車での避難禁止を呼びかけるだけで、問題は解決するのか。国土交通省の調査などでも、車での避難を選択した人は、決して少数ではない。そもそも、車で避難をした人たちは安全意識が低いわけではなかった。

    車避難を選択した理由は「車でないと間に合わないと思った」「家族で避難しようと思った」などが上位となり、「家族に避難困難者がいた」と答えた人も決して低くない割合で存在した。

    もちろん徒歩で避難できる場所にいて、間に合うならならば徒歩で移動すればよいのだが、渋滞した場合にすぐそこから離れることを前提とすれば、車での避難を容認せざるを得ない。

    都市部ならいざしらず、車がないと生活が成り立たない地方で、一概に車での避難はダメだと批判するだけでは、問題は解決しないということだ。

    何を学ぶべきなのか?

    関谷さんは、宮城県を拠点にする地方紙・河北新報のインタビュー「車での避難 こう考える」でもこのように語る。

    「車避難は掛け声だけでは抑制できない。災害時に『渋滞しない地域』では車を使っても構わないが、日ごろから車が混雑する『渋滞リスクが高い地域』は、要援護者を乗せた車も間違いなく渋滞につかまる」

    「問題解決の鍵は、車避難の抑制ではなく、渋滞が起きても避難できるよう、地域のリスクを減らすことにある」

    車避難に一定のリスクがあるのは事実だが、車による避難で助かった事例もある。東日本大震災の取材をしていたとき、園児を避難させたときなど、車に乗せてみんなで避難しないと間に合わなかったという声を聞いた。

    こうした現実を踏まえた、関谷さんの提言は重要だ。

    渋滞が発生することを前提にする。その上で、渋滞が発生しやすい場所がどこにあるのか。あらかじめ住民に示す。そして、津波が迫ってきたら、車を乗り捨てて逃げる。その際は、躊躇なく乗り捨てられるような対策が必要だという。

    「津波が迫る中で渋滞に直面すると、運転手は車で逃げるべきか、車を捨てて高台に上るべきか判断がつかない。後続車両に迷惑を掛けることへの気兼ねもある。ちゅうちょなく車を乗り捨てられる路側帯やモータープールを設け、津波避難場所までの誘導サインを掲げることが大事だ」

    いわき市在住のライター、小松理虔さんはツイッターで今回の教訓をまとめている。

    「小名浜地区でも『高台に避難しろ』と言われても、みんな車で避難するから特定の場所に殺到するし、高台ってだいたい登るための道路が2本くらいしかないので、二車線がすぐ埋まって渋滞してしまう。しかしこの地方で『車で避難するな』とは言えない。どう避難するか、世帯別で把握しておかないとな」

    人々の気持ち頼みではなく、地域や世帯ごとの現実を踏まえた対策をどう取るか。この次の災害を減らすために、問題設定を間違えてはいけない。